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14.スタンピード

 太陽が東の稜線から顔を出し人間たちの時間が始まる。


 街の雰囲気は一見、いつも通りだが、どうにもざらついた感じが漂っていた。

 昨夜のうちに街の代表から正式にスタンピードの脅威とその対策が発表されたのだ。


 発表に伴い銀級以上の冒険者は討伐に駆り出され、銅級以下はギルド指示のもと物資運搬や土嚢作成など街内とその周辺の防衛に関する雑用に使われる。


 討伐に向かうのは、冒険者に加え正規軍、そしてエルツ警備隊。

 まだ正規軍の後発隊は到着していないが、百人を超える武装集団が城門前に集結している。


 ……壮観だ。


 ダンジョン内各所に散発的に兵を配置するのと、集団で固まっているでは、総数が同じでも迫力が違う。


 集めた情報によると、明朝に後発部隊が到着、明後日の朝からスタンピード鎮圧作戦が始まるということだ。


 私は、そんな混成部隊の様子を少し離れた丘の茂みから二体のグレイウルフと一緒に眺めていた。


 朝からギルドの指示通りにいくつか作業をこなし、夕方城壁の外に物資を運ぶ依頼を終えると街には戻らず、こっそり抜けて今の場所に身を潜めたのだ。


 程なくして灰色狼が私を見つけて合流を果たした。

 これで日が落ちたら上級ダンジョンに向かい、スタンピードを拝見させてもらおう。


 そんな算段をつけていると、混成部隊の一部が急にあわただしくなった。


 なんだろうと観察していると突如正規軍が移動を始めたのだ。


 あの方向は上級ダンジョンか。まさかの抜け駆けだ!


 冒険者やエルツ警備隊も異常事態に気づくが、動揺するばかりで(いさ)める者はいない。

 正規軍は、日頃の訓練のたまものか整然と速やかに上級ダンジョンに向けた進軍を始めた。


 もともとアイゼンエルツは、ダンジョン攻略のために作られた街だけあって上級ダンジョンとも距離が近く、半日も歩けば到着する。


 私はグレイウルフにまたがり、人目を避けるため街道を外れて道なき茂みを通ったが、到着は正規軍とほぼ同じタイミングだった。


 向かう途中に気づいたのだけど、辺りがやけに静かだ。

 野生モンスターもスタンピードの脅威を察したのか気配を感じなかった。


 そして上級ダンジョンの入り口を見て、スタンピードがどれだけ特異な現象か察することになる。


 上級も洞窟型ダンジョンだと聞いている。

 普段は、ぽっかりと穴が開いているのだろう出入口は、濃い魔力が靄のように覆い、その向こうに無数の何かが蠢いている様子が見える。


 正規軍は、休む間もなくバリケードの設置を始める。

 すでに加工は済んでいて組み立てるだけのスパイクバリケードという障害物だ。


 もうじきバリケードが完成するというタイミングで、ダンジョン側が先に動いた。

 私でもそうする。相手の準備が万全に完了するのを待ってやる義理はないのだ。


 靄のような膜が激しく起伏したかと思った刹那、ついに破れる。

 

 「戦闘用意ぃぃい!」

 

