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5.ニンゲンとの邂逅

 トトと出逢い、いろんな会話を通して多くの知識をもらった。

 そして最後にラキアという名前をもらった。


 知識以上に、名前をもらったことが妙にうれしい。

 勝手に名乗ったのではなく、贈られたこの名前が、妙に愛おしい。


 今日から私はラキア。ダンジョンの主ラキアである。


 名前に恥じぬようダンジョン拡張にいそしんでいたある日、ダンジョンの一角に違和感を覚えた。


 私の体から何かが生み出されたのだ。


 生命感知をしても生命力は感じられず、四角い物体というだけでよく分からない。


 近くにいたゴブリンに意識を移して近づいてみる。

 そこには宝箱が鎮座していた。


 宝箱?


 ゴブリンの知識にある、宝が収納された箱のことだ。

 箱の中には宝石や武器、薬などが納められているらしい。


 なぜ、そんなものが生み出されたんだ? 意識したつもりはないんだが。


 何はともあれだ。中に武器が入っているのなら利用するのにためらう理由はない。

 箱に近づき蓋に手をかける。


 何が入っているかドキドキしていると、例のアラームが鳴り響いた。


 ……ビィビィビィ、禁則事項です。ダンジョン内の宝物取得は禁止です。

 ……ビィビィビィ、禁則事項です。ダンジョン内の宝物取得は禁止です。


 久しぶりのアラームにビクッと体が反応する。


 もう意味が分からない。自分で生み出しておいて、その中身が利用不可なんて理不尽にも程がある。

 これでは侵入者の益にしかならない。


 ……そうか! これは侵入者を誘い込むためのエサだ。

 私の意思と関係なく、ダンジョンの成長に伴い獲得する機能の一つなのだろう。


 しかし宝箱の中に何が入っているか気になる。

 おそらく大したものではないが、万が一ということもある。


 とんでもなく強力な武器が入っている可能性がない、とはいえない。


 何度か偶然を装って箱を破壊しようと試みたが、そのすべてで実行前にアラームが鳴り、成功しなかった。


 わざとゴブリンを侵入させて宝箱を開けさせようと試したが、途中の罠や、意思疎通できないスライムに捕まり、たどり着けた個体はいなかった。


 くっ。私の防衛力。


 罠を全て解除し、スライムを駆除してまで宝箱を開けさせる気にはなれず、後回しにしているうちに気にならなくなった。


 いよいよダンジョンも五階層になろうかと計画していた時、周囲を巡回していたフォレストウルフたちが慌てた様子で戻ってきた。

 フォレストウルフに意識を移し、何を見たのか確認する。


 これまで見たことがない三体のモンスターを発見したようだ。

 ゴブリンと同じ二足歩行だが、ゴブリンよりも大きく、両手には見たこともない武器や盾を装備している。体自体にも鉄板のようなものを貼り付けている。


 これはゴブリンの記憶で知っている。ニンゲンという種だ。


 コピーしたゴブリンたちの中にニンゲンを直接見た者はいないが、ひどく残忍で狡猾、集団戦が得意。

 執念深く狩りをする戦闘狂で、危険なモンスターという認識だった。


 どうやら彼らはこのダンジョンを目指してはいないようだが、運悪く発見されたらどう行動するか分からない。


 最悪の事態を想定して防衛の準備を始める。

 巡回中のほかのフォレストウルフを呼び戻し、偵察が得意なゴブリンにダンジョン入り口を監視させる。


 続いて罠の確認。崩れかけている壁を直したり、武器の先端にウネウネの毒を塗り直す。

 仲間と罠の配置を再確認し、防衛戦闘の手順を徹底させる。


 発見から一日が経過し、ニンゲンの脅威が去ったかと思ったころ、外で雨が降り出した。


 警戒していたゴブリンが、雨音の中から複数の足音が近づいてくることを察知。

 間もなく、ダンジョンに向かって走ってくる三体のニンゲンを視認した。


 彼らはすぐに深部に向かうと思ったが、ダンジョンの入り口のごく浅いところに留まり、何か言い合いをしている。

 口論しているようだが、会話の内容は理解できない。トトなら分かったのだろうか?


 しばらく口論は続いたが、ついにダンジョン内部に向けて侵攻を開始した。


 口論の間も、左右に展開済みのゴブリン弓兵は息をひそめ、必中の距離まで潜伏している。


 ニンゲンは、前衛に二匹が壁のように並び、一匹が後ろを付いていく。

 度重なる拡張により、二匹並んでも支障のない広さにまでなっている。


 観察している間に弓の間合いに入る。まだ彼らは潜伏に気が付いていないようだ。


 ゴブリン弓兵が左右の岩場の間から矢をつがえ、弓を引き絞った。

 その瞬間、警戒態勢をとるニンゲンたち。


 気づかれた! しかし引き絞った弓を止めることはできず、放つ。

 狙いはたがわずニンゲンめがけて飛翔するが


 ガッーン。


 掲げた盾に弾かれてしまう。薄い盾だが、ゴブリンが使う盾より強度がありそうだ。

 前衛の二体が一気に間合いを詰める。


 かかった!

