『忘却の都市』 反旗の音
その時、ふいにエレベーターの起動音がした。
低い振動音に、神崎と城戸は一瞬だけ動きを止める。
エレベーターがゆっくりと下降し、到着を告げる静かな音が鳴る。
扉が開いた。
姿を現したのは——進藤夏希。
ゆっくりと歩みを進めてくる彼女を、神崎は信じられないという眼差しで見つめた。
「夏希……どうしてここに? 地下の研究所は……」
思わず漏らした問いかけに、状況を忘れていた神崎自身が戸惑いを覚える。
その横で、城戸がふっと笑みを浮かべた。
「違うよ、神崎君」
淡々と、しかし確信に満ちた声。
「進藤君は——都市の中枢に何が眠っているかを知り、 システムの停止がどれほどの影響を与えるかを理解し——君を止めに来たんだ。違うかね?」
そう言いながら、まるで“正答を引き出す教師”のように夏希に視線を向ける。
しかし、夏希は黙ったまま歩き続けた。
一歩、また一歩——
そして、ふいに立ち止まる。
視線を正面に向け、凛とした声で言った。
「……城戸隊長」
重く、静かな呼びかけだった。
「あなたには、本当にお世話になりました」
「身寄りのない私を引き取り、まるで親のように育ててくれて……感謝してます。心から」
その真摯な言葉に、神崎が息を飲む。
だが——
エレベーターが“再び”動き出す音がした。
ギィィィィン……
明らかに、上昇ではない。
——下降。
「……!」
城戸の眉がわずかに動く。
夏希の言葉が、続く。
「でも、この都市の思想には——私は賛同できません」
彼女の背筋が伸びる。
「私は……この都市を。そして——あなたを、止めます」
その言葉は、宣戦布告ではなかった。
ただ、揺るがぬ意志の表明だった。
静かな——だが確かな決意が、今、動き出そうとしていた。




