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クッキーフレンド  作者: 加護景
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試験が終わる、さあ、クッキーを作ろう

 そこまで、という解答終了の掛け声が教室に響く。


 む、まだ最後の問題が解き切れていない。仕方がないので適当な数字を書いておく。まあ、この感触であれば、好成績とまではいかないけれど、きちんと単位を貰うことぐらいはできるだろう。


 僕は後ろから回されてきた他人の解答用紙に自分の分を載せて前に送る――がなかなか受け取ろうとしない。まだ解答用紙に何かを書き込んでいるようだ。


「おい、遠野。終わりだぞ」


 そう声をかけると、もうちょっと、もうちょっとだから、と悲痛な声が聞こえてくる。大分切羽詰まっているようだ。そういえばテストの前日は遠野の好きなゲームの新作の発売日だったかな。テストをサボってゲームに耽ていたのだろうか。ゲーマーの遠野なら有り得そうだ。


「もう諦めなさい。落としますよ」


 今度は教壇から遠野に声がかかる。その声にようやく諦めがついたのか遠野は悔しそうに解答用紙を受け取り、前に送る。


 アシスタントと教授は解答用紙の枚数を確認した後、僕らを残していそいそと教室を出ていった。ふう、これでようやく本日のテストはすべて終わりだ。


 僕は急いで教室の後ろの席を見るが、もうすでに三枝さんの姿は消えている。いつもながら行動が早い。仕方がないので落ち着いてもう一度、席に座りなおす。周りの様子を見ると、方々から安堵の声が聞こえてくる。


 彼らが安心する気持ちもよく分かる。これでようやく一山越えたのだから。いや、目の前に一人だけ例外がいるが。


「羽田……俺、落としたかもしれない」


 小さな声で僕に話しかける遠野。いつもの陽気な様子からは信じられないほど落ち込んでいるようだ。


「だからあれほどゲームを我慢しておけって言ったんだ。大体、今日は金曜日なんだから、今日さえ乗り切れば思う存分できただろ」


「発売日にできないなんて、そんな拷問耐えられるわけ無いだろう。そんなんじゃゲーマーの、ファンの名が廃るってもんだ」


 ファンであることに誇りを持っているようだ。まあ、そのせいで単位を落としてしまうのは自業自得というものだが。


「まあ、この科目は別に必修じゃあないんだから、落としても大して問題ないんじゃないか」


 そう言って励ますと、


「それもそうだな」


 とさっきまでの暗い表情はどこへやら、すっかり元気になってしまった。


 流石というべきか、気分の切り替えが非常に早い。でも、もうちょっと自分の将来について心配した方がいいと思う。


 そんなことを考えていると、荷物をまとめ終わった遠野が僕に話しかける。


「せっかくテストも終わったことだし、どこか食べに行こうぜ」


「あー、それは……」


 僕も一心地ついたことだし、是非とも行きたいところなのだが、今日はこれから予定がある。


「ごめん。今日はこれから病院にいかないと行けないんだ」


「あー、そういえば、前に話してたな。オッケー、分かった。じゃあ、また今度行こうぜ」


「その時は是非誘ってくれよ」


 じゃあな、と別れを告げようとする遠野。そういえば、遠野に聞きたいことがあったような……僕は遠野を急いで引き止める。


「ん、なんだ。ゲームなら俺がクリアするまで貸さないぞ」


「まだテストがあるんだから、土日もずっとゲームするんじゃないぞ……じゃなくて、聞きたいことがあるんだよ」


 なんじゃらほい、と相変わらず適当な返答をする遠野。


「遠野はさ、自分だけの味ってなんだと思う」


「なんだそりゃ……ああ、三枝さんとクッキーを作った時の話か。そういえばそんな話が出てたな」


 うーん、と考える遠野。


「難しいことは分かんねえけど、そりゃあ、思い出の味ってやつじゃないのか」


「思い出?」


「そうだよ。ほら、ガキの頃に食べたカレーが滅茶苦茶うまかったとか、親にねだって買ってもらった綿あめが美味しかったとか、そういう経験があるじゃん。そういうのが自分だけの味になるんじゃねえの」


 なるほど。自分の思い入れが入った味というのなら、確かに自分だけの味といっても差し障りないだろう。


「でもさ、そういうのって大抵今食べてみるとそんなにおいしくないんだよなあ。なんていうんだろうな。その時の思い出補正が入っているというか、無駄にハードルを上げちゃうからなんだろうなあ。この前なんか、ガキの頃好きだったアイスを試しに一キロぐらい買ってみたんだけど、そこまで美味しくなかったんだよなあ。もちろん、勿体無いから全部食べちゃったけどな」


 僕は思わず遠野のお腹を見る。妊婦なら何ヶ月に換算できるのだろうか、実にふくよかだ。そんなことしてるから、そんなワガママボディになってるんじゃないのかと思うのだが。


「だからさ、自分だけの味を作るのは想像以上に難しいんじゃねえのかな。二人には悪いけどさ」


 確かに遠野の言うことには一理ある。自分だけの味、想像以上に難しい課題だ。


「いや、ありがとう遠野。参考になったよ」


「礼には及ばんよ」


 ハッハッハ、と小物みたいな笑い声を上げながら、遠野は僕と別れた。


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