大袈裟な
アパートの敷地内に入ると、ふわっと桜の花びらが風に舞っていた。
「里桜。下ろすぞ」
「えっ……は、はい……」
俺は里桜を地面に下ろす。彼女は少し残念そうにしていたが、すぐに周囲の妖たちを見て目を輝かせた。
花見の準備は終わってるようで、妖たちが楽しそうに雑談しているが、黎はその中心で熟睡していた。
舞は、妖たちと少し距離をとって桜を見上げていた。
俺と里桜に気付いたのか、振り向いた舞は俺の持っているフィギュアを見て、息を吐いた。
「遅かったじゃん。さっさと渡しに行って、連れてきてよ」
「それは良いんだけど、なぜ俺?」
「……苦手なのよ。あのオタクが。目が合うと自分の話しかしないし、私の話なんか聞かない。逃げようとすると骸骨の手で捕まえて離さないのよ」
「あ、あぁ……」
舞の言葉に納得した。俺も思うところがある。
「……大変だな」
「えぇ、そうね。ここで暮らしてるから文句は言えないんだけど。疲れるから、会いたくは無いのよ」
舞は、本当はここでは暮らしたくはないんじゃないだろうか。元々舞は、妖に対して良い感情は持っていない。
いくら、狙われるかも知れないからって舞の性格上、断りそうだけど……。
「……本当は、ここで暮らしたくないんじゃないのか?」
舞は、少しだけ目を細めた。
「……なんでよ」
「なんとなく。舞の性格的に嫌なら断れそうだろ」
「仕方ないじゃない。前のアパートにいられなくなったんだから。そんな時に、紬が家賃と光熱費はいらないから住んでみない? って誘われたの」
「つまり、タダだから暮らしてると?」
「そうよ!」
舞は腕組みして、苦笑しながらも花見をしている妖たちを見た。
「……まぁでも。暮らしてみて、思うところはあったけど」
そう言いかけた舞の背後から、骸の声が聞こえた。
「フィギュア買ってきたかー?」
振り返ると、骸が片手を挙げながら近付いていた。
舞は小さく舌打ちした。
「丁度良かった。透和、渡して」
「あ、ああ」
俺はフィギュアを骸に差し出す。骸は目を輝かせて受け取り、すぐに中を覗き込んだ──その瞬間、骸の目の色がぱっと変わった。
「おっ、おお!!!!?」
骸は目を輝かせたまま、フィギュアを両手で大事そうに持ち上げた。指先が僅かに震えている。
「これだよ、これ!! ありがとう!! 今日からきみのことは英雄と呼ばせて貰うぞ!! 迎えに行ってくれて本当にありがとう!!」
骸は鼻息を荒くして、俺に抱き着いた。
「ちょっ!?」
舞が露骨に嫌な顔をして後ずさる中、骸は俺をすぐに離してフィギュアを大事そうに抱え直した。
フィギュアを買いに行ったぐらいで英雄って……。
大袈裟な。
「透和様。花見するんですよね?」
「あっ、うん。そうだった……骸」
骸は周囲を見渡した。桜の下では、妖たちが盛り上がっていた。酒を飲むものやお菓子を頬張るものもいる。
「おお!! もう始まってるじゃん。行くぞ、英雄!!」
骸はそう言いながら、フィギュアを大事に抱えたまま花見の場所へ足早に向かっていった。
舞は、深いため息をつきつつも、結局は後を追う。
「本当に、なんで私はこんなのと付き合わないといけないのよ」
「とか言いつつも、満更でもなさそうだけど」
「はぁ!?」
俺も歩きながら、小さく笑うと、舞は俺を軽く睨んだ。
足を思いっきり踏まれた。
「いてっ……!!」
舞は顔を真っ赤にしたまま、すぐに視線を逸らした。




