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1.始動

 リスクを恐れず試行錯誤せよ。


 天啓をくれた存在は、確かにそう言った。


 意味は分かったが、具体的に何をすればよいのか分からない。

 さらに深淵とは何なのか。災悪のダンジョンとはどのような存在なのか。


 丸一日思考を巡らせたが、よく分からなかった。


 なので、とりあえず日課となっていた捕食活動を行うことにする。


 ダンジョン全体に意識を集中させて生命のいる場所を探知する。


 ちょうど入り口付近に小さな命を検知する。

 この感覚は知っている。これまで何度も狩ってきた、小型のモンスターだ。


 意識をその場所に集中させ捕食。

 モンスターの生気が急速に失われ、私の中に取り込まれるように溶けていく。


 その感覚を味わいながら、ふと疑問が生まれる。


 ……捕食とは何だ。


 これまでなんとなく捕食行動を行ってきたが、何の意味があるのだろうか?


 空腹だから? 違う。私は飢えない。


 では成長のため? 食べなくてもダンジョン拡張に支障はないから、これも違う。


 そこで実験することにした。

 捕食活動をやめてみる。やめることで、何か変化が起きるかもしれない。


 変化なし。


 あの日から一か月捕食をやめてみたが、何の変調も起きない。

 そして思考が「捕食とは何だ」という最初の疑問に戻る。


 さらに一か月間思考を続け、一応の仮説を立てる。


 私の目的は、何人の踏破を許さない災悪のダンジョンとなること。

 つまり捕食は、侵入してくる外敵を駆逐する手段なのかもしれない。


 そう仮説したとたん、ダンジョン内に生命がいることに耐えられなくなった。

 いつ私のコアを破壊するか分からない敵としか思えなくなったのだ。


 探知を行うと、かなりの数がいることが分かる。それを片っ端から捕食していく。


 しかし、そこで問題が起きる。

 大半は捕食に成功するが、一部のモンスターには捕食が通じず、取り逃してしまう。


 対処できないことに焦りを覚えたが、そのモンスターは、特定の獲物を食らいつくすと、私のダンジョンから自ら出ていった。


 静寂に包まれるダンジョンに安堵すると同時に、対処できない敵がいることに恐怖を覚える。

 あのモンスターをなんとかしないと。


 その後も幾度失敗を重ねることで、奴の生態が分かってきた。

 奴は、私が狩れるモンスターAを捕食しに来ているようだ。

 Aを狩り尽くすと、奴もいなくなる。


 つまりモンスターAさえ駆逐し続ければ、奴が来ることはなく、安全が保たれるということだ。


 ……そんなことで良いのか? そんなことで災悪のダンジョンとなれるのか?


 それではダメだ。一部の迷いなく結論づけると、自力で狩ることを改めて決意する。


 まずモンスターAの捕食をやめる。どうせこいつらは多少増えても脅威とはならない。

 そう言い聞かせ待っていると、やがてAが住み着くようになり、それに釣られて対象のBがやってきた。


 通常の捕食は失敗。やはり捉えられない。

 そこでモンスターBがAを捕食する瞬間を狙ってみることにする。


 Bを感知し続け、Aに接敵するのを待つ。


 奴が襲う瞬間、一瞬ためがある。その隙を狙って捕食。

 しかしギリギリで避けられ、ダンジョンの外へと逃げて行ってしまった。


 避けられてしまったが、手応えはあった。

 次は、奴が襲った直後を試してみることにする。


 しばらくすると再びモンスターBがダンジョンにやってくる。

 前回と同一個体かは分からない。


 モンスターBがAに接敵するまで感知を続ける。

 奴は慎重にモンスターとの距離を測り、襲うタイミングを計っている。


 奴の動きが一瞬止まる。襲う合図だ。

 次の瞬間には、モンスターBは一気に距離を詰め、Aに取りついた。


 捕食!


 取りついた瞬間、私も捕食を実行。

 そしてモンスターA、B両方の捕食に成功した。


 やった! やったぞ。


 これまでにない感情が湧いてくる。これは歓喜か。


 一度成功すれば、次はより確実に、効率的なやり方を模索する。


 ダンジョンの入り口を監視し、モンスターBが入ってきたら、数匹のAを捕食せず地面に縫い付け留めておく。

 あとはいつものパターン。Bが取りついた瞬間を狙い捕食する。


 何度目かの成功を収めたあと、あることに気が付いた。

 意のままに操れるモンスターBを生むことができることに。


 意識すればモンスターAも生むことができた。

 どうやら捕食したモンスターを複製することができるようだ。


 その結果、私は彼らを通して初めて五感というものを手に入れた。


 どの感覚も私に革命をもたらしたが、特に視覚には驚いた。

 生命検知と比べて検知できる範囲は狭いにもかかわらず、ダンジョンが何倍も広く感じられた。

 あと世界には色があることを知った。


 そして初めてモンスターBの姿を把握した。二十センチほどの楕円形で、毛玉に覆われた生き物だ。

 モンスターAは、五センチほどの、カサカサと動く生物だった。


 捕食したモンスターのコピーを作れるようになった私は、いろいろと試行してみる。


 初めに毛玉を複製。

 毛玉とは、幾度も私の捕食から逃れたモンスターBのことで、同様にAのことはカサカサと名付けた。


 順調に数を増やせたのもつかの間、五体目を生んだ辺りから気だるさを感じ始める。


 少し待機すると、いつも通りの感覚が戻ってきたので複製を再開。

 しかし一体増やすだけで体が待機を求めてくる。


 しばらく待機するが、なかなか活力が戻らない。

 そこで作り出した毛玉を一体捕食し、数を減らしてみる。すると活力が戻ってきた。さらにもう一体減らすと、いつも通りの感覚に戻った。


 何度かコピーと削減を繰り返して分かったことは、コピーできる数には限界があること。

 毛玉なら五体、カサカサなら二十体といったところだ。


 そして私は、生み出した複製体の感覚を乗っ取り、自由に操作することができるようだ。

 乗っ取りはコピー相手なら瞬時に切り替えられるが、同時に複数の支配操作はできない。


 あと複製したモンスターに明確な指示は出せないが、何となく敵意はなく、ダンジョン内を徘徊するようになった。


 仮に敵意があっても自由に体に乗っ取ることができるため、私のコアに近づかない限り、特に気にする必要はないだろう。


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