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24.似て非なる思考

 洞窟の前を徘徊していたゴブリンたちが私の接近に気づき、手にした武器をかざし白兵戦を仕掛けてきた。


 野良ゴブリンの知能はそれほど高くなく、戦術はおろか集団戦も満足に行えない。

 しかし迫ってくるゴブリンは、それに輪をかけて行動が拙く、動きに精彩さもない。


 私は同時に複数を相手にしないよう、位置取りだけ注意して戦う。


 右手に短剣、左手にメイスを握り、二体目、三体目とステップを踏むような調子で屠っていく。

 今回、試しに刃物武器をメインに使ってみた。


 正しく振れば強力な必殺武器だが、いかんせん脆いのが問題だ。

 使い手の技量もあるのだろうが、ふとしたことで刃こぼれする。

 欠けたまま使い続けると、予期しないタイミングで折れて致命的な隙をさらすリスクにつながる。


 今もゴブリンの筋と動脈を切断しようと短剣を振るうが、狙いがずれて下顎辺りを切り裂く。

 その際、骨に当たり刃こぼれしてしまった。


 すかさず別の短剣を空間から取り出し、持ち替える。


 剣は敵が少数なら優秀な武器だが、集団を相手にするには不安がある。


 それに比べ、メイスは使い勝手が良い。

 まず欠けることがなく、武器として寿命が長い。

 では威力が劣るかと言えば、そうでもない。


 魔術の補助を得て力いっぱい叩けば、おおよそのモンスターは砕くことができる。

 魔術と相性が良い武器とも言える。


 外にいたゴブリンに加え、洞窟から這い出てきたゴブリンたちも全て処理する。

 辺りには十を超えるゴブリンの死体が散乱している。


 どの個体にも首元にコブがあり、瞳も白濁していて、とても正常には見えない。

 さらに殺してなお、腕や足などの部位が、自立しているかのように発作的に動きだす。


 移動するほどの力はなく、その場でもがいているだけだが、生理的にあり得ない行動で、見ていると気分が悪くなる。


 すでに相手の察しはついているが、油断することなく装備を整え、灯りを準備すると洞窟に突入した。

 洞窟は一本道でそれほど深度はなく、すぐに一連の異常事態の原因と遭遇した。


 ブラキオスライム。


 別名、寄生浸食スライム。


 赤紫のまだら模様を持つスライムで、別名の通り生き物に寄生し、宿主を遠隔操作してエサを集めさせる特性をもつ。


 光源を掲げれば、背後に元が何だったのか分からない捕食後の残骸がいくつも積まれていた。

 その中には、まだ捕食されず残されている個体も見える。


 ブラキオスライムは、なかなかユニークなスキルを持っているが、個の戦力はたいしたことがない。

 今も必死に体をねじり、脱出なのか、攻撃なのかは分からないが、何らかの抵抗を試みようとしている。


 私は狙いを定め


 「ブレイズランス!」


 力ある言葉と共に炎系魔術を発動し、相手を焼き尽くした。



 洞窟を出ると、外の眩しさに視力を奪われる。

 慣れてくると、森の茂みから不安そうに眺めていたトビー少年と目が合った。


 彼は私が何かを抱えているのを見て、喜色を浮かべ近寄ってくる。

 私も彼に向かって歩き出す。


 しかし距離が近づき、抱えているものが鮮明になるにつれ、彼の足取りが鈍くなる。


 そして手を伸ばせば届きそうな距離まで近づく頃には、彼の顔面は蒼白となっていた。

 後ろへ逃げだしたくなる本能を、意思でなんとか押し留めて立っている。


 「なんとか命のある内に助け出せることができた! よかったな」


 私はそう言って、彼の姉をそっと横たわらせた。


 彼女の体は至る所がブヨブヨに膨れ、肉腫のようなものまでできている。

 指をはじめ四肢も溶かされ始めており、癒着した状態だ。

 顔の部位は判別できるが、片目は溶け、鼻も半分ほど欠けていた。


 しかし、こんな状態でもまだ彼女は生きている。


 迅速な救出が功を奏したと言ってよいだろう。

 私はトビーの願いを叶えられたことに満足していた。


 おっと、そうだ。


 対価をもらう代わりに「これから君も困っている人を見かけたら助けてること」を依頼しなくてはいけない。


 そう思ったが、少年が茫然自失としていることに気が付いた。


 「何を呆けている? お姉さんだぞ」


 しかし彼は気に入らないらしい。


 「嫌だ。こんなの嫌だ。助けてくれよ。ぉねがいだよ」


 こうして助け出したというのに、意味が分からない。

 なぜ駄々をこねているのだろうか。

 ゴブリンに、さらに寄生スライムにさらわれた時点で、無事ですむ訳がないのに。


 後は街に戻り治療するしかない。

 元の体に戻すことは無理だろうけど、いくらか身綺麗になるだろう。


 その時、微かに第三者の声が聞こえた。


 「……し、て。……こ、ろして」


 姉が息も絶え絶えに何か話しているのだと気が付いた。


 最初に意味を理解したのは弟だ。腰を抜かし、その場にへたり込んでしまう。


 私も耳を近づけて彼女の声を拾う。

 どうやら、殺して欲しいと願っているようだ。


 なぜだ? 助かった命をなぜ粗末にする。私のように本体があるわけでもあるまい。

 死んだらお終いだろう。


 しかし彼女の懇願は、怨嗟のように続く。


 うーん。

 彼女の願いを叶えるのは、人助けか?


 私は検討を始める。

 兄妹が人助けをする目的は、確かこうだったはずだ。


 助けてもらった人が、その恩をまた別の人に行う。

 それを繰り返すことで、いつか自分に恩が返ってくるのが狙いだった。


 つまり、彼女の願いを実行しても貸しを作ることはできない。

 ならば、これは兄妹と約束した人助けとは性質が異なると判断できる。


 私は彼女の願いを却下する。


 「お前達の人生は一度きりだ。刹那に絶望して命をあきらめるな。まして他人に託すんじゃない。そんなに死にたければ治療を受けた後、自力で死ね。……ただ、これは助言なんだが、死ぬ前に家族とはよく話しておくといい」


 そう伝えると、彼女を抱え直して街に戻った。

 少年も泣きながら後ろをついてきた。


 城門に到着し、警備の兵に状況を話すと一時騒然となったが、日が暮れる頃には落ち着いた。

 姉は大きな医療施設へ運ばれたようだが、その後の状態は不明だ。


 私はなぜか一時拘束されたが、元冒険者だと伝えるとウルリカが迎えに来てくれ、釈放された。


 あっ、しまった! トビー少年に人助けさせる約束をし忘れていた。


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