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13.異変

 レジナルドたちの反応はさておき、お宝タイムである。

 わくわくしながら手をかけ、本日二個目の宝箱を開けた。


 中にあったのはナイフ。装飾が施されてキラキラしているが業物には見えない。

 むしろ装飾がある分、扱いにくそうだ。


 またしても急速にわくわくが冷めていった。


 しかしレジナルドがお宝をのぞき込むと、


 「これは儀礼用のナイフだね。精緻で美しい細工だ。ゲートキーパー初討伐の思い出にいい品かも。買い戻して記念品にしようか?」


 「え、いらない。」


 道具は使ってこそだ。

 使わないで取っておく意味を見いだせない私は、すぐに換金することを決意する。


 するとエリカも兄の提案を支持する。


 「手放しちゃうの? この階層でこれほどの装飾品は珍しいわよ。記念の品として持っていても良いんじゃないかしら。」


 「いらない。」


 『……そうか。』


 私の心に一切響いていないことに気が付いた兄妹の諦めの声が重なった。


 ダンジョンを出ると清涼な空気に出迎えられる。まだ太陽も高い位置にあり暖かい。

 ゲートキーパーを倒した後、下層に潜ろうとする私を制して帰還することをレジナルドたちが決めた。


 まだ見ぬギミックに出合えるかもという未練はあったが、入ダン時に取り決めた内容を思い出し、素直に従うことにした。


 出口専用の順路に従い進んで、出ダン手続きを行う。

 探索内容や被害状況、そして入手した遺物の報告だ。


 遺物はその場で査定が行われ、買取額が提示された。

 安く買いたたかれることはない。なぜなら、売った遺物は発見者であればその場で同じ額で買い戻すことが出来るというルールがある。

 安いと感じたなら買い戻して、街に戻って改めて売ればよいのだ。


 あの装飾されたナイフは、思っていたより高い値が付いた。解せない。



 街に戻るまでがダンジョンアタックというが、街に近いこの辺りは治安もよい。

 気が緩んで無駄話が多くなるのは仕方のないことかもしれない。


 「本当に今日は驚きの連続だった。見習いとは思えない活躍だったね。リシュトさんって人のおかげかな。」


 今日驚いた出来事をレジナルドが指折り数えている。


 「それもだけど、魔術はどこで習ったの? これもリシュトって人からかしら。」


 私が使える魔術や魔法は、ダンジョンで捕食したモンスターを複製後、意識を移した仲間たちが覚えていたものだ。


 使える魔術はリシュトが習得していたものだが、少ないながらゴブリンやグレイウルフから得た魔法もある。


 実は魔術と魔法の違いがよく分かっていない。

 人間が使うのが魔術で、人間以外が使う魔術が魔法ってくらいの認識だ。


 エリカに肯定の意を示すと、今度は私からもいくつか質問を行う。


 「いろんな魔術や魔道具の作り方を覚えるには、どうするのが良い?」


 彼女は少し考えをまとめてから答えてくれる。


 「そうね。簡単な魔術なら教会や魔術師ギルドで対価を払って教えてもらう。ある程度コツを掴んだら、魔術書を読んで独力で覚えるという方法もあるかな。」


 「高位の魔術となると、魔術師ギルドや軍関係に所属して、才を認められたら、教えてもらうって感じかな。」


 その後も、これまでレジナルドが見てきたトラップやモンスターについて質問をしていると、あっという間にアイゼンエルツの城門が見えてきた。


 あとは冒険者ギルドで本日の成果を分配して解散、と考えながら城門前まで近づくと、そこに物々しい一団が布陣していた。


 数は五十人程度か。興味を持ったのは、全員が同じ意匠の武具で武装していることだ。

 冒険者でもパーティ内で共通の色やワンポイントを付ける場合があるが、目の前の一団は、そんなレベルではなく全体の規格が統一している。


 「なんで軍隊が。しかもあの軍旗は、正規軍じゃないか!」


 あれが軍隊というものか。

 しかし正規軍とは何だろう? 非正規軍もあるのか?


