『忘却の都市』 正義の境界
「あなたは……どこまで知っているんですか?」
神崎の問いに、城戸は一歩の迷いもなく答えた。
「無論、すべて知っているよ。この都市の仕組みも、自身のことも。そして……君たちのこともだ、霧崎——いや、神崎君。」
その名を口にしたとき、城戸は確かに微笑んでいた。
だがそれは、作られたものではない。
冷笑でも、優越でもない。
まるで、同じ傷を知る者に向ける、静かな共感の眼差しだった。
神崎は、わずかに息を詰めながら、もう一度問いかける。
「……あなたは、何も思わなかったんですか? 自分自身が“変えられて”しまったことに。」
城戸の表情は変わらない。
「無論、最初は驚いたよ。まさか私に、そんな過去があったとはね。」
「だが——今では感謝している。これこそが、私の求める理想だと気づいたからだ。」
そう言って、城戸は静かに視線を落とし、神崎と夏希の手元にあるファイルへと目をやる。
「君たちも、感じたはずだ。世の中には——どうしようもないクズがいる。」
「何か問題を起こしても、“反省すればいい”“謝ればいい”と、口先だけで何も変わらない人間がこの世には多すぎる。」
「なぜ、真っ当に生きている者が被害に遭い、なぜ、罪を犯した者たちが—— 当たり前のように、日常を取り戻すのか?」
「もはや、これは誰かが"管理"するしかない。だからこそ、この“システム”が必要なのだよ。」
その語り口は穏やかだった。
だが、その目の奥には、これまでに見たことのない怒りが燃えていた。
それは、世界への怒りか。 あるいは、過去の自分への怒りか。
そして今、神崎と夏希の前に立ちはだかるその怒りは——
静かに、この都市の“正義”の姿を問いかけていた。




