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転生家族~一家心中しようとしたら前世の記憶を思い出しました(家族全員)~  作者: 藤 ゆみ子


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第5話 再会

 学園に通っていたころ、エドモンド様には仲良くしていただいていた。

 私の絵を好きだと言ってくれて、一緒に写生したこともあった。


 本来ならいくら貴族といえど、仲良くなんてできない相手だけれどエドモンド様は普通の友人のように接してくれていた。

 平民となった今、お目にかかることすらできないような相手だ。


「レイラ、突然いなくなって心配した」

「うちが、没落したことはご存知ですよね……」

「僕に相談してくれたら学園に残れるようにできたのに。平民でも優秀な人は特例で学園に通ってるじゃないか。今からでも僕がなんとか――」

「私は、優秀でもなんでもありませんので」


 成績も普通だったし、彼が褒めてくれた絵だって大したことはない。

 学園に残れる理由なんてなにもなかった。


「そんなことないよ。レイラは他にはない才能を持ってる」

「ですが、エドモンド様にご迷惑をおかけするわけにはいきませんから」


 それに、没落して、借金を抱えて、みんな生きていくことすら諦めていた状況で私だけのうのうと学園に通うなんてできない。

 お兄ちゃんだって、ちゃんと卒業したかったはずだ。


「絵は、もう描いてないの?」

「筆も絵具も画材全て売ってしまったんです」

「画材道具くらいなら僕がいくらでもプレゼントするよ」

「お気持ちはありがたいですが、そのような施しはいりません」


 本当は絵が描きたい。描くことが好きだ。

 前世の記憶を思い出したからこそ、強く思う。

 

 でも今、みんなが必死に働いてくれているのに、生活していくための最低限のものすらないのに、画材道具なんて贅沢なものを簡単にはもらえない。

 私だけ、好きなことを楽しむなんてできない。


「レイラ、本当にそれでいいの?」

「はい……。それよりもエドモンド様はどうしてこんなところに?」

「君を探していたんだよ。会えてよかった」


 前世の記憶を思い出していなかったら、きっと私たち一家は死んでいた。

 死体で見つかるよりもこうして会えたことはよかったのかもしれない。

 挨拶もなにもなく学園を辞めてしまったから。


「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。私は、こうして平民としてなんとかやっていますので、エドモンド様もお元気で。それでは失礼します」


 お別れの挨拶をして、頭を下げて行こうとしたけれど「待って」と呼び止められた。

 

「また、会える? 友人として」

「この国の王子と、平民の私が友人だなんておこがましいことです」


 この街に住む平民の子どもたちのだれ一人としてこうして王子と話すことなんてありえないだろう。

 私はもう、こっち側の人間になったんだ。


 それに、道行く人がチラチラとこちらを見ている。

 いい身なりをした少年と、ボロボロのワンピースを着たみすぼらしい私。

 どこから見ても不釣り合いでいたたまれない。

 エドモンド様の友人にはもっと相応しい人がたくさんいる。


「レイラ、僕は身分なんて関係なく君を大切に思っているよ」

「っ……どうしてそんなことを」


 あの時、私が描いた絵を受け取ってくれなかったのに。

 

 私は二年前、日ごろの感謝を込めてエドモンド様の姿絵を描いて贈ったことがあった。

 けれどその絵を見るなり彼は言ったのだ。


『すごく、よく描けていると思う。でもこれは受け取れない――こんなの、気持ち悪い』


 小さな声だったけれど、たしかにそう聞こえた。

 自分ではよく描けたと思っていた。

 喜んでくれると勝手に決めつけていた。

 でも、気持ち悪いという言葉と共に絵は突き返された。

 エドモンド様はそれからも私の絵をたくさん褒めてくれた。下手だ、なんて言われたことは一度もない。

 だから気づいた。

 きっと、姿絵を描かれたことが気持ち悪かったんだと。

 私の絵は好きでいてくれている。だけど、私のことはそうじゃないんだと。


 それからも、仲良くはさせてもらっていた。

 でも、身分や立場をわきまえて一線を引いて接していた。

 なのに、私のことが大切だなんて……。


 私だって、彼のことを大切に思っていたのに。

 でも、今さらそんなこと言えるわけない。


「さようなら」

「レイラ、待って!」


 今度は振り返らなかった。

 エドモンド様も追いかけてくることはしない。

 

 そのまま真っ直ぐ家に帰った。

 何もない、小さな古い家。

 こんなところで暮らしているだなんて知ったらエドモンド様も幻滅するだろうな。


 ドアを開けて中に入ると、お兄ちゃんが帰ってきていた。


「レイラおかえり。どこに行ってたの?」

「ちょっと……散歩に」

「そっか。家、掃除してくれたんだね。ありがとう」

「ううん。私にはこれくらしかできないから」


 すごく助かるよ、なんて言って頭を撫でてくれる。私、すごく甘やかされてるな。

 お兄ちゃんはもともと優しくて落ち着いていた人だったけど、それが増しているような気がする。


「そうだ、こっちきて」


 手招きされて部屋の奥へ行くと、そこにはフワフワの毛布が畳まれて置いてあった。


「これ、どうしたの? 買ったの?」

「洋裁店のお姉さんにもらったんだよ」

「もらった? すごく大きいし、高級そうなのに」

「この格好でマジックしてたら、投げ銭の代わりにズボン作ってくれるって言われて、お店に行ったんだ」


 お兄ちゃんのズボンの裾を見ると、さらにビリビリに破けていた。

 紙袋と布を使ったマジックに使ったらしい。

 そしてマジックを見ていた洋裁店のお姉さんにお店に連れていかれ、ズボンを作ってもらうことになった。その時に、お店の隅に置かれたこの毛布が目に留まったそうだ。


「どうしてくれたの?」

「これ、服に使う生地で他国から買い付けたらしいんだけど、この国でこんなモコモコの生地の服は売れなくて。もう何年も放置されてるっていうから、欲しいってお願いしたらくれた」


 毛布じゃなくて、服を作るための生地だったんだ。

 甘い笑顔でおねだりしているお兄ちゃんの顔がなんとなく浮かぶな。

 ズボンは採寸してきたので、完成したらくれるのだそう。

 

 それにしても、マジックを見せただけでこんなによくしてくれるなんて。

 お兄ちゃん、格好いいから洋裁店のお姉さんも奮発したんだろうな。


「ところで、紙袋と布を使ったマジックってどんなの?」


 私が尋ねると、説明するより見せた方が早いからとマジックをしてくれることになった。

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