ここに来るのも懐かしい
晩秋の神社は、散り残った紅葉が石畳を彩り、木々の枝に残る最後の黄葉が風に震えている。
朝なのもあって、境内は静まり返っている。
──ここに来るのも懐かしい。
数ヶ月前に来たというのに、遠い過去のような気がしてならない。
加藤さんは視力が悪いから、離れると危ないと思った俺は、ずっと手を繋いでいるのだが、そわそわしている。
わかるよ。好意が無い人に手を握られたら嫌だよな。
里桜は反対側の手で繋いで、俺の頭の上には黎が乗っている。
加藤さんと手を繋ぐ時、里桜が泣き出しそうになるから宥めようと思い、飴を渡したところ、それが気に入ったらしくて今も口の中に入れてもごもごと飴を転がして遊んでいる。
それでも、時々小さく「視力が悪いから仕方ないんだけど……」と、むかれてはいる。
仕方ないのは分かってるから、何も言えないって感じだ。
その数歩程離れた位置から舞は呆れたように俺達を見ていた。
最初は、女子同士というのもあって、加藤さんを舞に手を繋がらせようとしたけど、舞のことは苦手らしくて全力で拒否したので、今に至る。
……そういえば、加藤さんは妖の姿ははっきりとは見えずオーラで見分けてるんだとか。
そこに、何かがいると思っても姿形はぼんやりで声も聞こえないそうだ。
それは、眼鏡をつけててもつけなくても同じらしい。
小さい頃はそんなことはなく、姿をはっきりと見え、声も聞こえていたそうだ。
ある事が起こってからそれからはオーラでしか見ることは出来なくなったらしいのだが……。
「……質問、いいですか?」
「何?」
「神様って、図々しくて古風な喋り方……だったり、しませんよね?」
加藤さんは下を向いて嫌そうな顔をしている。
「よく分かったな。その通りだ 」
「!? や、やっぱり!! 私、用事思い出したので帰ります!!」
俺は頷くと、加藤さんの顔から血の気が引く。
俺の手を乱暴に振りほどいた加藤さんは、来た道を戻ろうと後ろを向いたら、
ガンッ!!!
木の柱にぶつかった。ぶつかったまま、加藤さんはズルズルと座り込んだ。
──なんなんだ?
俺は、加藤さんの慌てぶりが理解できずに首を傾げ、頭をかいた。
「……」
加藤さんは顔面を抑えて、涙目で呟く。
「あんなの、神様なものですか。あんな……あんな……」
歩いてきた緋色が俺達に気付いたようでこっちに来る。
加藤さんは、声を張り上げた。
「あんな!! 黒くて禍々しいオーラを放ってるんです! 絶対に悪霊かなにかです!」
近くまで来た緋色に気付いてないみたいで、加藤さんは緋色の目の前でディスった。
緋色はニヤッと怪しげな笑みを浮かべた。
「おお、そうか、そうか。妾が黒い……と。ならば、お望み通りに呪い殺してやるかのぅ」
そう言って緋色は、加藤さんの肩を叩く。
緋色が目の前にいることに気付いた加藤さんは青ざめ、口篭る。
「!!? く、黒い……オーラ!! 悪霊です!! やっぱり神様なんかじゃないですよ!」
「どうしようかのぅ。妾は痛めつけるのは嫌いじゃ」
加藤さんは涙目になって後退りする。
話が微妙に噛み合ってないので、聞いてみた。
「今、なんて言ったかわかる?」
「わ、わかりません!! でも……」
緋色はゆっくりとしゃがみ、加藤さんの心臓辺りを軽くつつき、目を細めた。
「そうじゃ。魂を取り出すのはどうじゃ」
「ひっ!! 絶対に殺意が込められてるのは伝わってきます!」
加藤さんは小さく悲鳴をあげた。
その様子を見ていた舞は「なにあれ?」みたいな顔で俺を見てきている。
黎は、退屈そうに欠伸をしているし、里桜は「お久しぶりです!」と、もごもごしながら手を振っている。
加藤さんは完全に緋色に遊ばれている……。
もうそろそろ助けてやるか、じゃないと加藤さん、失神しそうだからな。
俺は声をかけようとした瞬間、緋色は面白そうに笑った後、立ち上がった。
「……まぁ、それは冗談じゃ。来ることは知っておったしのぅ」
緋色は歩き出した。
「ついてくるのじゃ」
一回立ち止まって、俺達を見た後に言い、再び歩き出した。
俺は、加藤さんの腕を引っ張って強引に立たせた。
緋色の後を追うように歩いていると、五十代ぐらいの男性が箒で落ち葉をかき集めていたので、軽く挨拶する。
見た目からして神主だろう。
俺達に気付いた神主は笑顔で挨拶を返してくれた。
「おはよう。朝早いね。おや、舞ちゃんじゃないか。元気かい?」
「ええ……まぁ。おじさんも元気そうで」
「舞ちゃんの友達かい? 」
神主は舞、加藤さん、そして俺の順に顔を見てきて、微笑んだ。
「舞ちゃんは、誤解されやすいんだけどね、とっても優しい子なんだよ。小さい頃から苦労していたせいで、人とどう接していいのかがわかってないんだ」
「なっ!? おじさん、その話は……」
「だからねぇ。心配してたんだよ。舞ちゃんが心を許せる友達が出来るのかって」
「もう! 恥ずかしいから、やめて!!」
舞は顔を真っ赤にしている。そんな彼女の様子を微笑ましく見た神主は、空を見上げた。
「きっと……神様のお導きなのかねぇ」
神主は寂しそうな顔になる。チラリと緋色を見ると、目を伏せている。
冷たい風が紅葉を攫って、吹き抜ける。その風はぽっかりと空いた心のように冷たくも悲しくもあった。
──そういえば、今の神主って……。
緋色の姿は視えないし、声も聞こえないんだよな。
「……姿は視たことはないんだが、いつも見守ってくれているような気がするんだよ。だから、何か悩みがあれば話すと良い。聞いてくれて、見守ってくれるはずだよ」
緋色は悲しそうに笑った。その目は、『当たり前だ』とでも言っているようだ。
「はい。俺も……そう思います」
肯定したら、神主は「うんうん」と、頷いた。




