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クッキーフレンド  作者: 加護景
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クッキーが追いかける

 次はどうすればいいのだろうか。

 その疑問が頭の中で何度も反芻している。


 このままではいけない。どこかに進まなければならない。歩き続けなければならない。


 でも、どこへ?

 どこへ行けばよいのだろうか。


 僕にはもう、手がかりがない。

 僕にはもう、進むべき道がない。


 三枝さんにはもう会えないのだろうか。

 このまま忘れられてしまうのだろうか。

 このまま忘れてしまうのだろうか。


 それは……嫌だ。絶対に嫌だ。


 絶対に見つけ出して、彼女に会って、そして……そして?


 彼女にに僕は何と声をかければ良いのだろうか。


 君が好きだ、だから、忘れてほしくない。忘れないでくれ。

 そんな言葉を彼女に言うつもりなのだろうか。

 そんな我が儘を、通すつもりなのだろうか。


 彼女が僕達に辛い思いをさせまいと、気を遣っているのに?

 彼女がどんな思いで離れていったのか知りもしないのに?


 今までどんなことを考えてきたのか。

 どんな辛い思いをして生きてきたのか。

 知りもしないのに?

 今までそんなこと考えもしなかったのに?


 僕は、

 僕は、まだ、彼女のことを知らない。


 理解していない。そう、まるで分かっていないのだ。


 僕は、知らなければならない。


 そうでないと、そうでないと彼女はまた、同じことを繰り返すだろう。

 何度でも、何度でも辛い思いをするだろう。


 偶像としての彼女でなく、一人の人間としての彼女を、僕はまだ知らないのだ。


 だから、僕は、知らなければならない。


 でも、知ってどうするのだろう。


 今更知って、気づいても、彼女にはもう、会えないのかもしれないのに。


 それでも、僕は知らなければ、考えなければ、先に進めない。


 想わなければ、彼女の元に辿り着けないのだ。

 

 

「おーい、大丈夫か」


 遠野の声が聞こえる。


 どれくらいの間、ここに立っていたのだろうか。

 三十分?

 一時間?

 いや、遠野が近くにいることから、そこまで時間は立っていないはずだ。せいぜい一分かそこらだろう。


「困ったな」


 独り言のように呟く。そう、病院に行って、話を聞けたはいいものの、そこから先は情報なし。完全に手詰まりの状態なのだ。


「確かに困った、困った、困ったなあ」


 遠野が僕の言葉に合わせてリズムよく口ずさむ。


「でもさ、俺はちょっと安心したよ」


「三枝さんの居場所は未だに分からないのにか」


 遠野の言葉に僕は眉を顰める。


「いや、そうじゃなくてさ」


 遠野がにこやかに笑いかける。


「さっきより元気が出たみたいじゃんか。アパートを出る前なんて死んだような魚の目をしてたのにさ。今は何というか、生き生き……はしてないか。でも、活きは良くなってるぜ」


 僕は魚類か。心の中でツッコミを入れる。


 ……元気が出た、か。そうなのかもしれない。今でも必死であることには変わりないが、不思議と気分は落ち着いている。僕がするべきことがわかったからなのだろうか。


「こんだけ頑張れば三枝さんの居場所もそのうち分かるようになるって。ほら、神は自らを助くるものを助く、って言うだろう」


「どこでそんな言葉を聞いたんだ」


 遠野のくせに小難しい台詞を吐いている。小生意気な。


 でも、その言葉を聞いて何故か自信が湧いてくる。そうさ、きっとなんとかなる。そんな気持ちにさせられる。遠野の軽口も、冗談も、僕を思ってのことなのだろう。僕は遠野に感謝しなければならないと素直にそう思う。


 遠野の得意げな表情をぼんやりと眺めていると、唐突にポケットの中が震える。麦嶋からの電話だ。僕は急いで電話に出る。


「もしもし」


『羽田? 今どこにいるの?』


「どこって病院だけど」


『グットニュースよ』


「何だ?」


 麦嶋は早口でこう答える。


『三枝さんの居場所がわかったわ』


 僕の目が大きく見開かれる。


「本当なのか! 三枝さんは今どこにいるんだ」


 僕は思わず叫び出していた。心の底から湧き出る興奮が抑えきれなかった。


 三枝さんの居場所。僕が探し求めた場所。ようやく、知ることができた。


「落ち着いて、羽田。とりあえずは大学近くの駅。そこで落ち合いましょう。私はそこで待ってるから」


「わかった。すぐ行く」


 気がつくと僕は走り出していた。交差点も標識も、バス停も通り過ぎ、赤信号も無視してただひたすら先へ、先へと進んでいた。見慣れた風景が次から次へと遠ざかっていく。僕にはそんな景色には興味がない。僕が欲しいのは三枝さんのいる景色。ただそれだけなんだ。


「おい、急に走り出してどうしたんだよ」


 後ろから遠野の声がする。ゼエゼエと荒い声を吐きながら、必死に僕の後を着いてきている。


「わかったんだ」


「何だって?」


「居場所がわかったんだ!」


 そうか、と小さくなった声がする。大分引き離してしまったのだろうか。しかし、僕は立ち止まれない。止まっている場合ではないのだ。僕は辿り着かなければならない。僕は見つけ出さなければならない。そのためには前へ、前へと進み続けるしかない。僕にはもう、そのことしか考えられないのだ。


 後ろから聞こえる声は次第に小さくなっていく。それでも僕は後ろを振り返ることはない。ただただ、前だけを見つめて走っている。


「頑張れよ!」


 最後の最後に叫ぶような声が聞こえる。言われなくてもそのつもりだ。ありがとう。遠野。


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