『忘却の都市』 決意の分岐点
「……俺も、最初はこの都市が“素晴らしい場所”だって思ってた」
続けて、静かに、けれど力を込めて声を発したのは悠人だった。
「キレイで、安全で、何でも揃ってて……完璧に見える場所だった」
彼の言葉に、室内の空気がふと和らいだような気がした。
「でも、実際に過ごしてみると……なんか皆、親切なんだけど、どこか作られた表情っていうか……。 うまく言えないけど、人間味が、希薄なんだ」
誰も言葉を挟まない。ただ、彼の言葉に耳を傾けていた。
「城戸って人の考え方、まったく理解できないってわけでもない。俺もついこの間まで都市の外にいたから分かるんだ。どうしようもない人間も、確かにいる。 反省しない奴、自分の行動に責任を持たない奴。いるよ、そりゃ」
「でも……だからって。 誰かに従わされて償わせられるんじゃなくて—— そいつ自身が、罪を認識して、どういう形であれ自分の意志で償うべきなんだと思う」
その声には、都市での生活を通して育まれた違和感と、確かな実感が込められていた。
その言葉を聞き終えると、工藤はふいに立ち上がった。
視線を夏希に向ける。
「進藤夏希」
呼ばれた名前に、夏希は背筋を伸ばす。
「——あなたは、どう思う?」
唐突な問いに、言葉が詰まりそうになる。
だが、心の奥に芽吹いた声を、少しずつかたちにしていく。
「……正直、怖いです」
震えるような声で、それでも夏希は答えた。
「都市のみんなも、私自身も……システムが止まったらどうなるか、分からない。どれだけの人が、何を取り戻して、どうなってしまうのか……」
一度だけ息を吸い込む。
「でも……二人の話を聞いて、思いました。 やっぱり、罪は……犯した人間自身が、その責任を背負って生きるべきだって」
「今まで、私はそのことすら忘れて、普通に暮らしてきてしまってたんだから……。 これは、私達が支払うべき——代償なんです」
その言葉を告げるときには、夏希の目にはもう迷いはなかった。
まっすぐに、工藤を見据えていた。
工藤は三人を見渡す。
玲奈、悠人、夏希——それぞれの表情には違う覚悟が滲んでいた。
そして、静かに言った。
「……あなたたちの意見は分かった」
一拍置いて、肩をすくめる。
「残念ね。自分で、逃げる道を潰すなんて」
そのまま、ゆっくりと上着の内ポケットに手を入れる。
次の瞬間、夏希の身体が自然と反応した。
(まずい——)
身構え、立ち上がりかける。
「動かないで」
その声は、冷静でありながら鋭く、完全に“読まれていた”。
夏希の動きが、止まる。
工藤のは何かを取り出し、そっと——机の上に置いた。




