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転生家族~一家心中しようとしたら前世の記憶を思い出しました(家族全員)~  作者: 藤 ゆみ子


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第9話 あの頃

 エドモンド様の、絵?

 どうしてそんなものを私に……。

 だってあの時、受け取れないって言ったのに。

 気持ち悪いって。


「すみません。できません……」


 頭を下げるけれど、そっと手を握られた。


「もちろん報酬は用意するよ」

「報酬?」


 それって、お金をくれるってこと?

 私の描いた絵でお金を稼げるってこと?

 こんなこと、学園にいた頃なら絶対に断っていた。けれど今は気持ちよりも生活を優先しなければという思いもある。


 でも、いいの?

 エドモンド様が満足のいく絵を描けるとは思えない。

 そもそも、私が描いていいの?

 二年前は受け取ってさえくれなかったのに。

 

「だめ、かな? 画材も全て用意するから」


 正直すごく不安だ。

 不安だけどここで断ってしまったら、せっかくの機会を逃してしまう。

 できることをしようって決めたのだから。

 それに、あの時の私とは少し違う。今の私がどんな絵を描くか自分でも知りたいと思う。

 

「わかりました。お受けします」

「よかった。ありがとう」

 

 そして私は、そのままエドモンド様についていった。

 街を抜けて、貴族の高級住宅街を通り、見えてきたのは大きな門が敷地を囲う場所。

 

「王宮……」


 スタスタと歩いていくエドモンド様を横目に立ち止まった。


 貴族だったころだって、中に入ったことはない。

 平民の私が、こんな格好で王宮に立ち入るなんてしてもいいのだろうか。

 でも、ゆっくりと描くならここだよね……。

 

「どうかした?」

「私、入れるのですか?」

「僕の友人なんだから大丈夫だよ」


 受けると言った以上引き返せない。

 門衛がいたけれど、エドモンド様が何か言うと私もスッと通してくれた。


 広い庭を歩き、建物に入って通されたのは、彼の私室だった。

 入ってすぐに引き出しを開けて、出てきたのはたくさんの画材道具。

 高価な紙もたくさんあるし、絵具も見たことのない種類が並んでいる。

 

「どれでも好きに使ってくれていいからね」

「ありがとうございます……」


 もったいないような気がしたけれど、良いものを描くには必要かもしれない。

 報酬をもらうのなら、ちゃんとしないと。

 すでに下地処理のされたパネルがあり、それを使うことになった。

 道具を選んで、イーゼルにパネルを置いて、差し出された椅子に座った。

 エドモンド様は向かいにあるソファーに座る。


「どのような姿絵がいいですか?」

「そうだな……以前描いてくれたみたいな、肖像画っぽいやつ」

「……わかりました」


 細い筆にインクを付けて、下絵を描いていく。

 真っ直ぐに私を見つめる目に逸らしそうになるけれど、これは報酬の発生する仕事。集中しないと。

 

 できるだけ、そのままに。でも、エドモンド様の内面が滲み出るような絵を描きたい。

 以前描いた時よりもシュッとした輪郭。少し伸びた髪。穏やかな表情。

 伸びた背筋に、見るからに質の良いシャツ。


 力を抜いて、細かく線を描いていく――


「――レイラ」

「はい」


 名前を呼ばれて顔を上げると、エドモンド様は立ちあがった。


「今日はそろそろ終わりにしよう」


 後ろの窓からは西日が差し込んでいた。

 かなり長い時間集中していたみたい。

 進捗は、上半身の下絵が描けたところ。

 完成にはまだまだかかりそうだ。

 

「また、明日来ます」

「うん。よろしくね。それ見てもいい?」


 イーゼルに置かれたパネルを指差すエドモンド様。私は絵を隠すようにパネルを抱えた。


「まだ、だめです。完成してからで……」


 断る理由もなかったのだけど、なんとなく完成してからの方がいいと思った。

 見えないようにそっと布で包んで、画材と一緒に片付ける。


「気になってこっそり見てしまうかも」


 なんてことを言うけれど、見ないでほしいと言えばきっと彼は見ないだろう。


「……見たと言わなければ、私にはわかりませんから」


 それから王宮の外まで送ってもらって、一人で夕暮れの街を歩いた。

 公園を通ったけれど、子どもたちはもういなかった。

 突然エドモンド様が現れて驚いただろうな。

 今度ちゃんと説明しよう。私の以前の友人だって。


 家に帰ると、ママが夕食の準備をしていた。


「遅くなってごめん。私が作るって言ったのに」

「いいのよ。たまには母親の手料理食べてもらわないとね」


 ママは優しく微笑みながらお鍋をかき混ぜていた。


 翌日も、王宮へと言った。

 エドモンド様が何か言ってくれていたのか、一人でも門衛の人が頭を下げて通してくれる。

 広い庭を通って、建物に入る。

 ここまでに数人の使用人とすれ違ったけれど、この場所には似つかわしくない私を見ても、誰も何も言ってこなかった。

 そしてエドモンド様の部屋の前に立ち止まり、大きく息を吐いてからドアをノックする。

 はい、という返事が聞こえたのでドアを開けて中に入った。


「おはようございます。失礼します」

「来てくれてありがとう。さっそくはじめようか」

 

 私は頷いてから、昨日片付けた引き出しからパネルを取り出す。

 包んでいた布は昨日包んだままの形で、きっとエドモンド様は見ていないのだろう。

 

 イーゼルにパネルを立てかけ、椅子に座り、また下絵の続きを描き始める。

 全体像を書き終え、細かいところの修正をして、線を足していく。

 こんな風に本格的に絵を描くことが久しぶりで楽しい。

 エドモンド様はソファーにじっと座ったままで退屈ではないのだろうか。

 時折表情を確認するけれど、終始穏やかな顔を私に向けていた。


 それからも数日間、王宮に通い絵を仕上げていった。

 色を重ね、立体感を出していく。

 王族の肖像画はリアルさよりも華美さを求められると聞いたことがあるけれど、彼の求めるものはそうじゃないと思っている。

 完成に近づくにつれ、なんだかドキドキしてきた。

 この絵に、満足してくれるだろうか。


 また、気持ち悪いと言われたら……。


 だめだ。ここまできて弱気になって、自信のない絵なんて描いてはいけない。

 集中して最後まで仕上げた。


「できました……」


 筆を持ったまま、呟くように告げた。

 エドモンド様はゆっくりと立ち上がり、イーゼルの前にきた。


「やっぱり、あの頃と変わらないね」

「え……?」


 変わらない? 私なりに、上手く描けたと思っていた。

 彼の穏やかな表情、細かな線、配色。

 もちろん、貸してもらった絵具や道具の質だって高い。

 なのに、あの頃と変わらない?


 気に入って、もらえなかったんだ。

 俯いて、顔が上げられない。


「レイラ、ちょっと付いてきてくれない?」


 エドモンド様はそう言うと、私の手を引いて部屋を出た。

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