表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一夜熱  作者: 古江 門
第一部 真由

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/14

第二話 一 朝の井戸

 目を覚ましたとき、雨は止んでいた。


 障子の隙間から、白い光が差し込んでいる。


 真由は布団の中で、しばらく耳を澄ませた。


 家の裏を流れる水路の音が聞こえる。昨夜、何度も鳴っていた井戸の滑車は、もう動いていなかった。


 隣では悠介が眠っている。


 真由は布団を出て、廊下の窓へ向かった。


 朝の光の中に、井戸の屋根が見えた。


 その下には誰もいない。桶が二つ、石の縁へ伏せられている。周りの地面は濡れていたが、昨夜から雨が降っていたのだから、それだけでは何も分からなかった。


 道には、いくつもの足跡が残っていた。


 井戸の周りで重なり、家々の方向へ分かれている。


「早いな」


 悠介の声がした。


 振り返ると、布団から上半身を起こしていた。


「何見てるの」


「井戸」


「まだ誰かいる?」


「今はいない」


 悠介が欠伸をしながら立ち上がった。


「昨日、夜中に人が集まってた」


「井戸に?」


「何人かいた。誰かに水を飲ませてたみたい」


「起こしてくれればよかったのに」


「起こそうかと思ったけど」


「けど?」


「何だか分からなかったし」


 悠介も窓から外を見た。


 朝の井戸には、変わったところはなかった。


「具合の悪い人でもいたのかな」


「分からない」


「奈緒さんに聞いてみよう」


 悠介は台所へ向かった。


 蛇口をひねり、コップへ水を入れる。


「朝からそれ飲むの?」


「喉が渇いた」


 悠介は半分ほど飲み、残りを口の中で確かめるようにした。


「やっぱりうまいな」


「昨日より?」


「同じだよ」


 真由は箱からボトルを一本出した。


 蓋を開けて飲む。


 いつも飲んでいる水だった。


 悠介は、もう一杯蛇口から注いだ。


 八時を過ぎたころ、奈緒が訪ねてきた。


 籠の中に、握り飯と卵焼き、漬物が入っている。


「昨日の残りでよかったのに」


 真由が言うと、奈緒は台所へ籠を置いた。


「今日は畑を歩くので、朝は食べておいたほうがいいです」


「ありがとうございます」


「よく眠れましたか」


 真由は悠介を見た。


「私は、あまり」


「家の音が気になりました?」


「夜中に、井戸に人がいました」


 奈緒の手が止まった。


「何人か集まっていて、誰かに水を飲ませていました」


「正吉さんでしょうか」


「暗くて、顔までは分かりませんでした」


 奈緒は窓から井戸を見た。


「正吉さんは、夜に家を出ることがあります。誰かが見つけて、連れて帰ったのかもしれません」


「ほかにも何人かいました」


「それなら、手伝ってくれた人がいたのかもしれませんね」


 奈緒は少し考えた。


「あとで聞いてみます」


 握り飯を皿へ移す。


 悠介が一つ手に取った。


「今日は、どこを見ますか」


「家の畑と、その奥の土地です。午後はまた降るかもしれないので、先に外を回りましょう」


「作業もあります?」


「水路の脇に流木が溜まっています。皆さんで片づけるそうです」


「手伝ってもいいですか」


「助かると思います」


 三人で朝食を食べた。


 奈緒も握り飯を一つ手に取ったが、半分ほど食べたところで皿へ置いた。


「食べないんですか」


「朝は、あまり入らなくて」


 そう言って茶を飲んだ。


 悠介は二つ目の握り飯へ手を伸ばした。


 食事を終えると、奈緒は台所へ立った。


「水筒を持っていきますか」


「持ってきた水があります」


 真由が答える。


「俺は、こっちでいいよ」


 悠介は蛇口を指した。


 奈緒は棚から金属の水筒を出し、水を入れた。


 悠介が受け取る。


「冷たいですね」


「外へ持っていっても、しばらくは冷たいですよ」


 悠介は水筒を鞄へ入れた。


 真由は自分のボトルを持った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