3.コアを狙うもの
昨日捕食したウネウネは、なかなかの猛者だった。
少し操作してみたが、すべての点において毛玉の基礎能力を上回っている。
さらに噛みつき攻撃を行うと、牙から相手を弱らせる毒を注入できる。
毛玉に打ち込んでみたら、少量でも相手の動きが鈍り、やがて絶命させることができた。
よし。ウネウネに意識を移し、久しぶりに外を探索してみよう。
ダンジョンの入り口から外を慎重にうかがい、脅威がないことを確認。
そろりと抜け出すと、周囲に注意を払いながら散策を始める。
ウネウネの感覚器官は優秀で、毛玉より遠くのモンスターを感知することができる。
戦闘は避けるべく、察知したモンスターをすべて迂回しつつダンジョンの周囲を調査。
とくに興味を引くものはなかったが、ダンジョンの頂上から辺りを見渡していると、変わった動きをするモンスターを見つけた。
ウネウネは視覚とは別に、私の生命感知に似た認識能力を持っていた。
生命感知ほど鮮明に形を認識できないが、地上から生える突起物に視界を惑わされずモンスターを感知できる。
通常、モンスターはじっと留まるか、一定の範囲を規則正しく移動、または獲物を見つけて一瞬激しく移動、のパターンがほとんどだ。
しかし今監視しているモンスターは、ふらふらと移動し、止まったり進んだりを繰り返している。
そういう習性のモンスターだっているかと思ったが、問題は、寄り道しながらも着実にこのダンジョンに向かってきていた。
突起物が邪魔して相手の姿は視認できないが、おそらく二体。大きさもウネウネと比べてかなり大きい。
相手を視認したい衝動に駆られるが、ここで主戦力であるウネウネをやられるわけにはいかない。
はやる気持ちを抑え、周囲を警戒しながらダンジョンに帰還する。
あのペースなら、数刻のうちに奴らは到着するだろう。
私はウネウネが感知した大きさをもとにダンジョンを変化させていく。
窪地をもっと大きく、段差も高くする。
そして奴らは予想よりもずっと早く、ダンジョンの入り口に現れた。
ようやくモンスターの姿を視認する。
四肢はあるが、なんと後ろ足だけで自重を支え歩いている。
空いた前足には細くて鋭い突起物と、平たい壁みたいなものを持っている。
体はひどく汚れているが緑色、全長はウネウネの二倍以上ある。
奴らは入り口を念入りに調べて脅威がないことを確認すると、一体ずつ並んで入ってきた。
ダンジョンは高さこそ、それなりにあるため身を屈める必要はないが、二体が並んで進むには窮屈な幅。
頭の中に警鐘が鳴り響く。奴らは敵だ。
ウネウネや毛玉は、ダンジョンを住処か狩場として訪れていたようだが、こいつらは私を、コアを狙って侵入してきたように感じる。
緑色たちは辺りを警戒しながらも、奥に向かって迷わず進んでくる。
私はウネウネを操作して奴らの背後に回ろうとしたが、気づかれてしまった。
一体が「キキッ」と短い警戒音を出すと、もう一体もこちらに視線を向ける。
見つかった焦りから、全身をバネにして飛びついたが、前足に持った平たい壁に阻まれると、もう一体が鋭い突起物で頭を潰した。
何もできないまま、ウネウネを失ってしまう。
少し進んだところで、続いて毛玉五体が一斉に緑色たちに飛びかかる。
最初こそ驚いたようだったが、相手を視認した緑色たちは冷静さを取り戻し、問題ないとばかりに一体ずつ確実に屠っていく。
足止めにしかならなかったが問題ない。狙った位置に留めることに成功した。
天井に吊るすように設置していた岩を自切。
ドッ、ブチャ!
一体の頭部に見事命中させることができ、そのまま仰向けに倒れ動かなくなった。
難を逃れた片割れは、すかさず平たい壁を頭上に掲げるが、次の落石は来ない。
代わりにウネウネ三体が降ってくる。
「ギェグエ!」
慌てた片割れは倒れた仲間を置いて、さらに奥に向かって逃げていく。
ウネウネたちは追いかける前に昏倒した一体に噛みつき毒を注入。
確実に相手の反撃能力を奪っていく。
奥に逃げたもう一体は、混乱しているせいか、自分の背丈ほどの段差を不用心に上り始めた。
前足に持っていた武器は段差の上に放り投げている。
両手をかけて飛び乗ろうとしたタイミングで、再び岩を自切。
狙いどおりの位置に落ちた岩が頭部に命中し、ひっくり返る。
意識はあるようだが体が思うように動かない敵に、ウネウネたちが追いつく。
「ギーギー、ギーギー。」
威嚇音を上げる緑色だが、もはや勝敗は決した。
満足な抵抗もできず、ウネウネたちの牙が肌を食い破る。
威嚇音はすぐに悲鳴に変わったが、おとなしくなるまで、さほど時間はかからなかった。
瀕死の緑二体を捕食して、今回の攻防戦は私の勝利で幕を閉じた。
さっそく倒した緑モンスターのコピーを作成する。
一気に体力を削られたが複製に成功した。
そして意識を移すと、これまでの毛玉やウネウネとは違った事象が起きた。
緑が持っていたであろう知識や記憶を共有することができたのだ。
彼らはゴブリンと呼ばれる種で、私はウ・ジュルメという個体名らしい。
前足ではなく、手に持っていたのは、武器や盾と呼ぶようだ。
それ以外にも、地上から生えている突起物は木、頭上に広がる空間は空、光は太陽という知識も手に入った。
これまで不可思議だった光景に名前がついただけで、急に理解できたような気がした。
毛玉やウネウネ、カサカサを呼ぶ名前もあったが、ピンとこなかったので、これからも私が名付けた方で呼ぶことにする。
そして武器や罠というものを知ったときは衝撃だった。
石のナイフや槍といった攻撃力を補強する武器。落とし穴や足を引っかけるといった罠。
これらはすぐにダンジョンに取り入れよう。
ひょっとしたら毛玉たちにも知識や記憶というものがあるのかもしれないが、微小すぎて認識できなかったのかもしれない。
ともかくゴブリンを量産すべく、ダンジョンの拡張を開始。
やはりダンジョンの拡張に伴いコピーできる数が増えていく。
拡張に伴い入り口や通路も広くなっていくが、罠やゴブリン兵のおかげで侵入者をことごとく撃退、捕食していく。
そんな拡張生活を続けていたある日、ふと疑問が生じる。
ゴブリンたちは何を食べているんだ?
彼らの記憶から、生命を維持するために食事をとる必要があることを知った。
私の捕食は、外敵の排除、コピーを作ることが目的だ。
捕食しなくても私の生命活動に支障がないことは過去に検証済み。
……あれ? 私は何を糧にして生命維持しているのだろう?
最後の疑問はいったん保留し、隣に連れていたゴブリンに聞いてみた。
毛玉やウネウネとは意思疎通ができなかったが、ゴブリンどうしなら簡単な意思疎通ができた。
彼によると理由は分からないが、食欲がわかないようだ。
さらに、食べなくても体に不調はないから不思議には思っているが、困っているわけではないという感じの回答だった。
つまり私と同じような存在に変化したのだろうか?
そもそもコピーして生み出した時点で、ゴブリンっぽいものであって、ゴブリンではないのかもしれない。
やはり答えの出ない疑問は保留する。
一瞬、複製したゴブリンと、侵入してくるゴブリンを解体して、構造を比較してみようかと思ったが、貴重な戦力を潰すのは惜しい。
いったん保留し、余裕ができたら行おうと行動リストに付け加えておく。




