014話 紅蓮のメイド
「私は、貧民街であなたたちの行動をマークしてた」
マリエルが表情を変えないまま言うと、ナジムがかぶせるように尋ねる。
「そりゃいつからだァ?」
「リアーナ嬢の一件があってからずっと。あなたたちが深夜に出かけた時も追おうとしたんだけど、見失って。仕方ないから貧民街で待ってたら、結構すぐに戻って来たじゃない」
情報屋を名乗る謎の老爺に地図を託された後だ、とアゼルは思い返した。
一度小屋に戻り、速攻で旅支度を済ませてすぐに出発し、今に至る。
「小屋の外にいたら、あなたたちの会話が少し聞こえて。”北の砂漠”とか”指輪”とか聞こえたから、なんとなく、魔法の指輪のことだって分かった」
「でもその時は僕たち、そんなに詳しい話まではしてないけど……」
「指輪については、元々本で読んで知ってたから。断片から推測してたけど、今のあなたの反応で確信した」
アゼルははっとして、気まずそうに黙った。
「ただの伝説だと思ってたけどね」
マリエルは無表情のまま吐き捨てる。
薄い紅色の髪が、砂交じりの風に揺れた。
アゼルたちも、指輪が本当にあるのかどうか知らない。
しかしあの老爺には、有無を言わさぬ不思議な説得力があった。
「ふん、なるほどなァ」
ナジムが得意げに鼻を鳴らして言った。
「それで俺らを追跡し、俺らが無事指輪をゲットしたところを襲って強奪しようって魂胆だな。違うか?」
「……最初はそうだった。でもやめたわ。あなたたち二人じゃ、指輪どころか、指輪が眠ると言われている遺跡にすら辿り着けそうにないし」
「マリエルは強そうだし、一人で行けるんじゃないのか?」
アゼルが話に割って入った。
サソリの群れを一網打尽にした強烈な攻撃魔法を、ナジムも思い出す。
「それも考えたけど、私ひとりじゃやっぱり厳しいと思う。遺跡には罠や鍵もあるだろうし、私はそういうの分からないから。それに狭い場所じゃ、爆発魔法は使えない」
「やっぱりなァ。しかしどうすんだァ? 俺らは指輪を使って願いを叶えたいと思ってる。もし指輪が一回きりしか使えなかったりしたら、俺らは戦う事になるぜ?」
嫌な話になってきた、とアゼルは思った。
もし戦う事になったら、自分たちはマリエルに勝てないだろう。
不安を露わにナジムを見るが、彼の目に不安は無い。
それどころか、自信に満ち溢れた気迫を放ち続けていた。
ナジムのその態度がから元気なのか、なにか勝算があるからなのか、アゼルにも分からなかった。
「その必要は無いわ」
そんなアゼルの不安を吹き飛ばすが如く、マリエルはぴしゃりと言い放った。
「あなたたちの願いは分かってる。リアーナ嬢を城から抜け出させるとか、そんな感じでしょう」
「マリエルの願いもそれってことか……?」
と、アゼルが控えめに尋ねる。
「……まあ、そんなとこ」
「ははーんわかったぜェ」
ナジムがまた得意げな声を出した。
両手を後頭部に添えて岩にもたれかかり、少しばかり警戒を解いているようにも見える。
「ズバリおめェは、王子様の結婚を妨害したいってこった」
「……正解」
マリエルはそこで目を斜め下に逸らし、少し俯く。
ナジムはその表情を見てニタリと目を細めた。
それ以上ナジムは何も聞かなかった。
アゼルは二人の様子を見て、これより先は踏み込まない方が良いことをなんとなく察し、黙った。
「まァ」
しばしの沈黙を破ったのは、やはりナジム。
「俺らは魔法の指輪を手に入れて、リアーナ姫様を城から逃がしたい。それが上手くいきゃァ王子様の結婚は中止になり、おめェの願いも叶う。つまり俺らは運命共同体ってわけだ」
「その通り」
マリエルは頷く。
「あなたたちに死なれたら元も子もないし、ついて行ってあげる」
「上から目線だなァおい」
「”上から”じゃなくて”上”なので」
ナジムは「ケッ」といじけたような声を出してそっぽを向いた。
マリエルはそれを意に介さず、燃える炎のように真っ赤な瞳で、ナジムとアゼルを交互に見た。
が、ナジムが頑なに目を合わさないので諦めて、アゼルの方を見据えて言った。
「そういうわけで、しばらくよろしく」
「よ、よろしく。頼りにしてる」
急に礼儀正しくされたのでアゼルは面食らったが、すぐに気を取り直して挨拶を返した。
かくして、王子の結婚阻止を企む謎の王宮侍女が仲間になった。
もうすぐ夜が明ける。
ドラクエで魔法使いキャラが仲間になる瞬間って興奮するよね!!
作者は火炎や爆発の魔法大好きです




