28.第三勢力の介入
「我の勝ちぞ!」
グオォォォーーーン。
地龍が勝鬨の咆哮をあげる。
「いやいや、この勝負、私たちの勝ちだよ」
私の冷ややかな指摘に咆哮をぴたりと止め、弾かれたようにこちらを振り返る。
「よいしょ。いててて」
私は臀部をさすりながら、玉座が据えられていた場所に掘られた穴から這い出し、地龍が次の行動に移る前に、奴の足元を指さして宣言する。
「地龍フィグネシア。このフィールドから出たお前の反則負けだ!」
弾かれたように足元を確認すると、勝負時に私が引いた境界線から体半分が外に出ていた。
「あ! な、なっ」
仕掛けは単純。
戦闘開始とともにゴブリン兵たちが獲物をショベルに持ち替え、玉座のさらに後方で、私がすっぽり収まるほどの大穴を掘り抜く。
彼らの作業が隠れるよう、玉座は大きめにしつらえてある。
その後、台ごと玉座を大穴の上に移動させて塞ぐ。すぐに落下できるよう、台にも細工を施してある。
あとはピンチを演出して地龍を引き付け、相手に勝利を確信させつつ必殺の一手を誘う。
あれほどの巨体だ。一度速度が乗ったら、止まるにはかなりの制動距離が必要となる。
結局、最後の一撃は玉座を破壊したあと、止まるまでに四十メートル近く大地を削っていた。
わざわざネタばらしをしなくても、奴自身、事態を飲み込めたようだ。
「ぐ、ぐぬぬ」
力で負けていないという気持ちと、取り決めを反故にできない気持ちがせめぎ合うが――
「……あぁ、負けたー。うえーーーん」
反論もなしに負けを認めるとは、高潔なのか、堅物なのか、とにかく真面目な奴で良かった。
それにしても泣くなよ。
今までの尊大な態度から一転、周りをはばからず声をあげて泣き出した。
何一つ後ろめたい行為はしていないが、愚直に力勝負をしてきた相手の悔し涙を見ると、少しだけ悪いことをしたような気持ちになるから不思議だ。
「うえーーーん。むしられて食べられちゃうよー」
「んなっ!? 誰が食べるかーーー」
予想しない思考の飛躍に、思わずツッコんでしまう。
「ホント? 食べない?」
改めて問われ、ちょっと考える。捕食か。
地龍を捕食すれば、突出した防衛戦力となるのは間違いない。あのサイズを捕食できるとは思えないが。
……ジトー。
思わず獲物を見る目で相手を観察してしまい、「食べる」「食べない」のやり取りをもうワンテイク行うはめになった。
ひとまず捕食の件は保留だ。
「それで、フィグネシアほどの龍が手こずる『理を歪めるもの』って、どんな化け物よ」
話題を変える目的で、この勝負のきっかけとなった存在について尋ねる。
「フィリーでいい。他の柱からはそう呼ばれてる」
また可愛い名前だな。
龍種としての存在感と、たまに見せるマイペースなしぐさに落差があり、距離感がつかみづらい。
ひょっとすると、想像以上にまだ若いのかもしれない。
「理を歪めるもの。それは不正な方法で世界に干渉する人間たちの集団だ。拠点の一つを攻めたが、抵抗が激しく落とし切れなかった」
人間なの!?
拠点がどれほどの規模か分からないが、この地龍の突破力をもってしても落とせない。そんなことがあるだろうか。
にわかに興味が湧いてきたそのとき――
!?!?!?
後方から膨大な魔力を検知。振り返れば、今まさに小さな太陽が顕現し終えていた。
最上級燃焼魔術だと!
その奥に術者らしき人間たちが見えるが、光と陽炎で容姿はもちろん、人数すら視認が困難だ。
何の宣言もなしに打ち出された太陽が、こちらに向かって飛翔する。
直撃は避けられても、あんなもの、かすっただけで消し炭だ。
思いついた対応策を指示する前に、生き残っていたグレーウルフが風魔法を展開しながら特攻を仕掛けた。
ッバァーーーーーーン!
数十メートル手前で爆散する太陽。
「よくやった!」
フィリーの叫びに合わせて、
ドン! ドンッ!
大地に干渉して瞬時に岩壁を二重で出現させ、自身と私を吹きすさぶ爆炎から守ってくれる。
それでも肌にチリチリと痛みが走る。呼吸しようものなら肺が焼けそうだ。
爆炎はしばらく続くが、この業火では向こうも攻めては来られない。そう思っていたが――
ヒューーーーゥゥン
上空から飛翔音が聞こえる。
まさか。
ほどなくして空から、私の顔ほどの岩が二個、三個と降ってきた。
当たれば致命傷だが、幸い後方に落下する。しかし、その岩には裂け目がいくつもあり、そこから赤銅色の光が漏れている。
「爆弾!」
私が叫ぶと、フィリーが後方にも岩壁を出そうとしたので、あわてて阻止する。
退路まで閉じたら袋の鼠だ。
フィリーを伴い横方向に退避する。いまだ燃え盛る炎壁を、地龍の巨体を盾にしながら移動。
退避と同時に爆弾が爆ぜる。間一髪、有効射程から離れることができたようだ。
助かった。あれを上空で爆破させられていたら、地龍はまだしも、私ならやられている。
あいつら、私までターゲットにしたな。
その後も矢による攻撃が炎越しに行われたが、どれも私の位置からは的外れな方向へ飛んで行った。
私の方も爆弾や矢の飛翔角度から相手の攻撃位置を算出。
「エンデニール!」
力ある言葉とともに黒い槍を叩き込む。
その後も炎壁越しに魔術や飛び道具で攻撃し合っていると、ついに業火が収まり一帯を見渡せるようになった。
……いない。
しかし攻撃を仕掛けてきた方向には、ロックゴーレムが二体いるだけで、敵の姿はなかった。
デコイとして残されたロックゴーレムが、矢の尽きたクロスボウを健気に巻き上げ続けている。
四、五人いた気がするが、どうやら奇襲に失敗すると迷わず離脱したようだ。
フィリーに心眼とやらで探せないか確認したが、すでに近くにはおらず、遠くは他の生物に紛れて特定できないらしい。
それでも何か手掛かりを落としていないか周囲を散策すると、ゴーレムがいた場所からさらに奥の森に一人の死体を発見。
黒一色のバトルスーツに白を基調としたマントを羽織った男だった。
まず目に入るのは、わき腹の大怪我。深く、くり抜いたようにえぐれている。
傷の形や残り香から、私の放ったエンデニールが運よく命中したようだ。
わき腹も十分に致命傷だが、胸には刺突痕。ご丁寧に心臓を二度も刺して、確実に口封じをしている。
少しでも息があれば、持ち帰って捕食し、敵の情報や新たな知識を得ることができたのに。
「それで、これが理を歪めるものって奴ら?」
私は死体を足で突きながら、衣服の特徴に覚えがあるか質問する。
服装の意匠が統一され過ぎている。こういった様式を以前に見たことがある。
「そうだね。皆、こんな感じの皮で身を包んでいた。理を歪めるものの先兵だ」
そう軍服だ。ヴァイツ王国とはデザインが異なるから、別国の軍隊だと思うけど、どうだろう。
それにしても先兵か。
確かに軍事組織にならえば、四、五人は編成の最小単位だ。単独任務ならば、目的は偵察。
攻撃してきたということは、強行偵察か。
そんな偵察部隊に最上級燃焼魔術を扱える魔術師がいる。
どうも人間の脅威度について、私は認識を改める必要があるようだ。




