『忘却の都市』 開かれる代償の扉
「それは、どういう……」
理解が追いつかず、夏希は反射的に問い返した。
工藤はまっすぐな眼差しを向けたまま、静かに言葉を返す。
「言葉どおりの意味よ。怜奈を連れて——都市の外に出て。逃走ルートと手段は、こちらで確保する。」
あまりにも唐突な“提案”。
夏希の胸の奥に混乱が渦巻く。
だがその中でも、彼女は即答していた。
「それは……できません」
間を置かず、工藤がたずねる。
「なぜ? 見逃してあげるって言ってるのに。 しかも、あなたは罪を背負い、都市に囚われている側の人間でしょう? 外に出られるチャンスなんて多分、今後ないわ。」
沈黙。
数秒の沈黙のあと——夏希は、しっかりと前を見て言った。
「私……いや、私と神崎凛は、この都市のシステムを止めに来ました。この目的を果たすまでは、逃げるわけにはいきません」
その言葉には、決意と覚悟が宿っていた。
工藤は少し目を細め、表情を変えることなく問いを投げかける。
「あなたは…… いや、あなたたちは“その意味”が分かって言ってるの?」
その意図が読みきれず、夏希の眉がわずかに動く。
「……どういう意味ですか?」
それを聞いた工藤は、ゆっくりと背もたれに体を預け、小さく呟いた。
「……なるほど。 てっきり、すべて知らされた上でここまで来たと思っていたけど——どうやら全部を聞いているわけじゃなさそうね。」
わずかに皮肉を滲ませながらも、どこか迷いを帯びた声だった。
「いいわ、だったら教えてあげる。あなたたちがやろうとしていることが、この都市に——どんな代償をもたらすのかを」




