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4.森の賢者との遭遇

 ゴブリンの襲撃以降、ダンジョン拡張は順調で深さも三階層となった。

 拡張に合わせ入り口も大きくなったせいか、いろんな種のモンスターが侵入してくるようになった。


 俊敏で連携が得意なフォレストウルフ、力自慢のレッサーベア、打撃耐性を持つスライムといった新たな侵入者を撃破し、捕食していった。


 さらにゴブリンでも見た目は同じだが、さまざまな特技を持った個体がコアを目指して侵入してくるようになった。


 これまで対処できたのは、モンスターが単独、または少数で挑んできたためだ。

 数の暴力は偉大。


 あと、ゴブリンたちが持つ罠の知識も大きく役立った。


 落とし穴の底に、ウネウネ毒を塗った木製槍の罠が今のお気に入り。


 洞窟の入り口付近に潜ませ、背後からモンスターを射抜くゴブリン弓兵もなかなか優秀。


 侵入者は強さに応じて知能も高い傾向があり、最近コピーした同じ種どうしなら意思疎通できるものが多かった。


 フォレストウルフにはペアでダンジョンの外を巡回するよう指示を出し、侵入者が来ないか見張らせている。

 レッサーベアにはコアの前に待機させ、最終防衛線を任せている。


 ウネウネとも意思疎通できれば良かったのだが、今のところ難航中。

 必要に応じて意識を移して私自ら索敵を行う。


 そのほかゴブリン弓兵に小鳥を狩らせ、生きたまま持ち帰らせて捕食・コピーしてみたが、意思疎通できるほどの個体は得られていない。


 スライムも残念ながら意思疎通できていない。なかなか強力な仲間なだけに少し残念である。


 ゴブリンたちの知識から、同じコミュニティで暮らす者たちを仲間や同士、家族と呼ぶようだ。

 コピーしたモンスターたちを仲間と呼ぶようにしている。


 ダンジョン拡張と同様に外の探索も順調。

 ゴブリンの中でも優秀な個体に意識を移し、フォレストウルフ二体を引き連れて探索を進める。


 意識の移動はダンジョン内でしか行えないが、ウルフたちは私が操るゴブリンの指示ならば、ある程度理解して行動してくれる。


 ダンジョンを中心に螺旋状に探索範囲を広げる。


 洞窟を見つけた際は、細心の注意を払いつつ内部を確認するが、私のような存在と出会うことはなかった。


 半分はただの洞窟で、もう半分はゴブリンやレッサーベアの住処だった。


 そんな探索を続けてたある日、妙な場所に出た。

 一帯に水がたまり、水面には大きな丸い葉が浮く。ときおり赤い花が顔を出している。

 これが湖というやつらしい。


 湖の真ん中に、葉もつけず朽ちかけの木が立っている。

 生気の乏しい一見ありふれた木のはずなのに、なぜか存在感があり、足を止め眺めてしまう。


 その時になってようやく気が付いたが、古木の上に見たことのないモンスターがとまっていた。

 形状からすると鳥のようだが、ずんぐりした巨体で飛べるのか疑わしい。

 

