015話 砂蟲
貧民街の少年二人に、謎めいた王宮侍女を加えた三人パーティは、広大な岩石砂漠を進んでいた。
既に日が昇って明るくなっており、夜行性のヨロイサソリは現れないものの、町から離れるほど魔物は増えるため、危険なことに変わりはない。
「ギュルルルルルルッ!」
荒んだイルカのような声を上げているのは、巨大なミミズ型の魔物。
砂を食い散らかすような雑な動きで突進してくる。
「あれがサンドワームか! 気持ち悪い……!」
ぶりぶりと蠢く体躯は、アゼルの背丈ほどの太さがある。
頭部はスッパリ斬り落とされたかのように平坦で、その切断面とも見える円形の暗がりに、細く鋭い牙が何重にも生え並んでいる。
アゼルは、話で聞いた事しかなかった魔物の実物を見て、生理的な嫌悪感を覚え身震いした。
「おめェは実物を見るのは初めてか! ひゃひゃっ」
「この程度で怖じ気付かないで。この先はあんなのがうじゃうじゃいるんだから」
さすが、普段から盗掘や宝探しのために外出しているナジムは、昼間の魔物は見慣れているのだろう。
マリエルの方もやはりただの侍女ではないらしく、何が飛び出してきても怯む様子は無い。
「知ってるか? ああいう地を這う連中はなァ、高い岩に上って、追いかけてきたところを短剣で二、三匹斬りつけてやりゃァビビッて──」
「そんな面倒な事しなくていい」
ナジムの意気揚々たる説明を遮り、マリエルは右手をふわりと胸の前に掲げた。
パーともチョキともとれぬ曖昧な形をしている。
一秒ほど集中した後、広げた手のひらを敵の方へ向けた。
「散炎華!」
目の前の何も無い空間から炎が噴き出し、サンドワークの群れを炙っていく。
炎に包まれた何匹かはその場でぐったりと動かなくなった。
まだ息のあるものはドタドタとのたうち回りながら逃げ、少し離れたところで砂の中へ潜って行った。
「よし。数が少なくて良かった」
マリエルは小さく頷くと、一人でスタスタ歩いていく。
「あれ、あなたたちどうして来ないの? こっちで合ってるよね?」
無表情のまま振り返って二人の様子を見ると、また一人で歩き出した。
「あんなメイドがいるのか。火炎魔法に爆発魔法……ふだん何に使うんだろう」
「そりゃァ、メイドなんだから家事とか」
「火炎で肉を焼いたり、ってこと?」
「爆発でホコリを吹き飛ばしたり?」
「城ごと吹き飛ぶよ」
二人はマリエルの数歩後ろを、くだらないやりとりをしながら歩いた。
「何者なんだろうね」
「少なくともただのメイドじゃねェよなァ」
「間違いない」
前方から「ほらナジム! どっちに行けばいいの? あなたが地図持ってるんだからちゃんとして」と叱られたので、ナジムは慌てて地図を広げて見た。
「あァーはいはいはい。次はァー……」
三人の旅はまだ始まったばかり。




