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37.防衛戦

 奴らの戦術は前回と変わらない。


 少し進んでは範囲魔術と爆破魔術で一帯を焼き払いつつ前進。

 反撃を受ければ即座に陣形を構築して各個撃破する。


 速度こそ遅いが、強力かつ堅実な侵攻だった。

 いくら防御陣地に籠っていても並みのゴブリン兵では、一方的にやられていく。


 こちらは兵を盾に時を稼ぎながら、消耗させつつ敵戦力を削っていくしかない。


 二階層に到達しても、その慎重さは変わらない。

 進行方向を燃焼魔術で焼き払い、潜伏する敵ごと罠を消し飛ばしながら進む。


 続いてマップを取り出し、先の探索をもとに作成した侵攻ルートの確認をしながら進むが――


 「何! 壁だと!? マップと地形があっていないぞ!」


 悪態をつきながらも、信徒たちは地形把握の魔術具を掲げ、探索と侵攻ルートを決めていく。


 「よし、このまま直進する!」


 ドヒュンッ!


 「ぐあっ!?」


 突然、通路脇から放たれた矢が、先頭を進む信徒を貫く。


 「後退、後退、おい止まれ。止まっ――」


 真後ろにいた信徒が後退を叫ぶが、動き始めた一団が、そう簡単に止まることもできず、後続の仲間たちに押され、射線に身をさらす。


 ドヒュンッ!