 「正規軍とは王国軍を指すのよ。各都市でも武装集団を作ることがあるけど、その場合は地方警備隊や都市名を付けてエルツ軍なんて呼ぶわ。」


 私の疑問にエリカが教えてくれる。


 正規軍の横を通り抜けるように進むが、武装集団は、私たちを一顧だにせず黙々と野営の準備をしていた。


 冒険者ギルドに到着し、レジナルドとエリカは帰還レポートを受付に提出。

 併せて、城門前に陣取った軍隊に関する事情を集めて戻ってきた。


 「どうやら、上級ダンジョンがきな臭いみたいだ。」


 今日まで厳重な緘口令・情報統制がされていたようで、自分たちが蚊帳の外だったこと、また気が付かなかったことを兄妹は悔しそうに話す。


 「きな臭い?」


 きな臭いとは、物騒なことが起きる気配、という意味だが、「上級ダンジョンがきな臭い」とはどういう意味だろう。


 軍隊が来ているということは、ダンジョンを舞台に戦争でも始めるのだろうか?


 「スタンピードだな。噂が広がると街が混乱するから、正規軍が到着するまで隠していたんだよ。」


 ……スタンピード? やはり聞きなれない言葉に首をかしげる。


 「ラキアは、妙に知識は豊富なのに、たまに抜けているよね。」


 レジナルドは笑いながらスタンピードの説明を始める。

 嫌味に感じさせない、さわやかな笑いだ。


 スタンピードとは、ダンジョンからモンスターがあふれ出てくる現象のこと。


 スタンピードが起きる理由は諸説あるが、有力なのが、ダンジョン内のモンスターが増え続け飽和状態となった時、自浄作用として起きる現象という説だ。


 ……本当にそうだろうか。


 私ならそんな無計画な生産は行わない。

 それにモンスターはダンジョンの外では長時間の活動は出来ない。それに外で強いモンスターを狩っても捕食できないため、新たな戦力獲得も難しい。


 あまりメリットがないように思えるが、災悪を目指すなら外の世界に侵攻をかけ、脅威を示すのは一つの手段かもしれない。


 だんだんスタンピードに興味が湧いてきた。どんなものか見てみたい。


 「だめよ。ラキアちゃんたち見習いは、街の外には出られないからね。」


 エリカは私の心を読んだかのように釘をさす。


 明日には銀級以上の冒険者に招集がかかり、街の外でギルド指揮のもとスタンピードの対応に当たるという。


 銅級以下もギルド指揮のもと対応に当たるが、主に城壁内で雑用を指示されることになるそうだ。


 スタンピードの話が終わると、ダンジョンアタックの反省会と成果の分配を行った。

 反省会といってもレジナルド達から指摘はなく、ただベタ褒めされて終わった。


 私としては、もっと技術的なアドバイスや見落としていたリスクを指摘してほしかったんだけど。


 取り分についても不満がある。

 今回のダンジョンで得た遺物はすべて私のものにしてよいと言うのだ。


 上級冒険者に伴走してもらい、アドバイスまでもらっているのだから、三等分でも多いほどだといったが、兄妹は頑として受け取ろうとしなかった。


 私が納得しかねているのを見て、


 「これで借金返済できるんだから、単身でダンジョンに潜れるようになるでしょ。街やダンジョンで昨日約束した人助けのを忘れずに行ってくれれば十分よ。」


 エリカがそんな提案をし、レジナルドが「無謀な探索はダメだよ」と釘をさす。


 なぜ、この兄妹たちはこれほど親切なのか。

 それとも人間は皆、こんな感じなのだろうか。

 リシュトの記憶する冒険者像とかけ離れていて混乱する。


 確かに今回の遺物売却で得たお金があれば返済可能で、魅力的な提案だ。


 しばらく葛藤したが、二人がお金にまったく頓着していないことも伝わり、結局申し出の通り私が総取りすることになった。


 再度、スタンピード中は街から出てはいけないと注意を受けてパーティは解散となった。


 解散後、無事に完済した私の思考は、すでにスタンピードを見に行く算段を立てていた。



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