『忘却の都市』 暴風の中へ
「夏希。……エレベーターで上に戻って、さらに下の研究所へ行けるルートを探してくれ」
神崎の声は静かだったが、その瞳には確かな意志が宿っていた。
「そこに——さっき伝えた、『中枢システム』があるはずだ」
「きり……神崎はどうするの?」
「俺は——この男を止める」
言いながら、自分でもその決意の重さを噛みしめていた。
「まあ、まだ警備隊になって数ヶ月の奴が何を言ってるんだって思うかもしれないけど……多分、今ならいける。」
その言葉に、夏希は息を呑む。
だが、神崎の瞳を見れば分かる。
最初に見せられた神崎と城戸隊長の動き。
あの動きに夏希はまだついていけないと本能的に悟っていた。
夏希は頷き、そして名残惜しむように一言だけ。
「……出来るだけ早く終わらせてくる。気をつけて」
神崎が微かに笑う。
夏希は振り返らず、エレベーターに駆け込んだ。
——扉が閉まり、轟音と共に上昇していく。
城戸はそれを止めようとすらしない。
「……ずいぶん余裕ですね」
神崎が問いかけると、城戸は答えた。
「仮に君たちが中枢システムを止めたとして——どうなるか、知ってもらった方がいいと思ってね」
「それに……単純に興味があるんだ。君が、どこまで動けるようになったのか。君には——私の跡を継いでもらう必要がある」
その瞬間、城戸の瞳が鋭く閃き——動いた。
まるで暴風。
次の瞬間には神崎の目前に拳が迫っていた。
「……っ!」
紙一重で身を捻って回避。だが、追撃は止まらない。
重力の法則を無視するような移動と容赦ない連撃。
数日前の——仮面の男、小林副隊長の時よりも遥かに鋭く、深い。
だが、神崎の目は確実に城戸の動きを捉えていた。
(……見える)
——これは、ただの回避ではない。
今の神崎には、分析する余裕がある。
空間の歪み、殺気の流れ、重心の傾き——
あれほどまでに短かった“自身のタイムリミット”も、今はなぜか、気にならない。
神経が、感覚が、限界を超えて研ぎ澄まされていく。
(……これならいける!)




