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幕間 トットに学ぶ 防衛都市構造


◇


◇


◇



「トットに学ぶ、防衛都市構造の会~~~~~かんかんかん~~~~~」


トットが叩くペットボトルの音。

げっそりとした顔のウォルフ。


「うるせー」

「今回は、幽霊のウォルフにも出てきてもらいましたあ」

「まったく、幽霊になっても駆り出されることなんてあるんだな」


ウォルフは自分の半透明の腕を持ち上げて、まじまじと見る。なお、その首はトットに掻っ切られた傷跡が残ったままである。


「ティムに来てもらってもよかったんだけどさ、予定が合わなくて」

「他にもいるだろうに。俺の登場シーン、1.5ページしかないのにな」

「え~、僕が他に名前を憶えているのは、レオ隊長、ユーゴさん、ニックさん。レイフさん、ギルくん。ティム。あとは、最近マキナくんを覚えた。それ以外知らない。ほらね、他に呼べる人いないでしょ」


ウォルフがため息をつく。


「……確かに。なんで覚えないの?」

「覚えないというより、覚えられないって感じかな~」


なるほどね、それなら仕方ないか、とウォルフは煙草をどこからか取り出してマッチで火をつける。

すっと吸えば、半透明の体に煙が入ったことがうっすら見えた。煙が吐き出される。幽霊の癖に、実体の煙草が吸えるらしい。


トットがじっとそれを見る。


「……えー、すごいね、それ」

「はあ?」

「なんか生きてるって感じする」

「俺死んでるけど。まあいい、ほら、始めるぞ。防衛都市の紹介だな」


素直にトットは、目の前に用意されている模型に目線を移す。


防衛都市は、ざっくり言えば、2つの壁と左右の山に囲まれた拠点であり、2つの壁の間に、兵士たちの住む街が構成されている。

この街には、兵師団・精鋭部隊の兵士たちだけでなく、一般市民も住んでいる。兵士たちの生活がある以上、生活を営むための必要な店舗やサービスを提供する人たちが、自然と集まってきているのである。


「ウォルフさんって行きつけとかないよね」

「ないね」

「女の子と遊んだりしないの」

「するけど、まあそのときそのときで」

「そんなもんか」

「俺らはそうだろ」

「そうか」


"そういう任務"を主に担うのだから、どこかに根付かないのが普通ではあった。

で、とトットは改めて仕切り直す。


「精鋭部隊の本部は、実は結構中心地にあるんだよね」

「ここな」


ウォルフが指し示すのは、中心のレンガで囲まれた領域。

隠し扉で入口はすべて隠されているので、精鋭部隊以外の人間は入ることはできない。


「まあ、入ってきちゃった奴は殺すんだけれども」

「さすがにそうだよねえ。ウォルフさんでも」

「隠し扉、使うのは実はちょっとリスクなんだよな。気づかないところに、誰かがいたり」

「ちなみに、自分がお忍びで防衛都市に寄る時はどうしてたの? 隠し扉から出たり入ったりしてた?」

「いや、俺は大抵、地下道を使っていた。精鋭部隊の連中にも、見つかりたくなかったからな」


精鋭部隊の本部は地下道にも繋がっていて、防衛都市のどこへでも容易にアクセスすることができる作りになっている。


ふーん、とトットは目を細める。


「兵士を処分するときも、地下を使ってたんだ?」


ウォルフは、さあな、とさらりと肩をすくめる。


「何の話だ?」

「ええ、今更誤魔化すの?」

「今更、ことの次第を全て詳らかにする必要があるのか?」


少しトットは考える。


「……ないか」


だろ、とウォルフは煙草を吸った。

ウォルフのこういう、無駄なことを言わない性格は、トットにとっては非常に気楽であった。


「ほいでっと。あとは街中には、兵師団の施設がたくさんある」

「訓練所とか、兵舎とか、食事処とかね」

「そうだ。兵師団は日々訓練しつつ、壁の上で見張りをしている」


壁は、第一の壁、第二の壁、と呼ばれている。いずれの壁も分厚く、その上にはいくつかの投石器などが並んでいる。

壁は、内部の階段を使って上に登る構造になっていて、それ以外のルートは基本ない。


「横の山から抜けていくことはできないの」


トットの質問に、ウォルフは首を横に振る。


「登れないように、崖にしている。狭い道はあるが、兵師団が押さえていて、そう簡単ではない。ア=オイロの兵師団は、山が得意だからな。ア=カイロにとっては難しいだろうな」


