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クッキーフレンド  作者: 加護景
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クッキー作りの忘れ物

 正面には近代的な趣向を凝らした立方体がそびえ立っている。その建物は柔らかな橙色の照明でライトアップされており、夜にも関わらず存在感を主張している。周りには、よく手入れされた樹木が控えめに植えてあり、安らいだイメージを与えることに成功している。この少し値が張りそうなマンションこそが僕の目的地なのだ。送ってもらった住所によると、このマンションの六階に三枝さんは住んでいるらしい。


 エントランスに入ると、一際明るい小奇麗な空間が出迎えてくれる。周りに見えるのは真新しいステンレスでできた郵便ポストに、待合用のソファーとテーブル。ここに来てよかったんだろうか。僕という存在があまりに場違いのように思えるような内装だ。肩身の狭い思いをしながら、よくよく観察していくと、奥の方にもう一つ扉があるのを発見する。どうやら、その先にエレベーターがあるようだ。当然、僕はその扉に近寄って開けようとする。しかし、押しても引いてもびくともしない。鍵がかかっているのだろうか。


 どうしたものだろう。そう考えていると、その扉の横にモニター付きのインターホンを発見する。インターホンの下には、『部屋番号を押して下さい』と注意書きされている。なるほど、これで部屋の人に鍵を開けてもらえるのか。部屋に入るのに鍵が必要なのは当然だが、こんな入口にまで防犯対策をしているとは、僕の住んでいるアパートが少し惨めに見えてくる。いや、不満があるわけではないのだけど。


 僕はインターホンに三枝さんの部屋番号を入力する。ピンポーン、と音がすると、インターホンから三枝さんの声が聞こえてくる。三枝さんがどうぞ、と一声かけると、扉の鍵が開く音がする。扉を押してみると、さっきとは打って変わって、何の抵抗もなくすんなりと開く。どうやら僕はここに入るのを許されたらしい。僕はてっきりこのエントランスで渡すものだと思っていたのだが、まあ、いいか。


 僕はそのまま、三枝さんの部屋の前まで行く。ここにも当然インターホンがあるので、同じようにチャイムを鳴らすと、すぐに扉が開く。扉の前で待っていたのだろうか。半開きになった扉の向こうには三枝さんがいる。


「あっ、これ」


 僕はピルケースを三枝さんに手渡す。


「……ありがとう」


 お礼の言葉のあと、三枝さんはピルケースを受け取る。


「あの、三枝さんって何かの病気なの」


 病院の前で会ったあの時、聞きそびれた言葉を口にする。僕の言葉に三枝さんは少しだけ嫌な表情を見せる


「いや、言いづらいなら言わなくてもいいんだけど」


「……上がりますか」


 三枝さんが僕に囁いた。それは、あまりに、あまりに魅力的な提案だった。


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