『忘却の都市』 歪んだ理想、揺るがぬ覚悟
「ボロボロじゃない。大丈夫?」
かけられた声に、神崎は少し口角を上げて答えた。
「……誰かが来るのが遅くてね。もう何度、宙を見上げたか忘れたよ」
軽口の中に安堵が滲む。
夏希の姿。
それだけで、緊張で張りつめていた神経が、ほんの少しだけほぐれる。
「……で、状況は?」
神崎の問いに、夏希は真っすぐな声で答える。
「安心して。そちらは任せてきた。あの人たちなら……きっと大丈夫」
神崎は短く頷いた。 何があったのか詳しくは分からない。
けれど、その目に宿る意思の強さが、全てを物語っていた。
それは“信じるに足る覚悟”だった。
「……分からないな」
ぽつりと漏れた呟きは、城戸のものだった。
冷静だったはずのその声音には、わずかに熱を帯びた感情が滲んでいた。
「君たちは、この“完成された都市”を壊してまで……一体何を求めているんだ?」
「犯罪のない平和。均衡の保たれた秩序。 この都市は、その理想を実現した——なぜ、それを受け入れられない?」
城戸の視線が、まるで“理解を求める者”のように揺れる。
「ましてや君たちは被害者だった。痛みを知っている者たちなら、なおさら分かってくれると思っていたのだがね」
その声は、怒りとも焦燥ともつかぬ“苛立ち”を孕んでいた。
彼の中の“正しさ”が、揺れ始めている。
「……君たちに私の意思を継いでもらうという考えは、まだ変わっていない。 だが——少々手荒になってしまうかもしれないが……我慢してくれたまえ」
その瞬間、城戸の周囲の空気が一変する。
静かな威圧が、嵐のように膨れ上がっていく。
そして——
最後の戦いが始まる。




