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クッキーフレンド  作者: 加護景
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クッキーの母親

 駅を出ると目の前には小さな広場があって、まばらな樹木と少し古ぼけたビルがこじんまりと立ち並んでいる。


 長い間電車に乗っていたから、どんな僻地へと向かっているのだろうとヒヤヒヤしたものだが、心配するほど田舎というわけでもなさそうだ。視界が開けたせいか開放感があり、心無しか気分がよい。


 僕が他愛もない感想を抱いている間に、麦嶋は前へと進んでいく。その足取りを見るともうすでに目的地までの道のりが頭の中に入っているようだ。僕はそのまま麦嶋の後ろに着いて行く。


 駅から離れ、住宅街の中に入ると、周りにはマンションのような近代的な建物はなく、昔からあるような日本の家屋がずらりと並んでいる。どれも年季を感じる立派な家屋だ。何となくではあるが、ここの住民はきっとお金持ちなのだろうとそう思う。


 十分ほど歩くと、麦嶋はある家の前でピタリと足を止める。その家の周りには白い漆喰で塗り固められた壁。正面には瓦の屋根付きの城門が取り付けてある。どこかの名家の家屋なのかもしれない。


 今までの自分には無縁だった建物を前に、僕は少したじろぎながらも表札を確認する。そこには紛れもなく『三枝』という名前が刻まれている。


「ここなのか」


 僕の言葉に麦嶋は一度だけ頷く。ここが三枝さんの実家なのか。思った通り良いとこのお嬢様だったらしい。


 麦嶋がチャイムを鳴らす。チャイムが取り付けてある部分だけやけに現代的なのが少々ミスマッチだが、利便性には代えられないといったところなのだろうか。


『どなたでしょうか』


 インターホンから女性の声が聞こえる。三枝さんの母親なのだろうか。


「本日お電話させていただいた、三枝映子さんの友達の麦嶋です」


『……そうでしたか。どうぞ、お入り下さい』


 そう言うと扉が開く。なんだ、自動ドアだったのか。木造だからてっきり手動で開けるものだと思っていた。まあ、確かに好き勝手に開けられるような造りだと困るのは確かだが。


 僕と麦嶋は遠慮なく中へと入っていく。ちょっとした道を抜けるとすぐに玄関へと辿り着いた。玄関には人影が一つ。多分さっき応答してくれた女性だろう。


「お待ちしておりました。私、三枝の母親の三枝智子と申します」


 三枝さんの母親は礼儀正しく僕達に挨拶する。


「本日は急なお願いにも関わらず、来訪を快諾していただいてありがとうございます」


「いえいえ。そんな畏まらなくでも大丈夫ですよ。あら、二人で来たんですね」


「申し訳ありません。急に人数が増えてしまって」


「あら、そうでしたか。別に構いませんよ。私も映子のご友人の話を聞きたかったものですから、一人よりも二人のほうがたくさん話しを聞けますからね」


 そう言って微笑を浮かべる。僕が来ることは知らされていなかったようだ。まあ、それもそうか。僕も今日三枝さんの実家に来るなんて思わなかったぐらいだし。


「……立ち話もなんですし、さあ、中へどうぞ」


 僕達は促されるまま、家の中へと入っていた。


「あの子は大学ではどんな風なのかしら。帰ってきても中々話してくれないものですから気になりまして」


 僕達が案内された和室で腰を下ろし、一息ついた所で、三枝さんの母親から質問が飛んでくる。


 中々話してくれない、か。そうだよなあ。


 三枝さんが自分のことを母親に話しているイメージなんて湧かないもんなあ。やはり、母親ともなると普段、娘がどんな生活を送っているのか気になるのだろう。ましてや三枝さんのことだ。あまり上手く生活できていないと思われているのだろう。


 どう答えるべきなのだろうか。大学での三枝さんの生活を正直に話すのは気が引ける。かといって嘘を吐いても意味ないしなあ。


 うんうん、と僕が悩んでいる内に麦嶋が口を開く。


「真面目に授業を聞いている優等生ですよ。交友関係も、最近私達でクッキー作りをしたぐらいですし、心配するほどではないと思います」


 交友関係に対して心配するほどではない、というのは言い過ぎな気がするが、嘘は言っていない。


「そうなのね。それを聞いて安心したわ。ほら、あの子ちょっと人見知りが激しいから心配してたのよ。昔はもっと活発で元気な子だったのだけどね。事故をキッカケに大人しくなってしまったのよ。少し厳しく育てすぎてしまったかしら」


「事故、ですか」


 麦嶋が興味深そうに母親に尋ねた。すると、彼女は昔を懐かしむように遠い目をしながら、過去を語りだした。


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