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天然ドジっ子座敷わらしは、恩返しのつもりで居座り中です〜俺の不運がさらに増してる気がするのだが!?〜  作者: 藤原 柚月


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俺を『おもちゃ』としか見ていない。

「なんでこうなったんだ……」


 俺は、鬼に加藤さんを人質に取られて……脅された。


 家の倉庫の中に俺ひとりだけ身を潜めている。


 理由は簡単だ。化け物のような妖を誘き出すため。鬼と加藤さんは別の場所に身を潜めている。


 手には、小型ナイフを握りしめる。鬼の妖力をまとった特別制のナイフ。薄らと紫色に光っている。


 倉庫の中は薄暗い。今が何時なのか分からない。スマホは没収されたからな。


 少しの隙間から覗くと、夕日が沈みかけていた。


 少し前、鬼に「外の様子を見てこい」と命じられて一度外に出た。


 その時──町の人達はひとりもいなかった。


 母さんに刃物を向けられて、慌てて飛び出した時には家が囲まれるほどの大人数だったのに。


 今は、不気味なほど静まり返っている。


 どこかに身を潜めてるのか? それとも……ただの幻?


「……母さんと父さんは生きてるのか?」


 それすらも分からない。鬼は情報を教えてくれないし、状況が何も分からない。


 くそっ!!


 ギリっと唇を噛み締め、拳を握りしめる。


 その時、足元に何かが落ちているのに気付いた。


「なんだ、これ……?」


 薄暗くて良く見えない……。


 俺はその『何か』を拾い上げ、隙間から差し込む光にかざす。


 それは数珠だった。


 ーーなんでこんなところに?


 ガタッ。


 倉庫が大きく揺れる。


「こんにちは!」


 外から楽しげな子供の声が聞こえて身震いした。


 その声は、電話越しに聞いた声だ。そして……記憶の中の声でもある。


 固まってる場合じゃない。返事をしないと。


「ひ、久しぶり。元気だったか?」

「元気? うんっ! めっちゃ元気だよ。ねぇねぇ、友達もいっぱい増えたんだぁ!!! 見たでしょ? 家の周りを囲んでるの!」

「……ああ。でも、俺が知っている人達、皆目が真っ黒だったぞ」

「うん! そうだよ? だって友達だもん。僕の言うこと、ぜーったい守るの。言うこと聞かない悪い子は、いらないの。心をギューって閉じ込めて、いい子にしてあげるの!」

「閉じ込め……」

「それよりさ! 遊ぼーよ!! その為に帰ってきたんでしょ? ねぇ、遊ぼう? 遊ぼう??」


 閉じ込めてるということは、生きてるということか?

 どこかに心を閉じ込めてるということでいいのか?


 俺は、ナイフを握りしめた。


「あ、ああ。そうだな。何して遊ぼうか」

「うーん……そうだね。かくれんぼなんてどうかな」

「いいな。なら俺が鬼やるよ」


 俺は倉庫の扉を慎重に開ける。


 外から声をかけてくる、妖の姿が見える。


「ううん。鬼はもう決まってるよ」


 妖は、あの時と変わらなかった。皮膚が半透明で、中の筋や血管が透けて見える。ところどころに人間の顔や手が埋もれている。

 人の形はしているのに、目や鼻がない。


 そして、大きく口を開けた。


 口から伸びる舌は長く、先が二つに別れている。

 その表面には刃物のようなものが張り付いていた。


「僕が鬼だ」


 次の瞬間、舌が素早く倉庫の扉目掛けて叩き潰した。


 俺は間一髪で外に飛び出す。


「みぃつけた」


 舌を出したままなのに、声は驚くほどはっきり聞こえて、とても楽しげだ。


 感心してる場合じゃないんだけど。


「かくれんぼって、普通……鬼が数を数えてる間に隠れて、確認の合図で探し出すだろ!!」

「?? でも、倉庫に隠れてたじゃん。だから、かくれんぼしてるでしょ?」

「なんて……無茶苦茶な……!」


 妖は、首を傾げた。


「……ねぇ。見つけたんだから、僕の好きにしていいでしょ。それとも、かくれんぼじゃなくて、鬼ごっこがしたかったの?」


 舌で容赦ない攻撃をしてくるせいか、逃げるだけで精一杯だ。


 そもそも、鬼の作戦は一切聞いてないんだ。


 鬼の指示はシンプルに「とりあえず隠れて、バレたら逃げてろ」だった。


 舌が腹を捉える。


 そのまま勢いよく振られ、体が弾き飛ばされて家の壁にぶつけられた。


 その衝撃で舌が離れる。


 背中に鈍い衝撃が走り、口の中に鉄の味が広がった。


 痛みに耐えながら、俺は体を起こす。


 そうしないと、確実に死ぬかもしれないからだ。


 いつまで逃げなくちゃいけないんだ。


 ──もしかして、俺が死ぬまでなんて……。


 有り得そうで怖い。


 舌の攻撃が思っていたよりも早くて、とてもじゃないが、ナイフなんて当てられない。


「ぐわっ……っ!!」


 背中に鋭い衝撃が走り、地面に叩きつけられる。


「もう終わり? もっと遊びたいなぁ……。ああ、そうだ! いい事思いついたんだ」


 妖は俺の近くまで歩いてくる。


 気付けば、俺の両隣には母さんと父さんが立っていた。


 表情が完全に死んでいる。


 無言で俺の両腕をそれぞれ掴み、強引に立たせる。


 腹や背中の痛みが一気に押し寄せ、思わず呻いてしまった。


「うっ……」

「きみの瞳って綺麗だよね。羨ましいなぁ……僕にはないんだ。その目も鼻も……綺麗な肌も。だからね、全部もらっちゃうね。いいよね? だって、かくれんぼで見つけたんだもん。僕の勝ちなんだよ? それなのに、逃げるなんて……悪い子だ」


