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2.ダンジョン拡張と禁則事項

 ある日、毛玉を操作する私は、ダンジョンの外に出てみることにした。


 これまで生命感知で把握できたのは、あくまでダンジョン内部だけ。

 ダンジョンの外はどうなっているのだろうか、私は何一つ知らない。


 どんな場所なのだろう。どんなモンスターがいるのだろう。

 私の知らない景色が、そこには広がっているのだろうか。


 毛玉の四肢を操り、外へ飛び出して、この世界を感じてみたい。

 私は、はやる気持ちを抑えることなく、ダンジョンの外に踏み出す。


 ガブッ!


 あれ? 外に踏み出した瞬間、視界が途切れた。

 さらに意識が強制的に切断され、一瞬でダンジョンと同調した。


 んん!? 何が起きた。


 混乱したが、恐怖より好奇心の方が勝った。

 もう一度毛玉に意識を移してダンジョンの外に踏み出す。


 今度は、無事に外の景色を見られた。


 そこには想像の何百倍もの世界が広がっていた。


 まず天井がない。頭上には無限とも思える空間が広がり、その遥か彼方から眩い光が降り注いでいる。

 洪水のような光量に、毛玉の視界がくらくら揺れる。


 目線を地上に戻せば、ダンジョンとは比べ物にならない色であふれていた。

 世界には、こんなにも色があったのか。


 数えきれない細長い突起が天へ向かって伸び視界を覆っている。

 ときおり大気の揺れに合わせて突起物がしゃらしゃらと揺れる。


 なんて美し……ぐえっ!


 感動に体を震わせていたら、体が急に宙に浮いた。視界がみるみる高くなっていく。


 視線を巡らせると、巨大な何かに捕らえられ、頭上に広がっていた無限の空間に連れ去られる。

 全力でもがいても、毛玉の小さな体では拘束からは逃れられず、体力ばかり減っていく。


 それもやがて解放され、周囲を見回し事態を把握し始めると同時に衝撃。

 再び意識が切断され、ダンジョンと同調した。


 ……ダンジョンの外こっわ。


 あれから何度も毛玉をダンジョンの外に出し、周囲をうかがって分かったことがある。


 毛玉すごく弱い。


 三日も生き延びられなかった。

 途中、いろんなモンスターと遭遇したが瞬殺された。不意を突けても返り討ちである。


 毛玉より弱いカサカサなんて論外。お前たち、どうやって生き延びてるんだ?


 だが笑い事ではない。


 もし外のモンスターたちが、このダンジョンへ侵入してきたら?

 私のコアは簡単に破壊されてしまう。


 焦燥にかられた私は、ダンジョンの防衛力を上げることに注力する。


 ひとまずは外敵の侵入を防ぐために入り口を塞いでしまおう。

 私は意識を入口へ集中し、岩盤を操作して通路を狭めていく。


 ところが、もうじき閉じ切るタイミングで意識下でアラームが鳴り響いた。


 ……ビィビィビィ、禁則事項です。コアまでの通路すべてを塞ぐことは禁止です。


 抑揚のないアナウンスが私に直接語りかけてくる。

 以前、自我が芽生えたとき、天啓を与えてくれた存在より、さらに無機質な声だ。


 アナウンスが終わると同時に、閉じかけていた入り口が崩壊し、元の大きさに戻ってしまう。


 えっ、何?


 私の行動はすべて誰かに監視されてるの?

 そもそもなぜ入り口を閉じることが禁止なんだ?


 しばらく混乱したが、その答えは誰も教えてくれない。

 納得できないが、そういうものだと諦め、別の方法を模索する。


 次にダンジョンの最奥にあるコアの存在を隠すよう、コアの前に壁を作ろうと念じてみる。


 ……ビィビィビィ、禁則事項です。コアまでの通路すべてを塞ぐことは禁止です。


 再び無機質な声が響くと壁が崩壊する。

 まぁ、想定通りではある。

 モンスターがコアまでたどり着けるよう、通路を確保しなければいけないルールなのだろう。


 あと今の崩壊に巻き込まれて毛玉が一匹やられた。


 それから禁則事項のギリギリを狙い、通路を狭くしたり、高低差をつけたり、侵入しづらい工夫を続け、ダンジョンを広く深くしていった。


 ところが、広げすぎると今度は入口や通路も一定以上の広さを要求されるようになった。

 どうやら広さに応じた「攻略可能性」を維持しなければならないようだ。

 私はいったん拡張を停止する。


 続いてダンジョン内を照らす不思議な鉱石を壁で覆う。


 ダンジョンの拡張に伴い、私の意思に反して一定の間隔で淡い光を放つ鉱石が出現したのだ。


 毛玉たちは視覚でものを認識するため、光を壁で遮断することでモンスターの移動を阻害できると考えたのだ。生命感知できる私には何の問題もない。


 ある程度、光源を覆ったとき――


 ……ビィビィビィ、禁則事項です。ルーメンを規定値以下にすることは禁止です。


 無機質な声と共に壁が崩壊し、辺りがぼんやり明るくなり岩場の影が伸びる。


 ぐぬぬ。これもダメなのか。そもそもルーメンってなんだ?

 私を創った主は、本当に私を強くしたいのだろうか、早く死んでほしいと思ってないだろうか?


 ただ悪いことばかりではなく、ダンジョンを拡張した影響か、毛玉をコピーできる数が増えた。

 最初は五匹程度で活力が低下し身動きできなくなったが、今では十匹以上増やすことができる。


 正直、毛玉の数が倍にできても役に立たないかな、と思っていたが、ある日新たなモンスターが現れた。

 そいつは細長い体をくねらせ、音も立てないで侵入してきた。


 捕食を試みたが、やはり避けられて効果がない。

 カサカサや毛玉を囮にして捕食を試みようとしたら、なんとコピーした十匹の毛玉たちが突如、侵入者に飛び掛かったのだ。


 しかし新たな侵入者は強く、一匹目の毛玉は鋭い牙で噛み殺され、二匹目もたいしたダメージを与える間もなく絞殺された。


 その後も五匹、六匹と倒されていくが、毛玉たちもただではやられない。着実にダメージを与えていく。

 そして意識を移した私の毛玉だけになったころには、相手を瀕死の状態に追い込んでいた。


 動きが緩慢になった今なら捕らえられると確信し、捕食を実行。

 見事ウネウネの捕食に成功した。


 新たにウネウネがコピーできるようになったこと以外に、いくつか発見があった。


 コピーしたモンスターたちは、私が「敵だ」と認識した存在を自律的に攻撃すること。

 ダンジョンを防衛する意識が芽生えるようだ。

 あと、強敵でも数で攻めれば対処できることを理解した。


 とはいえ、ウネウネ一体に全滅しかけ防衛戦力がなくなった私は、次の襲撃者の影におびえながら、休む間もなく複製を始めた。



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