夕闇の向こうに
『何考えこんでるのー?』
僕は沙希の声で我に帰った。彼女は不思議そうな顔で僕の顔を覗き込んでいる。さっきまでいたと思った優も、友達の家に遊びに行ってしまったらしい。
空は冬の時期のせいか、早い時間の割に赤く染まってきている。どこからか烏が鳴いている声が聞こえてきて、なにかもの寂しく感じてしまう。思い返せば、時期に関わらず烏の鳴き声に「哀」の感情を抱いている気がする。
『や、ちょっと昔の事』
『昔かぁ…』
彼女はどこかもどかしい表情で空を見上げた。その表情を見ている僕までなんだか切ない気分になった。
感覚的なものだとしても、歳を取るごとに時が過ぎ去る速さというのは上がっている気がする。何故だろうか。まあどうであろうと、ここで答えを出す必要はない。
あたし、彼女は訪ねた。
裕司があの時来てくれなかったら、今頃どうしてたかな?
彼女のいうあの時とは、卒業式のことだろう。
正直な話今頃どうしてたか知りたいのは、僕の方である。過去に戻り違う道を歩む事が出来ないから今と比較出来ないが、僕は、僕にとってとても満足のいく道を歩んできたと思っている。
もし…、僕は思ってもみない事を口してみた。
あの時行かなくても、きっと僕らは今一緒にいるさ。
『あたしはそうは思わないかな…。』
喜ぶかと思って言ったが、否定されてしまった。少し気まずい空気が流れる。彼女は無言で部屋に戻ってしまった。僕はちょっと無神経な事を言ってしまったかと焦った。しかし、悩む間もなく彼女は戻ってきた。
だってさ、彼女は続けて話し出した。
あたしはコレが運命を決めたんじゃないかなって…。
そう言って差し出したモノは、一つの白いボタンだった。
そう、これは卒業式の日に僕が意味も分らなく渡したワイシャツの第2ボタン。
この瞬間に、優に話してた出来事を鮮明に思い出せた。僕が卒業式の日に犯してしまった3つの大きなミス。親子揃って寝坊、まさかの卒業証書授与、そして、約束から2時間以上もの遅刻。どれもとても印象深い。(当り前か…)けれど、2時間遅刻してまで会う事ができたのは…
急に拓馬に会いたくなった。あいつは今頃どうしてるのだろうか?知らぬ間に、アドレスも分らなくなって連絡もつかなくなってしまった。
『ちょっと出かけてくるよ』
沙希にこう告げて、僕は家を後にした。さっきまで赤く染まった空が、今は黒味を帯びてきている。見つかるはずのないモノを探すのに、こんな気持ちが高ぶったのは初めてだ。
僕は足取り軽く夕闇に消えていった。
連載に最後まで付き合ってくれた方、最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。出来たら評価の方して頂けると嬉しいです。当方初めての長いようで短いこの小説もこれで終わりです。次は沙希の視点からみた小説を書いてみようかなと思ってます。こちらもどうぞよろしくお願いします。




