第五話
王様として君臨し、手近な国を喰らいながら大きく成長した僕の国。
そんな国で王様をしながら何年が過ぎたかな?
確か僕がこっちの世界に来た年に植えた記念樹が樹齢千年を超えたらしいし、僕も千歳かな? 子どもの頃に千歳飴を食べたのも影響しているかも。
その間、僕は国内の犯罪組織やチンピラなどを大小問わず潰して回った。
だって僕は神様だもん。問題が起きればすぐにその場所に転移し、心を読んで悪い方を殺す。
とっても簡単なお仕事だよね。
その甲斐あって、僕の国では犯罪行為をする者は王様が殺すとして、犯罪が激減している。
そのため、城の警備や他国から国を守る兵士という仕事は無くなって軍備にお金も人も使わずに国内はさらに潤っていく。
何も生み出せない軍隊なんて必要ないからね。
僕一人で世界征服も出来るんだから。
そこからさらに年月が過ぎ、悪の組織の野望として一般的な「世界征服」を達成した僕の国の何代目かは忘れた宰相がこう言って来たんだ。
「陛下……。これまで永きに渡りこの国を発展させ、あらゆる悪意から守ってきてくださった陛下に間違ったことを言いますがお許しください」
「別に言わなくてもいいよ? 僕は心が読めるから」
「いえ、言葉にして言いたい事なのです」
ふ~ん、もったいぶった言い回しだなぁ。
でも本人が言いたいなら言わせてあげようか。なんか結果的に反逆罪で処刑されても構わないってな覚悟のある顔してるし。
「陛下にこの国の王を退いてもらいたいのです」
「……ふぅ~ん」
宰相が言うにはこうだ。
死なない僕が恐ろしい。
心を読む僕が恐ろしい。
一人で何億人もの軍勢を殺す僕が恐ろしい。
そんな僕に跪いている今のこの国の状況が恐ろしい。
何でだろう? 僕は何一つ間違ったことをしている訳じゃないし、僕のおかげで犯罪も何もない平和な世界になったのに。
その答えは簡単で、普通の人間は僕みたいに強くないし長生きできないんだってさ。
そんなことで今更なことを言ってくる宰相もおかしいけどさ、何でも心を読んだところ城に働く人たちの総意なんだそうだ。
嫌われるではなく、恐れられる。
本当に分からないな? 何で僕はここまで恐れられているんだろう?
……あぁ、そうか。僕が神様だから、僕の崇高な考えが理解出来ないんだね。
それじゃあ僕は王位を退こう。
だけど僕が作った世界の平和は僕のものだし、僕が去った後どうなるかは分からないけどね。
こうして僕は王様をやめてこの国を去った。
◆ ◆ ◆
暫くは適当な家を作って一人暮らしをし、世界を何もせずに見ていた。
その結果、僕一人で治めていた世界は僕一人で治安が維持されていたためか、遠く離れた昔は敵国があった場所では独立国が多く出来た。
そしてそれらの国は、これまで武力を僕一人に頼っていた国を逆に侵略し、世界は大きく割れる戦争が大小各地で繰り広げられていた。
沢山死んだし、せっかく育てた僕の記念樹も焼かれたけど、すでに王様でなくなった僕には関係ない話だ。
そして世界がある程度、戦争で滅んだのを見届けた僕は、一つだけやったことが無い事を思い出した。
だから世界を渡り、時間を超えて一人の若者にあった。
「やぁ、君の名前は関 宗政くんだね?
僕は何だと思う?
そして僕がこれから何を言うか分かるかい?」
僕はこうして自分の力を自分自身に渡して死んだんだ。
永いこと生きて来たけど、最初に会った神ってのは僕自身だったんだね。
最期に長年の疑問の答えも分かって安心して死ねるよ。
新しいけど昔の僕。
君がこれから行く世界は僕の統治と退位でゴタゴタしているからまた綺麗に治め直してね。
それじゃあ、お休みなさい。
さて、細かい作者語りは活動報告でするとして、この物語はどうだったでしょうか?
私にしては珍しくプロットを作って書き始めた作品ですが、骨組に肉を付けると話数が増え過ぎるので自分の性格的に何処かでダレると思い、出来るだけ短く濃くしてみました。
ほとんど短編なので通りすがりに見てくれた方も居ると思いますが、この物語が読者の皆様に何かしら暇を潰せるものであれば幸いに思います。
では、また次回の小説で。
読んでいただきありがとうございました。