 「ぎゃあっ!」


 再び放たれた矢を真横から受け、断末魔を響かせる。


 ようやく異変の知らせが最後尾まで届き、侵攻を止めて状況確認を始める。


 「何? 横道! 魔術具に映っていない横道だと!」


 男の言う通り、魔術具が映し出す俯瞰図には、しばらく続く一本道しか表示されていない。

 しかし、実際に視認すれば、薄暗くても左右に道が横断していることが分かる。


 混乱する信徒たちだが、すぐにその原因を突き止めた。


 「魔石か。これを使って干渉したというのか!」


 通路に埋められた魔石を見つけると、武器で叩き割る。

 さらに通路を燃焼魔術で焼き払っていく。


 地形そのものを変えたうえで、魔石によって探査用魔術具に偽の情報を流し込む。

 正面から倒せないなら、敵の認識そのものを騙して削っていく。


 これを五階層まで徹底する、今回の基本戦術だ。


 三階層に到達されると、ゴブリン兵、グレーウルフの集団で波状攻撃を仕掛ける。


 この攻撃にも敵兵たちは落ち着いて対応し、わずかな負傷を負わせただけで、味方の兵たちは返り討ちに遭ってしまう。


 ところが、敵が部隊を整え、侵攻を再開して間もなくすると異変が起きた。


 「おい、何してる! やめろ、ぐわぁ!」


 突然、隣にいた信徒が乱心し、近くの信徒たちを斬りつけ始めたのだ。


 「どうなっている? もういい。殺せ!」


 騒然となる一団だったが、リーダー格の指示で、戦士系の信徒に斬り捨てられてしまう。


 突然の奇怪な行動を受け、動揺する敵の集団。原因を探るため、すでに事切れた信徒の検分が始まるが――


 「うん!? 誰だ、こいつは?」


 フードをめくった男の顔に覚えのある者がおらず、さらに動揺が広がる。


 それもそのはずで、彼は円環の徒ではない。

 以前、探索要員として近隣の街で雇われ、ダンジョンに侵入した末に捕食された――エルマンである。


 私は彼に意識を移すと、さっきのゴブリン兵との乱戦中に一団に紛れることに成功。

 そして機を見て、信徒たちに襲いかかったのだ。


 結社のメンバしかいないダンジョンで、人間を害する人間がいるとは思い至らない一団に紛れ込むのは容易だった。

 その後もストックしていた人間に意識を移し、同じような攻撃を行い二人を倒した。


 二度の奇策を受け、敵はフードや兜を外し、お互いの顔を視認しやすくする対策を行う。


 数人倒せただけでなく、防具まで外させることに成功した。

 こちらとしては十分な戦果だ。


 通路の罠や生存を顧みない突撃、潜入などで数を減らしていった結果、五階層までに打ち倒した敵兵は、およそニ十。


 こちらは百を超える被害だが、善戦している方だろう。


 残りの敵兵は八十弱といったところだが、負傷している者も多く、もう半分削れば勝機も見えてくるはずだ。


 程なくして一団は、五階層の砦であるゲートキーパーの部屋になだれ込んできた。


 そこで待ち構えるのは、ホブゴブリンのウドーと、散開して配置されたゴブリンアーチャーとメイジがそれぞれ十体。


 ウルズスが待ち構えていると思っていた信徒の集団は、肩透かしを食らった状況となり、用意していた大規模魔術を、どこへ撃ち込むべきか相手を絞れずにいた。


 そこに一拍の隙が生じる。


 すかさずゴブリンアーチャーとメイジが、遠距離射撃と魔術を一斉に放つ。

 それでも円環の信徒たちは浮き足立つことなく、冷静に対処を始める。


 矢の攻撃に対しては戦士系が盾を掲げ、魔術に対しては術師が障壁を張って防ぐ。


 ダメージを与えることはできなかったが、ウドーが一撃を繰り出す時間を稼ぐことには成功した。


 「うおおぉ。アクセラ! ストラ!」


 身体強化魔術を重ねがけして切り込む。


 ガギィィィン!


 渾身の一撃すら盾持ちに防がれてしまったが、その勢いのまま敵勢力の中に入っていく。


 このままでは、袋叩きに遭い、あっさり討たれるだけだが、そのウドーの上空をアーチャーとメイジの第二波が襲う。


 ウドーを避けて撃つような生ぬるい攻撃ではない。むしろウドーを目印に攻撃を行っている。

 実際、一本の矢が彼の肩を貫いていた。


 この味方ごと巻き込む捨て身の戦術が、予想以上に機能する。


 遠距離攻撃を嫌った兵士や魔術師は、先と同様に防御を行う。

 その防御によりできた隙に、ウドーが力任せの一撃をねじ込んでいく。


 さすがに周りに信徒が多くいる状態では、魔術師たちも味方を巻き込みかねない攻撃魔術は撃てないでいた。


 ウドーも敵から離れないよう、人の集まりが多い方、多い方に移りながら攻撃していく。


 戦闘から離れている敵兵の数人が、アーチャーたちを狩るため距離を詰めてくる。


 攻撃が届くまで、数歩というところまで近づいたが――


 「グオーーッ!」


 その時まで隠れていたレッサーベアが脇目も振らず、一直線に突進を行い、その質量と速度で相手を轢き飛ばす。


 ケボンが考えた戦術だったが、思いのほかハマっているな。


 すでに満身創痍のウドーだが、手応えを感じているのか、血走った目をぎらつかせ、次の獲物へと歩みを進める。


 これは大打撃となるか。

 そう思った瞬間だった。突然、彼を中心として紅蓮の竜巻が生じ一帯を飲み込んだ。


 ッゴォォォッォン!


 以前に見たメルカヴォルカノンのようだ。

 当然、紅蓮の渦はウドーだけでなく、周囲の信徒も容赦なく巻き込んでいく。


 その熱量はすさまじく、少し離れた程度では熱傷を免れず、肺を焼いて継戦能力を奪っていく。


 中心にいた者は、ウドーを含めて生存の可能性すらない。

 肉体は炭化し、原形を留めていなかった。


 味方ごと焼いたのか。今の一撃で十人近い信徒まで戦闘不能にしている。

 そんな狂行を行う奴がいるのかと探っていると――


 「愚図どもが。時の価値を知らんのか」


 大きな声ではなかったが、信徒の誰もが聞き逃すことはなかった。

 私も含め全員、一斉に声のした方を振り向く。


 部屋の入り口で、男が杖を傾け、不機嫌そうに立っていた。


 腰まで届くほどの黒髪を垂らした細身の壮年で、鋭い眼差しには近寄りがたい冷たさが宿っている。


 服装は他と同じで、黒のバトルスーツに白を基調としたマントだが、マントには細かな刺繍が施され、指や腰にいくつもの装飾品をつけている。


 ……あれ、全部魔術具か?


 「閣下」


 リーダー格の信徒が、戦闘中にもかかわらず、身を低くして臣下の礼を行う。


 あれが、円環の徒の首魁か!

 ようやくボスの登場である。トバルガイン同様に、生命感知に映るあいつの影から尋常でないのが分かる。


 そういえば彼の両脇には、露払いの兵が二人控えているが、トバルガインの姿はない。

 ありがたいが、このまま参戦しないなんてことはあるまい。


 閣下と呼ばれた男が歩き出す。


 杖を構えて戦闘姿勢をとることもなく、ただ前に向かって歩き始める。


 それを見た信徒たちは、血相を変え、残りのゴブリン兵、レッサーベアに殺到する。


 どれほど犠牲を払おうと、閣下の歩みを邪魔させない。

 その一点だけを目的とするかのように、信徒たちは狂気じみた形相で残りの兵たちを刈り取っていく。


 結局、奴は一度も振り返ることなく、淀みない歩調で六階層に降りて行った。

 

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