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クッキーフレンド  作者: 加護景
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クッキー試食会は無事終わる

 その後は何事もなかったかのようにクッキーの試食会が続いた。三枝さんが騙されて口にした阿仙薬のクッキーは思った通り苦々しい味で、とてもクッキーとは思えない代物だった。その他にも、禍々しい味であろうクッキーが次々と焼きあがるが、三枝さんはそれらのクッキーを一口ずつ、平然と試食していった。何を食べても表情は変わらず、平然としている三枝さん。もしかすると三枝さんは味覚が少々おかしいのかもしれないなと、そう思った。


 結局、今日中には、三枝さんが送ってきたすべての調味料を試すことはできず、また次の機会に持ち越しとなった。まあ、段ボール箱いっぱいに入っていたのだ。今日一日ですべて試してみるというのはあまりにも無謀というものだ。それにまた三枝さんと会える口実ができたのだ。これ以上に嬉しい収穫はない。


 試食会を終えて、帰り支度をする三人。送っていこうか、と三枝さんに声をかけるが、前回と同じように拒否された。やはり、一人で帰りたいらしい。何となく寂しい気持ちになったがこれは本人が望んだことなのだ。仕方がない。


 皆が帰って、一人アパートに残される。部屋の中にはクッキーの残骸と使いみちを失ったビンの山。少しぐらいは片付けを手伝ってもらうべきだったなあ。


 そう思いながら、僕は一人、部屋の片付けを始める。食べかけのクッキーは……勿体無いけど捨てるしかないかなあ。あっ、でも、幾つか美味しいものもあったからそれは取っておこう。使いかけのジャムの入ったビンはどうしようか。まだ使うかもしれないし、取っておいたほうがいいのかな。部屋のスペースが圧迫されるからあまり置いておきたくないけど、仕方がないか。


 黙々と片付けをしていると、何か見慣れないものが落ちていることに気がついた。水色の小さなケース。何が入っているんだろうか。好奇心に身を任せて、中を開けてみると円形の白い錠剤が散らばっていた。どうやらピルケースのようだ。一体誰のだろうか。もしかすると……


 僕にはこのピルケースの持ち主に心当たりがある。きっと薬がなくて困っているはずだ。僕は持ち主にすぐさまメールを送る。


 数分後にメールが届く。宛先は三枝さんからだ。


『私のものです』


 簡素な一文だった。そうか、やっぱり三枝さんのものだったのか。この間、病院の前にいたのはこの薬を受け取るためだったのかもしれないな。さて、どうやって返却しようかな……


 僕が返信のためのメールの文面を考えていると、再び携帯が鳴る。電話だ。それも見たことない電話番号だ。こんなタイミングに掛けてこなくてもいいのに。そう思いながら、僕は電話に出る。


『……羽田くんですか』


 ん? どこかで聞いたことがある声だ。


「そうですけど、あなたは?」


『三枝です』


 なんと、三枝さんからの電話だ。三枝さんから電話がかかってくるなんて、僕は夢でも見ているんだろうか。いや、そもそもどうして三枝さんは僕の電話番号を知っているのだろうか。教えていないはずなのに。もしかすると、麦嶋が教えたのかもしれない。遠野だけでなく僕の個人情報も筒抜けになっているのか。まあ、その漏洩先が三枝さんだったら僕は問題ないけど……


『忘れ物の話なのですが』


 いけない。今はそんなことを考えている場合じゃない。三枝さんに失礼のないようにしないと。


「すぐに必要……ですよね」


『私にとって大切なものなので』


 大切なもの。やはり何か病を患っているのだろうか。でも見た感じ至って健康そうな気がするけど。


「それなら、今から僕が三枝さんの家まで届けに行きましょうか」


 なんて大それたことを言ってみる。三枝さんの住所が知りたいという魂胆が見え見えな発言だ。まあ、即座に否定されるだろうけど。


『……そうですね。お願いします』


 なんと、三枝さんは少し悩んだ結果、僕の案を受け入れてくれるようだ。嬉しい半面、何か弱みに付け込んでしまったみたいで少し気が引ける。


『住所はまたメールで伝えます。それでは、よろしくお願いします』


 電話が切れる。もちろん僕は三枝さんの電話番号をアドレス帳に記録する。少し時間が経つと三枝さんから住所の書かれたメールが届く。今日一日で電話番号と住所を知ることができるなんて、三枝さんには少し悪いが、忘れ物をしてくれて本当に良かったとそう思った。


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