お節介は身を滅ぼしますね【加藤 茜視点】
こんにちは。新人社員の加藤 茜です。
現在、私は……数メートル先にいる橘さんを陰ながら睨んでいる最中でございます。
理由……? そんなの決まってます。
眼鏡をグイッと持ち上げ、かけ直す。
私には小さい頃から、その人のオーラというものが視えるんです。
最も、そのせいで周りから気味悪がられていたのですが。
社会人になったら、私のことを知らない場所で一から頑張ろうと決心して田舎から都会に来たのですが……。
オーラが……、あの人のオーラが……。
普通の人とは、違うのです。
なんて言えばいいのでしょうか。
こう……人間のものとは思えないほどどす黒いのです。
しかも寄りにもよって、私の教育担当になってますし、どうすればいいのか分からなかったので、とりあえず……影ながら行動を監視しようと思います。
視えてるのは私しかいないんです。橘さんがこの世ならざるものだったなら、私が……なんとかしなくてはいけません。大丈夫です。今だって、こうしてスーツのポケットに塩を隠し持っているんです。
さらに通販で買った魔除けの水晶の欠片もセットです!
奮発しました……。これで十万は高すぎると思いましたが、魔を払えるなら安いものです!
確信はまだですが……きっと、橘さんは悪霊に取り憑かれているんです!! じゃなかったらこんなにも禍々しくどす黒いオーラを放つわけありませんもの。
私だって、やる時はやる女です。
サングラスや灰色のトレンチコートに深めな帽子で、完璧です!
誰がどう見ても、変質者だとは思いません!
柱の陰に隠れながら監視していたら通行人たちがヒソヒソと声を潜めています。
「やだ。何あれ?」
「不審者だわ。警察に通報した方がいいんじゃない?」
と、気味悪そうに呟いているのが聞こえてきました。
なるほど、不審者……。
この辺りに不審者がいるのですね。それは、油断出来ませんね。
私も女性だし、気をつけなればいけないです。
それからも何日も橘さんを監視してましたが、何やら何回も警察に職務質問されたのですが……、未だに不審者は捕まってないのですね。
全く、何のための警察なんですかね?
監視していて気付いたのが、橘さんは何かと運が悪いのかもしれないということです。
水溜まりを避けようとしたら頭に鳥のフンが降ってきたり。
またある時は、コーヒーを服に零したり。
前なんて、会議で使う書類を間違えてシュレッターにかけちゃってましたね。上司にこっぴどく怒られてましたけど。
小さな不幸から大きな不幸がランダムに起こる。
まぁ、その半分は橘さんがドジなのもあるかもですが……。
ですが、ここ最近、少しだけ、どす黒さが和らいだ気がします。どういう変化でしょう?
大きなミスもしなくなりましたし……。
そんなある日の夜。
居酒屋から出てきた橘先輩は何やら奇妙な動きをしていた。
目を凝らして見ると、薄らと何かがいたかと思ったら、橘さんの中へと入っていった。
これは……やっぱり、橘さんは取り憑かれてるんですね!!
さらに橘さんの後を追うと、コンビニに入っていってお酒を大量に買い込んでます。
あっ、何やら店員さんと揉めているようです。こうしてはいられません!
「そこまでです! あ、あなた……た、橘さんの中から出ていってください!」
そう言って私は、ポケットから塩が入った小さな袋を取り出すと橘さん目掛けて盛大に投げつけた。
袋は顔面にあたり、中に入っていた塩が周りに散らばった。
「な、なんじゃ!?」
普段の橘さんとは違う口調。やっぱり、悪い者に取り憑かれたのですね。
私は水晶の欠片を握りしめ、橘さんの目の前に水晶の欠片をかざした。
キラッと神秘的な輝きが辺りを包み込む。
良かった。十万も大金を使い込んだんです。力を発揮してくれなければ意味がありません。
さっきまでコンビニ内は風が吹き通っていなかったというのに足元から風がふわりと吹き始めている。
「さぁ! 成仏してください!!」
橘さんは驚いた表情をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
──なんで、冷静に!?
