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クッキーフレンド  作者: 加護景
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電車にもクッキー

 駅に着くとすでに麦嶋が待っていた。


「次の出発までもう時間がないわ。急いで」


 麦嶋が手招きする。駅にはすでに電車が止まっているのが見える。本当に時間がないようだ。僕は息を整える暇もなく駅の階段を登っていく。


「早く!」


 扉がもうすでに閉まろうとしている。待って、と叫びながら、僕は必死に手を伸ばす。扉が完全に閉まる――その時、扉の内側から何かが飛び出す。その何かはタイミングよく扉にすっぽりと挟まる。鞄だ。誰かが鞄を投げ込んだのだ。視線の先には、麦嶋が満面の笑みを浮かべている。この鞄は麦嶋のものなのか。


「間に合ったみたいね」


 案の定、電車の扉が開き、僕は無事に中に入ることができた。


「上手くいったわね」


「まにあ、って、よかった」


 息を切らしながら、僕は返事をする。これを逃したら次の電車まで一時間ほど待たされる羽目になる。今の僕にとってそれは致命的なほど長い時間だ。


 ふう、と一息吐き、周りを見渡す。電車の中には僕達の他に乗客おらず、閑散としている。使用者のいない吊革が電車の振動でフラフラと寂しそうに揺れている。席もガラガラだ。僕は遠慮なく空いている席に座り一心地つく。


「これから三枝さんの実家に向かうわ」


 そういって麦嶋は僕の隣りに座る。


「実家? 三枝さんは今、実家にいるのか」


「ええ、電話して確認したから間違いないわ」


 どうして三枝さんの実家の番号を麦嶋は知っているのか。いや、今はそんなことはどうでもいい。三枝さんに会えるということ。それ以上に重要なことはない。それに比べればどうやって番号を手に入れたなんて些細な事だ。


「ここから大体一時間ぐらいね」


 一時間か。想像していたよりも近い場所にあるらしい。それでもわざわざ大学近くに家を借りているところを見ると、三枝さんの実家は結構なお金を持っているのかもしれない。


「……どうして急に実家になんて戻ったんだろう」


 仮住まいも引き払って、休学届も出して、電話もメールも届かない。まるで自分のいた痕跡を消し去ろうとしているみたいだ。


「理由は話してくれなかったわ。でも、家に来ることは大丈夫みたい。あの子に友達がいたのね、って驚いていたわ」


 記憶障害があるのなら、友達なんて作るのは難しいだろう。親が驚く気持ちがよく分かる。


「ねえ」


 麦嶋の問いかける声。その声は小さく、頼りないものだった。


「……羽田は、三枝さんに会ってどうするの?」


「それは、」


 僕は彼女に会ってどうするのか。どうして彼女に会うのか。その答えは、その回答は、僕の決意を、覚悟を、求められている。そんな気がする。


「話をしようと思ってる」


「話?」


「僕はまだ、三枝さんのことを知らない。理解していないんだ。彼女が何を考えているのか。何を苦しんでいるのか。僕はまだ、これっぽっちも分かっていないんだと思う」


 僕は彼女の表面しか見ていない。外側しか知らないのだ。彼女が心の中に何を抱えているのか、何を思っているのか、全然分かっていないのだ。


「僕は三枝さんのことを知りたいと思ってる。三枝さんを理解したいとそう思ってる。だって僕は……」


 そう、僕は彼女のことが


「三枝さんのことが好き、だから」


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