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クッキーフレンド  作者: 加護景
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クッキー以外の会話に興味なし

 クッキー作りの当日、僕は大学の校門に向かっていた。三枝さんが僕のアパートを知っているわけがないので、待ち合わせ場所で合流してから、僕が案内するという算段だ。


 三枝さんを待たせるわけにはいかないので、僕は約束の三十分前に到着するように家を出ていた。そして、いざ校門まで辿り着くと、もうすでに三枝さんが到着していた。しまった、もうちょっと早く出ればよかった。


 そんなことを考えながら僕は三枝さんの所まで近づいていく。


「おはよう、三枝さん」


 僕がそう言うと、三枝さんはゆっくりイヤホンを外した。いつも通り、三枝さんは嫌そうな表情を浮かべていた。


「……誰?」


 予想外の言葉だった。まさか顔を覚えられていないのだろうか。確かに、お前は主人公ってタイプじゃないよな、なんて言われたことはあるが、約束をした相手に忘れられるほど存在感がないわけではない。いや、三枝さんにとっては僕の存在なんてその他大勢の覚える価値のない人間に含まれていてもおかしくはないのかもしれないが。


「羽田だよ。羽田光輝」


 三枝さんは納得したような顔をする。


「ああ、羽田さんね。……ごめんなさい。私、人の顔を覚えるのが苦手だから」


 それならしょうがない。他の人なら許せないことでも、三枝さんのすることなら、許しましょう。僕は三枝さんの立派な信者なのだから。


「さあ、行きましょうか」


 僕が促すと、三枝さんは一度頷き、黙って僕の後ろを着いて行く。その様子に僕は少しがっかりする。並んで歩くわけじゃないのね。


 どうしても並んで歩きたい僕は、試しに歩くペースを緩めてみる。すると、三枝さんもそれに合わせてゆっくり歩く。横断歩道で信号待ちになっても、決して僕に追いつこうとせず、常に僕の後ろから少し離れたポジションをキープしている。


 三枝さんの行動、何か見覚えがあるなあ。……そう、あれだ。思春期を迎えた男の子が母親と一緒に歩く時に恥ずかしがってわざと距離を取るのと同じやつだ。僕にも覚えがある。まあ、三枝さんの場合は照れているわけではなく、単純に僕の隣を歩くのが嫌なだけなのだと思うが。そう思うとちょっと寂しい。


 そのような有様なので、当然道中に会話がなかった。僕のアパートまでただ黙々と歩いているだけだ。それじゃあいけない。僕は勇気を出して後ろにいる三枝さんに会話を試みた。


「今日はいつから待っていたんですか」


 ……返事がない。余計な質問をするなと、僕の後ろから冷たい視線を向けているのが何となく想像できる。ごめんなさい。そんなつもりはなかったんです。ただ、この気まずい空気を何とかしようとしていただけなんです。


 心の中で謝罪していると、ポケットの中で携帯が震えた。メールだ。宛先は三枝さんからだった。


『一時間前です』


 ……さっきの僕の質問の解答、なのだろうか。どうしてわざわざメールで? 直接言ったほうが楽だと思うのだが……いや、三枝さんと僕との間にはまあまあ距離があるから、大きめな声を出すよりメールをしたほうが三枝さんにとっては楽なのかもしれない。


 それはともかく、三枝さんが怒っているわけではなさそうだ。僕はホッと胸を撫で下ろす。僕は懲りずに会話を続ける。


「随分早いですね」


 僕が声を張ると、また携帯が震える。宛先はもちろん三枝さんだ。


『そんなことない』


「朝起きるの早かったんじゃないですか」


『そう』


「授業もいつもこんな早くから来てるんですか」


『そう』


「いつも、本読んでますよね。何を読んでるんですか」


『』


 空メールが送られる。答える気がない、ということだろうか。


「……もしかして、鬱陶しいですか」


『そう』


「……そうですか」


『そう』


 ……虚しくなったので、僕は黙って歩くことにした。



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