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10.冒険者教室

 受付統括のウルリカから必要な申請書を渡され、必要事項を記入していく。


 名前から始まり、年齢や性別、出身地に後見人。

 名前以外はリシュトの記憶をもとに創作したデタラメだが、一応埋めることができた。


 それをウルリカに渡す。彼女はしばし申請書を眺めながら、意外そうにつぶやく。


 「……ラキアちゃん、読み書きが堪能ね。リシュトさんに、よく面倒を見てもらったのね。」


 それはもう、すべて捧げてもらう程度にね。

 私はただ笑顔で応じるしかなかった。


 登録料や年会費が必要と言われたが、ギルドが肩代わりすることも可能と言われたので、その提案に甘えることにした。


「これでラキアちゃんは見習い冒険者です。」


 鈍色の冒険者章が差し出されたので、それを受け取ろうと手を伸ばすが、寸でのところで取り上げられてしまい唖然とする。


 ウルリカが小動物を愛でるような表情を一瞬でひっこめると


 「新人冒険者には、まず冒険者教室を受講してもらいます。それが修了したら、正式に鉄級の冒険者です。」


 一昔前、あまりにも新人冒険者の損耗率が激しく、国やギルド内から改善に向けた取り組みが検討され、できた制度の一つということだ。


 先輩冒険者の指導が受けられる場合は免除もあるらしいが、孤立無援の私に受講を拒否する権利はない。


 それに、学ぶことは嫌いではない。教えてもらえることに感謝こそすれ、拒絶する理由はない。

 私は二つ返事で了承する。


 「それでは授業料もギルドで立て替えにしますね。」


 営業スマイルのウルリカを見て、人間社会は世知辛いなとしみじみ思ってしまう。


 だが、冒険者教室は払った代金に見合うだけのリターンがあった。


 冒険者制度の基礎知識から始まり、社会一般の雑学、さらに演習が企画されており、それらを時間を区切って少しずつ教えてくれる。


 見習うべき制度だな。

 帰ったらゴブリンたちを教育してみよう。防衛力強化につながるかもしれない。


 今のコマは、冒険者座学でダンジョンに関する講義だ。

 すらりとした男性が教鞭をとっている。冒険者というより役人のような風体だ。


 「国の法律、冒険者規定により、ダンジョン内の宝箱から取得した遺物は、すべてギルドに売却しなければなりません。またギルドは、それらを買い取る義務があります。」


 これは、薬草や低性能な武器といった需要の低いものでも買い取ってもらえる反面、霊薬や業物ですら一度売却しなければいけない欠点でもある。


 ただし納めた冒険者に限り、同じ額で優先的に買い戻すことができるそうだ。


 「あと決して忘れてはいけないこと。ご存じだと思いますが、ダンジョン最下層への立ち入りは禁止です。」


 おお。禁則事項だ。なんとなく親近感がわくフレーズである。


 「先生。初めて入るダンジョンの場合、どうしたらココが最下層だと分かるんですか?」


 私と同じ初心者教室に参加している栗毛の女性が質問した。

 私も興味があり、うんうんと頷いてしまう。


 しかし先生は軽くため息をつくと「そんなことも知らないのか」とあきれ気味に説明する。


 「王国一帯で十年以上、新しいダンジョンは見つかっていません。仮に発見しても探索は禁止。必ず報告が義務付けられています。」


 あれ? リシュト達、私のダンジョンに入ってきたよな。


 私の疑問をよそに解説が続く。


 「つまり今把握されているダンジョンには、最下層の入り口付近に探索禁止を示す標識が設置されており把握できるようになっています。」


 また、未踏破ダンジョンの場合、最深探索エリアに同じシンボルがあり、それより下層への探索は禁止だという。


「どうして最下層へ立ち入ってはダメなんでしょうか?」


 今度は私が質問する。

 

