僕の心は
口にすると言葉は突然現実味を帯びる事がしばしばある。
さっきまで、となりで向き合って眠っている彼女をなんの躊躇いもなく見れていたが、それが出来なくなってしまった。
目の置き場に困ったので仕方なく空を見上げた。そこはあまりに広く、地上で見るもの全てがちっぽけに感じてしまう。
そう、揺らめく僕の気持ちも。
チラッと彼女を見ると、とても嬉しそうな顔をしていた。夢の中の僕も彼女が好きだとでも言ったのだろうか…?
『じゃぁ付き合ってくれるよね?』
今度ははっきりとした声だった。ハッとし振り向くと彼女の眼差しは、真っ直ぐ僕に向けられていた。
彼女の顔は今まで見たことのない真剣な表情だった。ただ、頬は赤らんでいる事から恥ずかしさは顔に出してなかったのだろう。
「え…なんで?」
最初に思ったのは、今まで眠っているはずだった彼女が、起きている事への疑問だった。
やがて、僕を見つめる彼女の表情は、少し歪んできた。鈍感な僕に、ちょっと怒っている時の顔にも見える。
僕は僅かしかない想像力をフルに働かせて、事の理解に努めた。
もしや…、僕は思った。
最初から彼女は眠っていなかった…?
事を少し理解しだした頃に、漸く僕は、彼女の問い掛け内容に大きな戸惑いを覚えた。
彼女はずっと眠っていなかったとすると、僕の返事が彼女に伝わっていることになる。いや、それ以前に彼女の夢での告白そのものも本物という事になるのだろう。
辺りは微風がよそよそしく吹いて、舞い散る桜を乱舞させている。周りからは依然として、賑やかな話し声や笑い声がきこえてくる。
そんな中、僕と彼女の間の時間だけ止まっている、そんな感じだった。
『どうして…』
僕は、この気まずい空気をどうにかしたかった。が…言い終わる前に、言葉にするのを途中で止めてしまった。
彼女の顔は今にも泣き出しそうになっていたから。
「僕の心は…」
僕はこの時に思い出した。高校の卒業式の時…初めて話した時…彼女とメールをしだした時、
そして、
今日この時間を一緒に過ごしている時のことを…。
僕は自分の気持ちをしっかりと整理をし、
彼女の告白に応えた。
気が付いた時には、彼女の顔はすぐそこに…。瞳からは涙が溢れ出ている。そんな彼女の顔をとても穏やかな気分で見つめていた。まるで、サバンナで弱りきった小動物を保護している様な気持ちになった。
この時に、既に決めていたんだ。
彼女を一生守ってやろうと……