なるほど、とトットは頷く。


第一の壁と、横の道を押さえさえすれば、容易に進軍できないようになっている、というわけだ。

第一の壁を越えると都市の内部に侵入されてはしまうものの、第二の壁があるので、そう簡単には越えさせない仕組みになっている。


「……お前、吸わないの?」


ふとウォルフに尋ねられて、トットはちょっと考えてから箱を取り出す。


「吸お」

「ほらよ」


しゅ、とウォルフが手慣れた様子でマッチを擦る。

火をつけ、トットは煙を吸い込んだ。


「いや〜」

「なんだ?」

「なんでウォルフさんと吸う煙草は、こんな美味しいんだろう」


ウォルフは、首を傾げる。


「さあな」

「というか、ウォルフさんってア=カイロの出身なの?」

「突然聞くね。しかも、全然防衛都市の話じゃないし」

「もう、防衛都市の話はよくない? 飽きたし」

「まあ、いいけれども」


ウォルフは少し考えてから、じっとトットを見る。

トットはその視線に気づいて、じっと目線を返す。


「あ、違うんだ?」

「まあ、ア=カイロではないな」

「じゃあ、ア=オイロ?」

「ローラー戦法か」

「いまなら、答えてくれそうな気がして」

「キ=イロ公国だよ」


トットは黙りこんで、改めてじっとウォルフを見る。

ウォルフはなんてことない顔で、ふ、と煙草を吐き出す。今度は輪っかの煙だ。


「え?」


思った以上に突拍子もない声が出て、ウォルフが、ふは、と笑った。


「そんな驚くことか?」

「うん」

「お前の記憶力なら、確かに覚えてねえだろうな」


トットは頭を抱える。


「そんなこと、ある?」

「まあ、そもそも興味がなかった可能性はある。俺は、お前の4年前の三席だ。首席無しの代だったが」

「……軍門試験の?」

「そう」

「うわあ、絶対誰かに似顔絵も見せられてるはずだろうけど、全然覚えてない。記憶にない」

「だろうな」


からから、と楽しそうにウォルフは笑った。


「え、ウォルフさん、絶対ストレートだ」

「そりゃあ。15歳になって、即受けたに決まってる。落ちたことはない」

「だよね。ウォルフさんの代の、次席は? どこにいるの、いまは」

「珍しく、キ=イロにちゃんと残ってるよ」

「それは、だいぶ珍しい」


キ=イロ公国の軍門試験。15歳になると受けられる権利を得られる、いわゆる国の隠密組織に入るための登竜門のような試験である。

公主に近いところで働き、官僚なんかよりも余程権力を得られるので、多くの国民が男女問わずに軍門試験に挑戦する。


しかしながら、軍門試験の優秀者は優秀であるがゆえに、キ=イロ公国に留まることはあまりなかった。

キ=イロ公国は、豊かな国ではない。他の国で雇われたほうが、余程稼げるのである。


そうか、とちょっとトットは腹落ちした。なんとなく一緒にいて楽しいのは、同郷ゆえに波長がどこか合っていたのかもしれなかった。


「お前のことは、人伝に聞いたよ」


ウォルフは、短くなった煙草を潰しながら言った。


「久々に首席が出たってね。20年ぶりだか30年ぶりの快挙だろ。で、次席も相当と来た。キ=イロ出身者の間で、噂にならないはずがない」


トットは、まだまだ長い煙草を吸う。


「いや〜まあ、自分、人間じゃないみたいなとこあるし」


ウォルフは、そうだな、と自然に頷く。


「だからな、俺はお前が精鋭部隊に入ってきたときから、わかってた。どこかで俺がお前を殺すか、お前が俺を殺すか。どっちかになる。軍門試験の首席なんかをとるやつが、普通に精鋭部隊で大人しくしてるなんて、思わねえし」

「確かに」


トットは頷いた。

もちろん、理由がなければ殺さないが、理由ができれば殺すしかない。そして、ア=オイロの中でお互いを殺せるのはお互いしか、いなかったのだ。


あ、とトットはウォルフを見て、眉を顰める。


「だから、自分と距離ちょっと詰めてた? きっかけとか全然思い出せないけど、割と最初から絡んできてくれてたよね」

「そうだよ。仲良くなっといたほうが、いざという時に殺しやすいだろ?」

「……」


ウォルフはなんてことなく、手元で煙草の箱を弄ぶ。

トットはため息をついた。


「なーんか癪」

「……お前は違うのか?」

「違くないけど、でも気楽ではあったし」


トットはそこまで言って、口を噤む。ウォルフがその様子を見て微笑んで、言葉を紡ぐ。


「それは俺もだよ。実際、お前と吸う煙草は美味かった。どうしようもなくな」


それを聞いて、意識的に息を吐きだす。


ウォルフのこういう大人なところに、トットはどこか甘えてきた自覚があった。


「……それなら、いっか」


ウォルフはそうだな、というように頷いて、それから、ああ、と思い出したように言った。


「ちなみに、お前の本名も知っている」

「え〜。さすがにウォルフさんでも、わからないんじゃない? まあ、当ててみてよ」

「そうだな。確か……」


――◾️◾️◾️◾️・◾️◾️◾️・◾️◾️◾️


それを聞いて、トットは額に手を当てて天を仰ぐ。そんな様子を見てか、ウォルフは楽しげに笑った。


「本当に知ってるじゃん〜。軍門試験の時すら、偽名だったのに? 知ってて知らないふりしてたの?」

「知らないふりはしたことない。知らないと言ったこともないはずだが。まあ一応、三席なもんでね」

「三席なら確かに〜。ウォルフさん、頭いいしなあ。というか、殺しておいてよかった〜」


はは、とウォルフがまた笑う。


「ま、俺が殺されたことで、トット、お前の秘密は保たれた」

「そうだね。安心だ」


トットはふっと煙を吐く。綺麗な円に、ウォルフは嬉しそうに微笑む。




トットが自室を出られるようになったのは、引きこもり始めて10日目の朝であった。




◇


◇


◇



閑話休題。第三章へ。





更新が遅くなりすみません。

まだ朝が来ていないので、20日ということにしてください…!涙


次回は明日、9月21日(月)に投稿します。第三章も楽しんでいただけますように。


よろしければ、評価やブックマーク、感想などいただけると大変嬉しいです。


(松桐由荷)

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