『忘却の都市』 守護者の選別
城戸は二人をじっと見つめていたが、やがてゆっくりと視線を伏せ、ひとつ息をついた。
「……やれやれ。君たちも、理解はしてくれないか。」
その何気ないひと言に、夏希の眉がわずかに動く。
「……君たち“も”?」
城戸は首を傾け、まるで今思い出したかのように言った。
「ああ、これは……まだ伝えてなかったか。」
淡々と語られる言葉に、室内の空気が変わった。
「小林副隊長。彼を都市の外へ逃がしたのは、私だ。 再び都市へ戻るよう仕向けたのも、もちろん私の手配だよ。 彼が都市外に出る際に車内で接触した人物、君たちが通信を行った相手——どちらも本部の人間だ。」
空気が一瞬で凍りつく。
「私は彼にも期待していた。都市の外に出れば、このシステムの“合理性”に気づいてくれると思っていたんだが……」
そこまで語ると、城戸は肩を竦め、わずかに目を伏せた。
「……何度も説得したが、ダメだった。 彼にも“資格”はあったのに。君たちと同じようなことを、繰り返し言っていたよ。」
その表情に浮かぶのは、皮肉でも勝ち誇ったものでもない——本心からの落胆。
だが、その落胆は決して“迷い”ではなかった。
「……じゃあ、まさか……」
夏希が震える声で問いかけた。
「小林副隊長に——通信を通して、自害するように言ったのは……」
城戸は、まるで事務的に答えた。
「私の指示だ。協力してくれるなら、前回のことは不問にし、共に“管理者”として迎え入れるつもりだった。」
「だが彼は、それを拒んだ。ゆえに——君たちをここに呼ぶために、最後まで“協力”してもらった。本当に……残念だよ。」
その瞬間、夏希の目が燃え上がった。
「……ふざけないで!!」
怒号と共に、彼女の身体が城戸へと飛ぶ。
だが——
その動きは、城戸にとっては予定調和だった。
身体を滑らせるように後退し、夏希の突進をやすやすとかわす。
「夏希、やめろ!」
神崎が咄嗟に叫ぶ。その声に、我に返った夏希は歯を食いしばりながら神崎の元へと戻った。
城戸は乱れた服の袖を、何事もなかったように整える。
「……ふむ。交渉は——決裂、というわけだな。」
その目に、もはや哀しみはなかった。
「君たちはまだ若い。まだ“考えられる”年齢だ。」
静かに、城戸は言う。
「この数日の出来事は、すべて——なかったことにしよう。 神崎君の妹のおかげで、記憶の部分消去に関する研究は進んでいる。 近日中に実験予定だった。君たちは、ちょうどいいサンプルだ。」
そして、城戸は再び歩き出す。
神崎と夏希の方へ、ゆっくりと。
「……では、君たちには——一度、寝てもらおうか。」




