12.ダンジョンアタック
思いがけない出会いのあと、ほどなくして初級ダンジョンに到着した。
アイゼンエルツ近郊には二つのダンジョンがあり、難易度からそれぞれ上級・初級と呼ばれている。
初級ダンジョンは全五階層。つまり私と同じ規模のダンジョンということになる。
ダンジョンの入り口付近には防壁と門扉が築かれ、甲冑をまとった兵士が警備している。
私たち以外にもちらほら冒険者がいて、代表者が入ダン手続きを行っている。
出入りを人間に制御されたダンジョンか。そんな状態は嫌だな。
私は入り口をぼうっと眺めながら、そんな感想を抱いていた。
もし私のダンジョンが人間に発見されたら、何が何でも逃がさない。
そのためには警戒網を広げ、ダンジョンに近づく前に排除することも考えなくては。
……でも、人間を寄せ付けないで災悪のダンジョンになれるだろうか。
むしろ積極的に招いて、狩り続ける必要があるんじゃないか。
リスクとリターンに悩んでいると、レジナルドが手続きを済ませて戻ってきた。
駆け出しっぽい冒険者たちが、順番にダンジョンに入っていく。
すぐに私たちの番となり、門から続く短い参道を抜け、ダンジョンに足を踏み入れた。
途端に妙な懐かしさを覚えた。
獣臭に混じるすえた匂い、ダンジョンからにじみ出る魔力もよく似ている。
「ふふっ。すごい匂いでしょ。信じられないことに、すぐにマヒして気にならなくなるからね。」
私が懐かしい匂いに鼻を動かしていると、勘違いしたエリカがフォローしてくる。
あいまいに笑ってごまかしていると、今度はレジナルドが、ダンジョン内での役割について再度説明を始めた。
とりあえず私の思うままの通りに攻略して良いとのこと。
必要に応じて兄妹がフォローするという。
ただ、二人が指示を出した時は必ず守るという約束が付いた。
……うーん。ん?
何度目かの首をかしげながらダンジョンを進んでいく。
初のダンジョン、それも私と同規模ということで警戒して進んでいるが、どうにも手ごたえがない。
罠は落とし穴だけ。隠蔽すらしていない。
モンスターもウネウネやスライムばかり。
不意を突かれると痛い相手だが、ダンジョンコアが誘導しない限り、まっすぐ襲い掛かってくる程度の知能しかないため脅威ではない。
こちらの油断を誘う罠か! とも疑ったが、間もなく二階層への昇降口が見えてきた。
「良い感じだラキア。危うい行動はないし、敵への怯みもない。本当に見習いかい?」
レジナルドは、「今すぐ銅級に推薦してもいい」と高評価をくれた。
二階層も同じようなもので、敵にゴブリンが増えた程度。
とはいえ、単騎で襲ってくるゴブリンなんて脅威とは言えない。
しかし、二階層も半分ほど来たところで、それは起きた。
――!
あれって、もしかして! 私の視界が遠くにある物体をとらえる。
レジナルドたちも気づいたようで、私に右目だけ瞬きする仕草を見せてきた。
……?
何の合図かは分からなかったが、私の意識は向こうの物体、宝箱に向いていた。
急いで向かいたい衝動を、「危険」という警鐘で抑え、警戒を続けながら進む。
宝箱の前まで来たが、罠の類なし。
本当に見落としてないか?
もう一度周囲をうかがい、脅威がないことを確認すると、宝箱を開けるべく屈む。
あ、しまった!
やはり浮かれていた。手をかける寸前、あの禁則事項を思い出す。
ダンジョン内の宝物取得は禁止。
私が固まっていると
「なぁに緊張しているのよ。さあ、冒険者としての最初のお宝、開けてみましょう。」
私の葛藤を知る由もないエリカが、私の手をつかみ宝箱に添わせる。
そのままゆっくり蓋を開いていく。
……あれ? 禁則事項が発生しない!
途中、エリカが手を放し、私だけで宝箱を開けるが、あの強制力をもった警告は響かない。
自分が生んだ宝箱にだけ適用される禁則事項なのか。
そう理解した瞬間、厳禁にも中身がとても気になり、わくわくが止まらない。
果たして中身は?
コロン……。
宝箱には、キノコが一つ入っていた。街でもよく見かける食用キノコだ。
急速にわくわくが冷めていく。
兄妹が、「こんなもんさ」「おめでとう」と気を使い慰めてくれる。
よく見れば二人とも口角がぴくぴく痙攣し、私と目を合わそうとしない。
その後も、危なげなくダンジョンを攻略していく。
そして、二階層を踏破し、三階層もいよいよ下層へ続く昇降口に近づいた時、そのフロアはあった。
周りが整備された壁に囲まれた、広い部屋状のフロア。昇降口には頑丈そうな扉が付いている。
「あれ? ダンジョンを塞いでいる。あれ禁則事項なんじゃ?」
あり得ないものを見て抗議の声をあげる私を、レジナルドたちは「禁足事項って?」と困惑しつつ説明してくれた。
「ここはゲートキーパーの間だよ。良かった。ラキアに教えることがあった。」
ダンジョンの特定階層には、強力な敵が昇降口を守っていることがあるそうだ。
その敵を倒さないと下の階には進めないという。
昇降口を守る敵を、冒険者たちはゲートキーパーと呼んでいる。
何それ知らない。めちゃ便利じゃない! 帰ったら絶対に作ろう。
初めて知るギミックに心弾ませていると、視界の隅からゲートキーパーが現れ、門を守るように立ちはだかった。
ゴブリン程度の大きさのフルメイル。
しかし関節箇所や面の奥にあるべき中身が見当たらない。
生きた鎧という奴だろうか。
初めて対する敵を観察していると、レジナルドが横に立ち、初めて戦闘態勢をとった。
「助力は結構です。一撃をもらうまでは手出し無用で。」
私はそう宣言すると同時に、メイスを握り直して全身鎧に肉薄する。
全身鎧の獲物は両刃剣。
しかし手入れされておらず、とても切れるようには見えない。
相手の横薙ぎをステップでかわし、戻し途中の剣にメイスを強かに打ち込み体勢を崩す。
続けて胴体に打ち込む。
ガァァン。
激しい金属音が響き、全身鎧が後ずさる。
多少傷を付けたが、たいしたダメージは与えていないようだ。
この程度の膂力では抜けないか。
レジナルドの方を向くと、「いよいよ出番かな」とエンジンをかけ出した。
はっぱをかけてくれたのだと気がつく。
兄妹が参戦する前に決めてしまおうと、一気に勝負をかける。
「ストラ!」
力ある言葉と同時にダッシュ。
先ほどの肉薄時とは比べ物にならない瞬発力で距離を詰める。
しまった。距離を詰めすぎてメイスを振るスペースがない。
仕方なく裏拳で相手の胴を鋭く撃つ。
後方に吹っ飛ぶ全身鎧。
ここでようやく相手が攻撃を繰り出す。
かかげた剣を縦に振り下ろしてきた。
それを一歩引いて余裕でかわすと、全力で振り下ろされた剣は空を切り、そのまま地面をえぐる。
私は、剣が跳ね返る前に足で踏みつけると、剣から手を離さない全身鎧は棒立ちになる。
今度は私が、真正面からメイスを上段から振りぬいた。
グジャジャジャ。
鎧を半分まで陥没させて止まる。メイスも無残に折れ曲がってしまう。
兄妹をドヤ顔で見ると、なぜか二人とも引いていた。
そのまま、ぴくりとも動かないリビングメイルに視線を戻すと、足元に宝箱が出現した。