 「あなたたちに今、必要な知識だとは思えませんが。」


 先生は、あきれというか見下したような態度で解説を行う。

 ……なんかむかつくな。


 「最下層の最奥にはダンジョンコアがあります。それを破壊してしまうとダンジョンが死にます。そうなると宝箱が生まれず、ただの洞窟と化し価値がなくなるからですよ。」


 つまり人間にとってダンジョンは、便利なアイテム生産施設という認識か。

 災悪を目指す私にとっては看過できない内容だ。不愉快だ。実に不愉快な話である。


 ふつふつと闘志を燃えしながら、それでもかじりつくように授業を受けた。


 それなのに授業後、なぜか先生から褒められた。



 演習では、罠の種類と作り方、作った罠で解除の仕方を学ぶ。


 怪我を負った際の応急処置もあったが、ゴブリンたちなら直すより自害させて作り直す方が早いと思った。


 いかにも「冒険者やってました」というマッチョな先生から、各武器の特徴、握り方や構え方を教わる。

 最初に選択したメイス以外にも、剣や槍の扱い方をしつこく教えてもらった。


 武器は、とにかく強く当てるものだと思っていた。


 その考え自体は間違いではなかったが、特性に合った扱いをすることで、より効率よく性能を発揮することを学んだ。


 ひたすら素振りの反復を繰り返す私を見て、冒険者先生からも褒められたが、ダンジョンに侵入してきたリシュトのパーティと比べると数段見劣りしている。


 練習中、もう一人の見習いの男児が、よく突っかかってきた。

 年齢は私と同じくらい。ゴブリンの知力といい勝負をしそうな赤髪の男児だ。


 よく分からない理屈からなぜか模擬戦を行うことになったが、一方的にボコって終わった。


 そんな充実した冒険者教室も、あと少しで修了だ。


 「あらあら、ラキアちゃん。お疲れさま。とっても優秀なうえに頑張り屋と評判よ。」


 一日の講義が終わり、受付に報告書を提出した際、ウルリカに呼び止められた。

 とくに「頑張っている」認識のない私は、適当に相槌を打つ。


 「ラキアちゃんって本当にスラムで生きてきたの? 教養や振る舞いを見ていると、どこかのお貴族さまか武家の娘さんのようね。」


 私はなんて答えたらよいのか困ってしまう。

 私の所作や体さばきはリシュトのものだ。

 そういう意味では「お貴族に近い」と言えなくもないのか?


 返答に困っているのを、ウルリカがどう解釈したかは分からないが、慌てて取りなし、この話は有耶無耶に終わった。



 冒険者教室の締めは、ダンジョンを模した踏破訓練だ。


 今回の受講生は私を含め三人。三人で即席のパーティーを組んで挑む。

 引率は座学でお世話になった役人顔の先生だ。


 まず役割を決める。役割といっても前衛と後衛を決めるだけ。

 唯一の男児が「前衛は俺一人で十分だ!」と言って聞かなかったので、任せることにした。


 模擬ダンジョンといっても、壁は丸太を打ち込んで作ったもので、天井がなく空が覗いている。


 一応罠はあるし、ゴブリンを数匹放したと言っていた。

 カサカサや毛玉しかいなかった頃のダンジョンより、脅威度は高いかもしれない。


 さっそく赤髪の男児が先頭に立って、ぐんぐん進んでいく。

 一応自己紹介をしたが、すでに名前は忘れた。


 罠を警戒しているようには見えないが、大丈夫だろうか?


 程なく進むと、前方に不自然に色の違う地面が現れる。

 罠を警戒する場面だが、男児は構わず進む。


 隣を伴走する栗毛の女児と目を合わせる。

 彼女も怪しいと感じているようだ。普通は気づくよね。


 あ、ちょっ。


 注意を促そうか悩んでいるうちに、彼は躊躇せず色違いの地面に踏み込み、踏み抜いた。


 「うわっと、と!」


 ごく浅い落とし穴。スネほどの深さしかない。

 見事に練習用ダンジョンの罠にはまった。


 たたらを踏むが、何とか体勢を維持し転倒を免れる。

 そのまま抜け出ると「なんだよ危ないな」と文句を言いながら、何事もなかったように進み始めた。


 ……えっ。今、落とし穴にはまったよね。罠にかかったことすら気付いてないの?


 先生に視線を向けると、沈痛な面持ちで「話しかけるな」オーラを出している。


 その後も快進撃は続く。彼がうかつに触ったボタンにより矢が飛んでくる。

 なんとか避けると、私たちに「避けられたぜ」アピールをしてくる。


 困惑だ。なぜ罠を発動させたことを反省しない。


 すべての罠を踏み抜いていくスタイルのため、あっという間に模擬ダンジョンも終盤だ。


 ここでようやくゴブリンの登場だ。数は二体。

 可哀そうに持っている武器は棒切れのみ。ご丁寧に足かせまで付けられている。


 これで負けるはずがない。


 男児がさっそく、速度そのまま勢いにまかせ切りかかっていく。

 二体を相手にしても、怯むことなく攻め立てる。


 剣先が何度もゴブリンをかすめ、裂傷をつけていく。


 満足に動けないゴブリンをいたぶっているようにも見えるが、彼にその意図はなく真剣だ。


 ついにゴブリンが体勢を崩し、致命傷を与えるチャンスができた、と同時に、不可解なことが起きた。


 彼は剣を振り下ろすのをためらい、後ずさったのだ。


 何だ? 何か気になることでもあったか?


 私は解説を求めようと隣の女児に視線を移すが、彼女の目には恐怖の色が浮かび、私に気付かない。


 なぜ恐れている?


 ゴブリンたちは、どうにか生きながらえようと最大限の威嚇・牽制をしている。

 一見恐ろしいが、あれは虚勢だ。


 ……もしかして躊躇っている? ゴブリンにとどめを刺すことを恐れているのか。


 二人の消極的な行動が、腑に落ちた気がした。


 興ざめだ。


 私は支給されたメイスを握り直すと、赤髪の男児とゴブリンの間に割って入る。


 「なにすんだ。邪魔だって。」


 非難するが、その声に怒気はない。むしろ安堵すら感じる。


 私は躊躇うことなくメイスを振り下ろす。

 これまで反復練習した通りの正しいフォームで、勢いの乗ったメイスがゴブリンの脳天を正確にとらえる。


 ゴスン。


 一体目のゴブリンの頭をつぶす。割れた頭から脳症が飛び散り、少し浴びる。

 

 それを目の当たりにした最後のゴブリンが、奇声を上げながら、がむしゃらに獲物を振り回すが


 ゴボッ。


 体を捻りながら体重を乗せたメイスの横なぎが側頭部に直撃。

 首が直角に折れて絶命した。


 私は汚れを拭いながら、二人をおいて作り物のダンジョンをあとにした。



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