『忘却の都市』 接続される記憶
「でも……私も正直、この施設についてそんなに詳しくないんですよ。お役に立てるかどうか……」
怜奈は少し困ったように眉をひそめ、腕を組んで考え込む仕草を見せた。
その様子に——
夏希と悠人が、思わずふっと吹き出す。
「え……? 何か変なこと、言いましたか?」
首をかしげながら怜奈が二人を見つめると、夏希が微笑んで言う。
「いや、あなたのその考え込む仕草。……神崎にそっくりだなって。あ、神崎っていうか——凛って言った方がいいか」
悠人も笑いながら頷いた。
「そうそう。あいつ、考え始めると必ずあのポーズするんだよ。“あ、今スイッチ入ったな”って分かりやすいやつ」
先ほどまでの緊迫感は、気づけばすっかり和らいでいた。
怜奈も小さく笑いながら「なんですか、それ」と呟く。
自分に“兄”がいたとして、まだ信じられない。
でも——もし、それが本当なら。
……会ってみたい。
その想いが、じわりと心の奥に灯り始めた、そのとき。
「あ、そういえば……」
怜奈がぽつりと呟いた。
「何日か前に、この本部で警報が鳴った日があって……」
言葉を探しながら、記憶をなぞるように語っていく。
「そのとき、どうすればいいか分からなくて固まってたら、工藤先輩に呼ばれて、田中先輩に連れられて……」
そして——思い出す。
「あのあと、エレベーターに乗って下の研究所に行きました。 すぐ別の部屋に通されたから中の様子はほとんど分かりませんでしたけど、確かに中では作業している人たちが何人もいて……」
夏希は大きく頷いた。
凛の読みは、やはり正しかった。
核心が、すぐそこにある。
だが——
「……ねえ、そのエレベーターって、この部屋を出たところのやつ?」
夏希が言った。
「私達もそれを使ったんだけど、なぜか別の所に連れていかれて……」
怜奈は首をかしげ、「別の場所……ですか」と小さく呟く。
そして、ふっと思い出すように、瞳に光が差した。
「そういえば……田中先輩が、“より安全性が高い”って言ってました。 ここよりもさらに高度なプロテクトがかかってるって……」
その瞬間だった。
バタンッ
個室の扉が、突然開かれる。
朗らかな声が飛び込んできた。
「怜奈っち〜! お待たせ〜変なことされなかった?」




