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【連載版】不運が続く俺の元に座敷わらしが嫁候補として居座っているのだが  作者: 藤原 柚月


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素直になる薬【里桜視点】

 かくりよの奥深く、湖に囲まれ、霧に包まれた巨大な屋敷。


 屋敷に繋がる橋を渡り、巨大な門の前で立ち止まり、見上げて小さく息を吐く。


 昼の柔らかな霧が、瓦屋根の曲線をぼかしながら優しく包み込んで、

 木の門扉は湿った光を帯びて淡く輝き、竹垣の隙間から零れる光の粒が、霧の中で小さな妖精のように漂います。


 いつ見ても、立派で幻想的です。


 門に触れると、重たい門はゆっくりと開いた。


 屋敷の当主、鬼影(きえい)様が心を許した妖の妖力に反応して門が開く仕組みになっています。


 鬼影様曰く、いちいち確認して門を開くのダルいから……らしいですが。


 私はお姉さんの元でお世話になっておりましたが、住まわせてくれた屋敷が鬼影様の屋敷なのです。


 門をくぐると、声をかけられたので立ち止まりました。


「あれ!? 里桜様!!?」

「はると、さん?」


 狐面をつけたはるとさんは外に散らばっている落ち葉を掃除していたのでしょう。


 鬼影様の屋敷専用のホウキを握りしめています。


 このホウキは鬼影様の妖力を纏わせているので、掃くと微かに霧が立ち込め、掃いたゴミが影のように消えるのです。


 私もはじめてこのホウキで外掃除した時の感動を忘れません。


 掃くうちにだんだん楽しくなってきて、花壇の花や盆栽、木も全て掃いてしまって、鬼影様が頭を抱えていましたっけ。


 私の首根っこを笑顔で掴み、丸焼きにしようと釜戸まで連れていかれたのでしたっけ。


 他の妖さんたちが必死に説得してくれたおかげで丸焼きにはならなかったのですけど。


「今日は、どうしたんですか?? おひとりなのですか?」

「はい! はるとさんがここに居ると思ったので、お姉さんの元に行くのなら、この屋敷だと」

「え? 僕に??」


 私ははるとさんに近付く。


「素直になる薬が、ほしいんです。出来ますか?」


 はるとさんは唸るように首を捻り、ゆっくりとため息をついた。


「……それは、話を聞いた後で決めさせてもらいます」


 屋敷の中に入って行くので、私は慌ててあとをついた。


 ◇◇◇


 客室に案内された私は、座布団の上で正座をした。


 はるとさんは私を案内すると、すぐに場を離れた。


 しばらく待っていると、はるとさんはお茶を運んで来た。テーブルにお茶を置くと、向かい側にはるとさんは座る。


「どうして、そのような薬を望むのですか? 里桜様なら、その必要はなさそうですが」

「……その様付けやめてください。呼び捨てて構いません」


 私は下を向くと、置かれたお茶が目に映った。お茶に浮かぶ私の顔は不安そうな表情をしていた。


 息を吐いてから、真っ直ぐにはるとさんを見る。


「透和様が……友達のお家に行ってからずっと暗い顔をしているんです。話しかけても上の空で……悩んでることはなんとなくわかるのですが、ただ私に話してくれないのがどうしてもモヤッとしてしまって……」

「悩みがわかるなら、なんとか出来そうな気もしますが」

「友達が大切な人の死を受け入れられなくて、現実逃避しているんです。それを、現実を見させてくれって緋色様が……」

「あの人が……、まぁ緋色様は変わり者で何を考えてるか分からないですが、理由があってお願いしてきたのでしょう。透和様に近付いたのも意味があるから。決して傷つけにきた訳ではないですよ。あの人って不器用な優しさを持ってますので、言葉足らずな部分があって勘違いされがちなんです。まぁ、いいですよ」


 はるとさんは、懐から小さな巾着袋をテーブルに置いた。


「素直になる薬です。ただ、人間に効くかは分かりませんからね」


 私は巾着袋をじっと見た。


 それでも……、


「それでも私は……透和様の辛さを知りたいんです。じゃないと、なんのために透和様の元に行ったのか、分からないじゃないですか」


 巾着袋を手に取った。お礼を言って、急いで去ろうとしたらはるとさんに呼び止められた。


「里桜さ……、里桜さん! その薬を使っても後悔しないでくださいね。薬を使っての……言葉は軽いだけですよ。重みがないんです。だって、強制的に話されてるんですから。その薬が使われるのは基本、罪人に真実を話させるためのものなので」

「……わかってます。わかってますけど、もう……これ以上は、透和様の辛い顔を見たくないんです!!」


 だって私は、笑っていた方が私は好きなんです。


 優しく頭を撫でてくれて、()()って、温かい声で名前を呼ぶんです。


 透和様が温かい気持ちになるのなら、私は……なんだってしたい。


 ()()()()()私を拾ってくれた。

 愛情を知らなかった私に……たくさんの温かさをくれた。


 私がこうして笑えてるのは透和様のおかげなんです。

 それは、妖になっても変わりません。


 ぎゅっと巾着袋を祈るように胸の前で握ります。その手は僅かに震えていました。



 はるとさんを見ると、不安そうな顔をしていた。


「大丈夫です。悪いようにはしませんから! それでは、ありがとうございます!」

「あっ、待って!! 最近……人間が妖になるケースが増えています。普通では考えられないんです。ですので、お気をつけて」


 人間が妖に……。


 そんなの、知っています。だって、私が透和様の元に来たのだって……。


「心配いりません。だって、私がうつしよに来たのだって、透和様を妖にしないためですから。原因が見つかって、その解決法がわかるまで傍で見守ろうと心に決めているんです。だって、私は座敷わらし。幸運を呼び込むんですよ。これ以上ない用心棒だと思いませんか?」


 クスッと笑って言うと、はるとさんは何故か苦笑した。


「そうですね……。色んな意味で楽しそうにしてますから。ある意味、幸運なんでしょうね」


 含みがある言い方をされた気がしますが、気づかないフリをして深々とお辞儀をした。









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