 妖は楽しそうに笑う。まるで……小学生の男の子がカエルをいじって遊んでいるような……。


 俺を『おもちゃ』としか見ていない。


 怖いっ!!

 怖すぎる!!


「嫌だ!! やめてくれ……!」


 俺の悲痛の叫びなど、全く届かない。


 妖は舌を俺の目にゆっくりと近づける。

 鋭く光るものが、いくつも揺れている。


「母さん! 父さん!! 離してくれ!!」


 俺の声は両親には届いてないのか、無表情で俺を見ているだけだった。


 その瞬間、俺の名前を叫ぶ声が聞こえてきた。


「橘さん!!」


 妖の背後からは加藤さんがいた。


 そして、加藤さんの声に反応した妖は振り向く。


 加藤さんは印を結び、静かに息を吐く。


 すると、妖が突然苦しみ出した。俺の両腕を掴んで離さなかった両親は地面に倒れた。


 ポケットからほのかな温かさを感じて取り出すと、緋色に貰ったお守りだった。


 厄除けのお守り……。


 加藤さんの印に反応するように、お守りから白く輝く印が浮かび上がった。


 それは、加藤さんが結んだ印と全く同じだった。


 お守りは宙に浮き、白く光に包まれた大きな犬の形になる。もはやお守りの形はどこにもない。


 光に包まれた犬は、妖の周りを一周した後、体に噛み付いた。


 妖の呻き声が響く。


 犬は噛んだところから紐状になり、最後には、妖を縛る形になる。


 ピキピキピキピキッ。


 犬は、岩化してしまった。


 妖は身動きは取れない……が、舌が自由に動かしていた。


 安心するのは、まだ早い。


 俺は、ナイフで舌を突き刺し、地面に固定した。


 息を吐き、腹を抑えながら座り込む。


 血はそんなに出てないから、深くまで刃が食い込むことはなかったんだろう。


「加藤さん、今の……」

「緋色様が印の結び方を教えてくださいました。まだ私の力だけだと妖は捕らえることさえ出来ないだろうからって、橘さんのお守りに緋色様の力を少し宿らせ、印を結べば反応するだろうからって……」

「緋色の……」

「人間の分際でなかなかやるじゃねぇか」

「…………」

「俺を睨むのか。人間のくせに」


 鬼が高みの見物をしていたのだろう。屋根の上に登って胡座をかいていた。


 俺はそれにイラつき、思わず睨んでしまった。


 それが気に入らなかったのだろう。鬼は立ち上がり、ふわりと地面に着地した。


 ダンッ。


 鬼は片足を力強く足踏みすると、地面がビリビリと揺れる。


 空気も重い。


 加藤さんは、鬼の殺気に当てられたのか、足が震えて、その場に座り込んでしまった。


 俺ももう動けそうにもないし。


 くそっ。どうする。


 この場を乗り切れる策が見つからない。


 諦めかけたその時だった──。


 一匹の子猫が鬼の顔面に張り付いた。


「うわっ! なんだ!?」


 鬼は動揺して、子猫を引っ張ると投げ飛ばした。


 空中で体制を整え、地面に着地した子猫は俺を庇うように前に立ち、背中の毛を逆立てる。


「猫……? なんでこんな所に」


 突然、鬼が浮いた。鬼の能力かと思ったが、どうやら違うようだ。


 なにせ、鬼も驚いているのだから。


「間に合って良かったわ。もう、碧生ちゃんったら、手加減を知らないんだから」

「え……子供の白熊!?」


 俺の横から声が聞こえて、振り向くと、子供の白熊がいた。


 でも、声はどこかで聞いた事あるような……。


 加藤さんの近くには見知らぬ少年が、加藤さんを心配そうに顔を覗き込んでいた。


 ……え。


 子猫はゆっくりと振り向き、俺を真っ直ぐ見た。


 タタッ。


 と、俺の元に走って、ピョンっと、軽く地を蹴った子猫に思わず手を伸ばして抱きしめた。


 ある事に気付いた。


「……ん? 胸元の傷跡……もしかして、里桜?」


 子猫は、嬉しそうに尻尾を振った。


「はい。透和様、間に合って良かったです」


 ドシャッ。


 鬼が地面に叩きつけられた。


 グルグルと目を回していた。


「あらあら……相変わらず、里桜の能力には酔っちゃうのね」


 白熊は鬼を見下ろしながら呟く。


 確か。里桜は宙に浮かせるだけで、動かせない。動かせたとしてもその場で回せるかどうかだ。


 さっきは、回してない。ということは、宙に浮かせただけで目を回したのか……。


 意外な弱点だ。







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