 ゴブリンが潜む岩の脇には落石の罠を仕込んでいる。

 はやる気持ちを抑えて岩を落とすタイミングを計る。


 しかしニンゲンは私の予想に反した行動をとる。


 岩場を陰にしているゴブリンを回り込んで攻撃すると思っていたが、最短距離でゴブリン背丈ほどの岩場に近づくと足をかけて登坂し、流れるような仕草で上段からゴブリンを刺し貫いて絶命させる。


 攻撃し終えると、これまた流れるように岩場から降りて後退、再び三匹一組に戻る。


 警戒しながら、刺殺したゴブリンの横を通り抜ける。


 今度こそ岩を落とそうと思ったが見抜かれている。

 頭上を見上げ、指を差しながら後ろのニンゲンに注意を促している。


 その後もニンゲンたちの快進撃は続き、ゴブリンやフォレストウルフをけしかけるも返り討ち。


 罠もことごとく発見され無力化される。

 一度だけ毒付きの矢が前衛をかすめたが、後ろに控えていたニンゲンが戦闘後たちまち解毒してしまった。


 信じられない踏破力だ。戦闘力もさることながら罠を見抜く知恵も高い。

 攻撃、防御、支援と役割分担があり、連携も緻密だ。


 あっという間に二階層にたどり着く。


 一階層に生き残っているゴブリンたちに指示し、彼らの背後を襲わせる。


 うまく挟撃できなかったのは残念だが、急な指示でこれだけできたなら及第点だろう。


 しかし彼らは、それすら慌てることなく対処してきた。

 背後から迫るゴブリンを殲滅し、遅れて到着したゴブリン兵たちも平らげた。


 そんなニンゲンたちも、二階層の終盤にきてようやく疲れが見え始めた。

 進行速度が若干落ちている。


 三階層の入り口が見えた時、腰を据えて会話を始める。

 次第に口論になったが、話はすぐにまとまったようだ。


 ……もしかして退却の相談か? ここで逃げられるのは困る。

 私の実力が伴っていない状態で、これ以上ダンジョンの存在が公になるのは避けたい。


 あと、なんとしても捕食したい。


 しかし足止めするほどの戦力はない。

 どうする? 切り札(レッサーベア)を投入するか。


 そんな内心を焦りなど知らない彼らは、どうやら潜ることを選択したようだ。


 安堵した私は、いつ退却を決めるか分からないニンゲンたちのため、ご褒美を用意するとにした。

 

 先日現れた宝箱を罠と一緒に入り口から少し進んだ脇道に移設する。

 箱を開けることは禁止だが、移動できることは確認済みである。


 当然、ニンゲンたちが見落とすはずがない。

 周囲を警戒し安全を確認する。


 続いて罠の確認。今回も宝箱の前に設置した落とし穴に気が付いたようだ。

 慌てず天井や壁も確認する徹底ぶりだ。


 前衛の攻撃担当が罠を解除しようと近づく。しかし


 「っ! いがぁぁぁぁぁあ!」


 落とし穴の手前に設置した、もう一つの落とし穴(・・・・・・・・・)に落ち、絶叫が三階層中に鳴り響いた。


 今かかった落とし穴は、これまでと違い、隠蔽率を非常に高くして設置した特別製だ。

 というより、これまでの罠は、わざと見つけやすいよう雑にセットし、油断を誘うための欺瞞トラップだ。

 先日、トトから授かった知恵の一つである。


 この好機に全防衛戦力に突撃命令をかける。

 ニンゲンたちが浮足立っているのがよく分かる。


 先ほどまで見せた統率の取れた動きは微塵もない。


 小柄な支援役は必死に罠にはまったニンゲンを救おうと引っ張っている。


 遊撃役のニンゲンは、加勢するか退却するかで右往左往している。

 その挙動不審な行動もわずかな時間で、ゴブリンたちの突撃音が近づいてくると、遊撃役は二匹を置いて、二階層に向かって走り出した。


 ゴブリンたちは、そのままの勢いで残った二匹のニンゲンに殺到、連携力ゼロのただの暴力を振るう。


 あっという間に身に着けていた防具をはがし、四肢を切り裂く。

 二匹のニンゲンから、より壮絶な絶叫と悲鳴が響いたが、やはり何を言っているか分からない。

 それもすぐに小さくなる。


 死体を捕食してもコピーできない。


 事前に殺さないよう指示をしていたが、攻撃の勢いを見るに忘れているんじゃないか!

 仲間を多くやられ、いきり立っているようだが、あとから復活できるんだから冷静になってほしい。


 慌てて中止命令を出し、逃げた最後の一匹を追うよう次の指示を出す。


 ゴブリンたちがいなくなると、そこには未開封の宝箱が一つと肉塊が二つ。


 罠にはまった攻撃役のニンゲンは、頭が割れ、首も皮一枚でつながっている状態。

 生命感知する必要もなく死んでいる。あの攻撃力と観察眼は、ぜひ欲しかったんだけどな。


 支援役の小柄なニンゲンの方は、頭こそ割れているが首はつながっていた。

 カヒュカヒュと今にも止まりそうな浅い呼吸だが、かろうじて生きている。


 私は急いで捕食を行い、ニンゲンをダンジョンに取り込んだ。




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