その刹那──。
ガタガタっとコンビニ内のガラスが揺れ始め、蜘蛛の巣状にヒビ割れ──……。
パリーーーーンッ。
という音が響き渡り、一斉にしてコンビニのガラスが割れた。
その場にいた人達はプチパニックを起こし、私も小さな悲鳴を上げる。
橘さんは、水晶の欠片を持っている私の腕を掴んだ。
「今時珍しい……。霊力が高い娘じゃ。じゃが、面白い余興じゃった。一つだけ忠告するとすれば、力を使いこなせてないのに神である妾に敵意を向けるでないぞ」
「神……?」
水晶の欠片がヒビ割れて、砕け散った。
膝から崩れ落ち、バタンと座り込む。
嘘……。
神ですって……。
こんな、こんなにも禍々しいオーラを放つのが神?
嘘よ。あり得ない。
こんな……お酒を爆買いしようとしているのが神だなんて、私は認めません!!
涙が頰を伝って落ちる。これは、情けないからだ。自分自身にも……。
そして、何よりも橘さんがこんなお酒を爆買いして、店員にウザ絡みしていたという事実がショックすぎる。
私の中での橘さんのイメージがぁ!!!!
取り憑かれていたとしても、こんな醜態を晒している先輩の姿なんて見たくなかったんです。
その後に警察が来ましたが、すぐに急な突風が吹いたとして適当に解決していった。
店員さんに絡んでいた事は、店員さんがさっきのガラスが割れたことが衝撃すぎて、無かったことにされている。
そして、いつの間にか橘さんの姿が見えなくなってて……。
あっ、携帯……。これ、橘さんの……。
間違いない。スマホの傷。スマホケースや機種だって橘先輩のと同じ。ほとんど毎日見ていたもの。
でも、普通に届けるだけじゃ、なんか嫌です。
そこで私は、メモ帳に嫌味を込めて書くことにしました。
《悪酒するんですね......でも、だからといって、店員さんを恐喝するのはダメだと思います。警察沙汰にならないのは、店員さんが揉め事嫌いなだけなので、勘違いしないようにです。酒は呑んでも呑まれるなという言葉がありますが、橘さんを見ていて、その言葉の意味がよく分かりました。私もああはならないように気をつけます。橘さんを尊敬していたのに、残念です 加藤 茜》
と、こんなものでしょうか。問題起こしたのは橘さん自身ではないのですが……なんか悔しいので。
でもちょっとだけ、罪悪感があるので、警察沙汰にしてないという小さな嘘を添えることにします。
アパートも監視していたから、場所は知っていますから。
留守みたいなので、紙袋に入れて、ドアの前に置きました。
──もう、何やってんだろう。
十万もかけた水晶の欠片は粉々になってしまいましたし、そもそも水晶の欠片は魔除けじゃなかったんですか?
それが簡単に粉々だなんて……、しかも高かったのに。
──お節介は身を滅ぼしますね。
でも、放っておけないんですよね。何故か橘先輩を見ていると、こう……母性本能が働くと言いましょうか。
とにかく、見てみぬふりが出来ないのです。
ふと、コンビニでの橘先輩の言葉を思い出す。
『霊力が高い娘じゃ』
霊力……って、多分霊感的な能力ですよね。
私にそんな力があるとは思えませんが、少し調べてみましょうか。
◇◇◇
「……あっ」
「──っ!?」
会社では少し避けてようと思っていた橘先輩とばったりと会ってしまった。
よく良く考えれば、橘先輩は私の教育担当でしたっけ。
「あっ、この前は……って、そんな避けなくても」
橘先輩は頭を掻きながらも話し出したけど、私はそそくさと距離を取る。
私は眼鏡をかけ直す。
──オーラが、ちょっと柔らかくなった……?
一体、どうして……。
その疑問には誰も答えてはくれませんが、橘先輩のオーラの色を私は変えたいと思います。
だって、こんなにも可哀想なぐらいに負のオーラとも呼べるほど禍々しくどす黒いのですから。
茜ちゃんは眼鏡っ娘です。
ちなみに茜ちゃんは毎日は監視してません←ここは、重要なのでもう一度言います。
茜ちゃんは毎日は監視してません。