 正規軍から老齢だがよく通った声で号令がかかる。


 槍兵がバリケードの後ろで隊列を組み、隙間から狙えるように構える。

 剣と盾を構える兵は、わざと作ったバリケード間の空白地帯でモンスターを迎え撃つ態勢をとる。


 強固な防衛陣地がなくてもモンスター相手なら防衛側は有利だと聞いている。


 一か所に敵が固まらないように遅滞戦闘を心がけ、協力して一体ずつ確実に屠っていくのが、モンスター戦の基本戦術だ。


 組織だった運用ができないダンジョンは、どうするか。

 その答えは数まかせの力押しだ。


 破れたダンジョンの入り口からモンスターがあふれ出す。

 主な構成はタラテクト種。一メートル弱の蜘蛛型モンスターだ。

 それらが、文字通り蜘蛛の子を散らすように無秩序に正規軍に襲い掛かる。


 やはり隊列と組んで集団戦を行う人間は強いな。

 戦闘開始から一時間、これまで一人の脱落者もなく五百体以上のタラテクト種撃退に成功している。


 ただこれはダンジョン側の構造上の欠点が大きく人間側に有利に働いた結果でもある。


 下級ダンジョンと比べ上級の入り口は二回り程度大きいが、それでも詰まってしまうのか一度に吐き出せるモンスターの数が制限される。

 それが正規軍がなんとか対処できる量に収まっていることだ。


 そういう意味では、協調せず先行した結果、スタンピードが始まる前に布陣をひき待ち構えた指揮官の判断は正解だったかもしれない。


 なるほど参考になる。

 スタンピードの攻防を見て、自身のダンジョン改善ヵ所を心にとめていく。


 仲間たちには戦術を叩き込もう。

 そのためには、まずルール作成が必要か。範囲攻撃できる手段も必要だな。何が良いかな。

 あと出入口はもう二か所ほど作って……。


 そんなことを対岸の攻防戦を眺めながら考えていると。


 ドッゴゴゴゴー。


 突然何かが崩落する大きな音が響き渡った。

 ようやくか。上級が新たな出入口を作った音だと私は確信できた。


 新たな出入口の誕生は、ダンジョンによる蹂躙の幕開けとなった。


 これまでの二倍のモンスターが正規軍におしかける。堪えたのは一瞬だけ。

 右の防衛線が崩壊を始めると一気に王国軍は崩れ始めてタラテクトにのまれていく。


 かろうじて腕に覚えのある数組と指揮官がいる隊が奮戦しているが、もはや時間の問題だろう。


 いまだにダンジョンはモンスターを輩出し続けているが、タラテクト種以外にレッサーオーガなど色んな種が混ざり始めている。


 モンスターの種類を観察しているうちに残っていた隊も狩られ、ついに指揮官の隊のみとなる。


 隊と言っても指揮官以外の兵は、みな重傷で満足に動けず、指揮官が一人奮戦している状態だ。

 その指揮官もついにレッサーオーガの一撃を避けきれず、こん棒が頭をかすめ兜を飛ばす。


 !?!?


 その瞬間、私は心臓が掴まれたかと思った。兜が宙を舞い露わになった顔に見覚えがある。


 父さまだ。


 その瞬間、私は茂みを飛び出し地獄の中心めがけて突き進む。


 あれほど人間がかじられ、すり潰されていくのを平気で見ていたのに、(ハリス)が同じ運命をたどると思ったら、心が沸騰したかのように踊り狂い留まってはいられなかった。


 私が現場に向かう間も、彼は兵を守りつつレッサーオーガやタラテクト相手に死線をどうにかくぐり抜けている。


 「ヴォイドアロー!」


 射程に入った私は、慌てずいったん立ち止まり無属性魔術を放つ。

 狙い違わずレッサーオーガに命中し絶命させる。


 その後も、身体強化魔術を頼りにメイスを振りながら進路を拓き、ようやく父の背後へとたどり着いた。


 私の援護にハリスが反応する。

 「援軍か! 間にあったか!」


 「いいえ。見ての通り私一人。援軍はこないよ。急いでここから離脱する。反論はなし。」


 「仲間を見捨てて離脱できん。」


 そう言いながら、より重傷を負った隣の兵を担ぎ出した。


 さらにもう一人軽症だが足をやられた兵士に肩を貸し出す彼をみて、たまらず被りをふる。


 「そっちの兵士は私の相棒が運ぶ。あなたは、この子がこじ開けた活路を頼りに離脱に専念して。」


 一緒についてきた灰色狼の一体を前衛に就かせ、私は後衛に回る。


 もう一体の背に負傷した兵士を押し上げる。

 死にたくなければ振り落とされないよう死ぬ気で掴んでいなさいと叱咤し、横を並走するよう指示する。


 最初こそ、モンスターたちは飲み込む勢いで襲ってきたが、先頭のグレイウルフが高い戦闘力をみせ蹴散らしていく。


 少し離れると襲ってくる圧力も弱まり、なんとか元いた茂みまで無事に撤退することが出来た。


 モンスターの大群は秩序だってはいない。

 さらにどの個体もアイゼンエルツ目指しているようで、視界から外れた私たちに執着していない様子だ。


 「礼をいう。アイゼンの冒険者か。単騎と言ったが面白い仲間を連れているな。」


 一息ついたハリスが私に話しかけてくる。

 急な展開で、私はこの姿をどう説明したらよいかドギマギするが。


 「すまん。兵の手当てをしたいがモンスターの体液やら血でよく見えんのだ。水を分けてもらえないだろうか。」


 水筒を差し出すと、探るように受け取り目を洗い始める。

 よくその状態であれだけの攻防を繰り広げていたものだと感心する。


 目も洗い終わり布で拭っている姿をみて、急に真実を知られることが怖くなった私は、とっさに口元まで隠れるネックガードとフードを目深にかぶってしまう。


 彼は少し訝しんだが、ずいぶん若いな、と感想をもらしただけで生き残った兵士達の応急手当を始めた。


 ダンジョンがようやくモンスターを吐き出し切ったのは、真夜中を少し過ぎた頃だった。

 五千体近いモンスターを放ったんじゃないだろうか。


 私のキャパが五百体程度だから、数だけなら十倍だ。

 その数を明日合流予定の正規軍含め、二百人程度の兵士で防ぐことが出来るだろうか。


 ……無理だな。


 ダンジョンの街だから、玉石混合千人くらいは戦える人間をかき集められるだろうが、城壁の死守は絶望的だ。


 街に侵入された時点で人間の負け。

 最終的にモンスターを駆逐出来ても壊滅的な被害は避けられない。


 その思いはハリスも同じようで。


 「これほどの規模になるとは想定外だ……街が飲まれてしまう。」


 確か事前のギルド説明では、ダンジョンの規模から二千体程度だろうという話だった。


 二千体ならバリケードを駆使して撃滅できると考えていたようだが、五千では並みの防衛線はすぐに溶けてしまう。城壁を使っても、防ぎきることは至難だと思う。


 まして相手はダンジョンが複製したモンスターだ。

 命令通り、命の続く限り総攻撃を続けるだろう。


 この戦況でとれる選択肢は少ない。


 彼が逃げるなら、その選択を支持するが、どうにもアイゼンエルツまで戻って決死隊として最後まで戦いそうだ。


 ならば。


 「このままダンジョンに侵攻。ダンジョンコアを破壊しましょう。アイゼンエルツを守るにはそれしかないわ。」


 私の提案に最初こそ驚いた様子だったが、すこし逡巡したのち準備し始めた。

 

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