『忘却の都市』 微笑の綻び
「またまた、玲奈っちもそんなこと言って。気になるからここに残ってるんでしょ? 仕事もしないでさ」
ズバッと放たれたひと言に、玲奈は言葉を失った。
「……ぐっ」
図星を突かれたような呻きが、喉の奥から漏れる。
「だって……仕方ないじゃないですか」
珍しく口を尖らせながら彼女は視線を逸らした。
「毎日毎日、ここに入り浸って……都市の中の話だって、そりゃあ……気になりますよ」
そう言って、彼女は工藤のほうへ懇願するような目を向けた。
「……あーもう、そんな目で私を見るな」
工藤は両手をあげて降参のポーズを取る。
「分かった、分かったよ。玲奈っちは、私が責任を持って守ってあげよう」
柔らかく笑い合う二人を前にして、悠人は静かにそのやり取りを見つめていた。
何も言わず——ただ、胸の奥に微かな違和感が広がっていくのを感じながら。
悠人は最初この都市は、完璧な場所だと思っていた。必要なものは全て揃い、生活に不自由もない。人々も親切で、物事は合理的に進んでいく。
——それなのに、どこか寂しい。
どこか、人としての“温度”が希薄に感じる。
笑顔はあるのに、ふとした拍子にそれが“誰かに用意された答え”のような気がしてしまう。
まるで、薄い膜の向こう側に本当の心があるような感覚。
それは今でも信じきれない。
けれど、多分——霧崎や夏希さんから聞いた話が、心のどこかに引っかかっているのだろう。
けれど今、目の前にある景色は違った。
真っすぐぶつけられた冗談と、ズレた言い訳。
照れと諦めが入り混じる、リアルな反応。
そう——人間らしい、不器用で温かなやり取り。
悠人が理想とする“都市”の在り方が、ほんのわずか——
この瞬間だけ、確かにここにあった。