 しかし、その鳥は私と目が合ったかと思うと、その巨体をものともせず飛んで近づいてきた。


 翼を広げた姿はとても大きく、横幅は二メートル以上ありそうだ。

 近くの枝にとまると私たちを観察しだす。

 羽は茶褐色で艶があり、首まわりだけ白い。その瞳には知性が宿っているように見えた。


 ……欲しい。


 私の心の声が通じたのか、フォレストウルフが臨戦態勢に入る。


 「無粋なやつだ。」


 ゴブリンでも分かる言葉を放ったかと思ったら、フォレストウルフ二体が切り刻まれ絶命した。


 風の魔法だ。


 魔法という存在を知ったのは、何度目かのゴブリンを捕食した時。

 そのゴブリンは魔法が使えた。


 風の刃を飛ばせたのだが威力のわりに燃費が悪く、一度使うとしばらく力を貯める必要があった。


 しかし今の魔法は、私の知っている風刀と比べ、威力も精度もとても高かった。

 残りどれだけ放てるのか分からないが、魔法なしでも私一人では敵わないだろう。


 死を覚悟したが、その時はいっこうにやってこない。

 不審に思って見上げると


 「おぬし、ただのゴブリンとは毛色が違うようだな。この近くにあるというダンジョンの者か?」


 これまで会話をされる経験がなかった私は返答できず、あたふたしてしまう。

 こういうときは、えっと。


 「どうした、舌でもなくしたか?」


 と言いながらクックックと笑う。私は喉の渇きを覚えながらも、なんとか答える。


 「は、初めまして鳥よ。私はこの近くのダンジョンの主で、今はこのゴブリンの体を借りて周囲を探索していたところだ。」


 私の返答に、彼はわずかに目を細めたる。なにか失礼だっただろうか?


 「ほう珍しい。ダンジョンと話すのは我が人生でも初であるな。それで名は何というのだ? 我はトト。ミネルバのトトと申す。」


 あの鳥はトトという名前らしい。

 それよりも驚愕の事実が判明する。私に名前がないことに今更気が付いた。

 ゴブリンにすら名前があるというのに。


 名前、……名前、……名前、とつぶやくも出てくるはずもない。


 「ひょっとしてお主、名なしか?」


 気まずげなトトに、これまで自身の名前のことなど考えたことなかったと正直に話す。


「これも何かの縁だ。名前を考えてもよいぞ。そのためにもお主のことを知らないといかんな。」


 そう言いながらトトはフォレストウルフの死体から離れ、私が腰を下ろせる岩場と、トトがとまれる枝の両方がそろう場所に移動した。


 トトとの会話は楽しかった。これまで大雑把な意思疎通や指示はしてきたが、会話ができるほどの仲間はいなかった。


 トトの目的は、最近ここら辺にできたと噂されるダンジョンの調査に来たという。

 つまり私のことだ。


 彼ほどの強者が攻めてくるのかと身構えたが、今のところ攻める気はなく、ダンジョン有無の確認、存在した場合は調査が目的ということだった。


 ダンジョンの規模について質問されたとき、正直に答えてよいか心配になった。

 トトから簡単に話さないことは大切だとほめられたが、正直に話さなければ威力偵察すると脅されたので、結局正直に話した。


 話を聞いた彼は、帰ったら罠やゴブリン兵の配置を変えるようアドバイスをもらい、私も素直に従うことにする。


 私からも疑問に思っていたことをいくつも質問した。


 質問の数だけなら、私の方が多かったと思う。

 彼にも分からないことはあったが、大半の疑問は解消することができた。


 ゴブリンなど、ある程度の力を持った生物はコアを目指してダンジョンに潜るという。

 コアには不思議な力があり、取り込むことで種としての格を強制的に上げられるといわれている。


 ただし私程度のダンジョン規模では、たいした効果は期待できないといわれた。

 ダンジョンを広げ、コアに魔力結晶ができてからが本番だそうだ。


 ダンジョンとは、地脈を流れる魔力を糧にしながら育つモンスター、ということも教えてくれた。

 私以外にいくつもダンジョンが存在し、百階層を超える未踏破の超深ダンジョンも存在するのだという。


 トトはとても賢い。どうやって知識を蓄え、磨いたのだろうか?


 太陽はずいぶん昔に沈み、東の空が白んできたころ、会話のネタが尽きて間が生じ始めた。

 この楽しい時間が終わることを予感した私は、次の話題を出そうとするが


 「そろそろ、おいとましようかの。有意義な時間だった。縁があればまた会うこともあろうの。」


 そう言ってトトの方から会話を切り上げ、翼を広げると大空へ飛び出す。

 止める言葉を持たない私はただ見上げていると、彼は振り返って、


 「そうじゃった。お主の名前だが、ラキアというのはどうだろう? 広がりゆくもの という意味がある。もらってくれると我も嬉しい。」


 そう言い残すと一度も振り返ることなく、北の方角へ飛んで行ってしまった。

 私は彼の翼が見えなくなるまで、別れを惜しんで見送った。


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