『忘却の都市』 出逢いの伏線
先ほどまでの賑わいは、どこへやら。
悠人と怜奈は、しばらく無言のまま沈黙に包まれていた。
そんな中、悠人の頭の中は、混乱していた。
(いやいやいや……普通さ、裏口から急に入ってきた訳の分からん奴と、職員の女の子を二人きりにするか?)
もちろん、自分は何かをしようなんて微塵も思っていない。
けれどこの状況、客観的に見てどうなんだ……と、自問が止まらない。
言葉も思考も空回りしたまま、結局一言も発せないまま沈黙が続いていた。
そして、そんな空気を破ったのは——怜奈のほうだった。
「ええと……早川悠人さん、でしたっけ?」
「は、はい。そうです……」
しどろもどろの返事。噛みそうになるのを必死に堪える。
……さらに、彼には明確な“弱点”があった。
それは、美人に弱いことだ。
普段は軽快なトークで場を回すのに、相手が美人となると途端に緊張してしまう。
先ほどは複数人がいたから調子に乗れていたが、今は——一対一。
夏希のときもそうだった。 胸の奥が変なリズムを刻む。うまく言葉が出ない。
深呼吸をひとつ。
「……ふぅ」
少し落ち着きを取り戻し、改めて彼女の顔を見た。
やはり、整った顔立ち。クールで大人びた雰囲気。
でも——どこかで見たことがあるような、そんな既視感が胸に引っかかっていた。
(……落ち着いた印象。距離感があって、でも喋ってみると案外親切……)
そして、思わず口から漏れた言葉。
「……霧崎に、似てる」
怜奈の表情が一瞬で変わる。
「——霧崎? 霧崎凛を知っているのですか?」
咄嗟の声に、悠人の心臓が跳ねた。
(うわ、しまった……)
ここは都市の中枢部。軽率な発言だったと、ようやく自分の立場を思い出す。
だが、目の前の彼女の視線は鋭く、逃げ場を与えてくれなかった。
はぐらかすのは、無理だ。
少し考えた末——悠人は腹をくくることにした。
あくまで“何も知らない外部の人間”という体で。
霧崎と都市で知り合った経緯。彼がどんな人物だったか。
当たり障りのない情報だけを拾い、嘘を交えず、だが“真実を隠しながら”語る。
怜奈は、一言も遮らずに、静かにそれを聞いていた。
そしてこのやり取りが——
この二人の運命を、確かに変えていくことになる。




