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The/O  作者: 数美
2.キカイナマジュツ
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彼女たちの仕事(7)



   

「わーお、すげー、すげー。面白そうなフライトゲームやん」


 投影された疑似的な空を滑らかな挙動で四機の飛翔体が舞っていた。

 リンゼとザザピィが放った偵察飛行を行う使い魔。その軌道を遥か離れた洞窟の中でリアルタイムに再現しているのだ。

 作戦は開始していた。

 エトリとアウラ以外の魔術師たちの足元には小さな魔法陣が描かれていた。その魔法陣から延びる光の柱から、アウラが展開している地図を結ぶようにパスが繋がってる。


「アウラ、静かに。っていうか、黙れ……!」


 どうやら普段のおとなしい性格とは反対に、ハンドルを握ると荒っぽい性格となるようだ。

 まるで光学の模型を操って空を飛び回るような光景にアウラが興奮するのもわかるのだが、繊細な操縦を保ち続けなければならないリンゼはそれ所ではなかった。

 担当配置は作戦前にエトリが決めた。空魔の扱いに慣れているということで彼女たちが担当することになったが、特殊な設定チューンを盛り込んだ為、操縦性に難のあるものとなっていた。

 〈螺旋蝙蝠(バット)〉は番いの二機を一ユニットとして運用する。同時に二機を飛ばすのだ。それでもただ飛ばすだけなら問題は無いとリンゼは考えていたが、エトリは細く長い窮屈な道筋の完璧なトレースを要求していた。

 〈螺旋蝙蝠〉は実体化せず、霊体のまま使役するので地形による障害物は考慮しなくてもよいのだが、常に前進する飛翔体はただでさえ小回りが利かない。エトリの指示したルートから離れない為にも、操縦に細心の注意を払っているリンゼたちの神経はすり減っていた。


「アウラは黙ってなさい。集中してないとすぐ落ちんのよ」


 ブライカも静かにたしなめた。


「あー、ちょっと後悔……」


 何度か舌打ちをこぼしながら、それでも何とか二人はエトリの指示から外れずに〈螺旋蝙蝠〉を操っていた。

 エトリがここまでコースを制限したのは〈ゼ・トトガリ〉が関係している。

 岩窟の中も、そして対象が潜んでいる場所もそもそもが〈ゼ・トトガリ〉のアジト圏内である。

 何かの魔術を外部に放てば、各所に残されているトラップ地帯が反応してしまう事になる。

 この砦の中や、エトリが侵入ルートとした道筋は特に問題はないが、それでもまだ大部分が残されているのだ。仮に使い魔に反応する仕掛けがあった場合、接近を報せてしまうこととなる。


「そうそう。落ち着いて。上出来、上出来。障害物は気にしないでいい。そのまま――」


 指定ルートの維持と速度制限。その二つの指示をリンゼとザザピィは慎重に守っていた。

 やがて軌跡が地図の中で円を結んだ。この拠点としている岩壁の洞窟を端に含み、僅かに重なる二つの歪な円が出来上がった。


「はあ……なんとか」


 一度円の軌道を覚えこませれば、使い魔たちは自動操縦によってそれをなぞっていく。二点で描かれる円上で対称の位置を保ち、旋回を続けることとなる。


「はーいお疲れー。ふっふっふふん、あっしは楽なポジションでよかったー」


 けたけた笑いながらアウラが二人を労った。


「もう、黙りなさいって」


「アウラは後でぐーでぶつ。――っと、見つけた。標的は仮称Aを設定。座標を反映」


 リンゼが担当する円の中に、ひとつめのターゲットを示す印が描かれた。


「これは……一人か。他には……近くにはそれ以外、誰も見つからない」


 囲みの中に幾度も波紋が渦巻き、追いかけるように色彩の波が広がっていく。

 〈螺旋蝙蝠〉はその名の通り、蝙蝠による音波識別のような機能を有している。微弱な魔力をぶつけることで、内側の対象を察知することが出来るのだ。

 二機を用いるのは反対側から位相魔力を同時に発信することで、対象者側から察知されるのを防ぐことを目的としていた。


「どうする?」


 リンゼはエトリに問いかけた。

 波が引いた後に残った印は、やはり一つのみだった。

 判断の分かれ目だった。このまま発見まで継続させてもいいが今回は制限時間がある。


「リンゼとザザピィはそのまま続行。次段階に移行。〈人形(ログ・スタンパー)〉準備。――キュリン?」


 ブライカとキュリンの足元から光の柱が伸び、同様に彼女たちとアウラの魔術を繋いだ。


「任せて下さい」


 パキパキと何かを折り曲げるような音がしていた。魔法陣から伸びた光の束が骨組みを造り、具現する何かを作り出しているのだ。

 繰り出されたのは人の型を模す使い魔――〈人形〉。

 直立する大きさは術者であるキュリンとほぼ同じ。大きな背嚢バックパックのようなものを背負っていた。


「作戦は――」


「大丈夫です。ここから遠ざけるように、時間稼ぎってことで」


「それじゃあ頑張って。〈人形〉行動開始」


 人体の関節を備えた駆動で〈人形〉は走りだし、岩窟から飛び出していった。

 〈人形〉という使い魔は、輪郭で描かれた影である。

 暗い単色の肌は視認に対し、厚みと質量を持った人と同等の型を錯覚させる。また表面の色を変化させ景色に溶け込むような隠蔽を行うことも可能とする。

 実体は魔力を圧縮した霊体であり、出力は物体への疑似干渉という特徴へと変換される。

 例えば不意に鳴る足音。人為を介したような物体移動。

 あたかも、そこに誰かがいたかのように。

 それらは幻影が音を発し、魔力波動を補助として干渉を起こした痕跡というフェイク。

 〈人形〉はいるはずのない存在に認識を阻害する事を目的として開発された魔術である。

 高い有効性と後につなぐ戦略を豊富に備えた〈螺旋蝙蝠〉と〈人形〉の組み合わせは、索敵用の使い魔としては代表格といえる。

 魔術戦の諜報と偵察の基本としては、教本通りだがエトリたちはいくつかのアレンジを組み込み、隠密行動における魔力情報の採集を目的として作戦を立てていた。

 マップの中では〈人形〉を識別する印が標的Aへと向かい、進んでいた。

 付近までは極めて淡い色彩(・・・・)の影となり、物理干渉力は最低レベルに設定している。こうすれば極めて透明に近く、なおかつ無音で木々の中を駆けることが出来る。気取られる心配は無いはずだった。


「範囲はプラス百を設定。二百五十で一旦停止」


「了解しました。間もなくです」


 キュリンは巧みにデバイスを操り、マーカーのあるポイントへ近付いていた。

 〈人形〉の移動速度が落ちた。

 設定された距離に到達したのだ。そのまま待機。再度〈螺旋蝙蝠〉からの修正情報を待つ。そしてわずかに進む。それを慎重に繰り返していく。

 〈人形〉と〈螺旋蝙蝠〉には外部を見る為の視野を備えてはいなかった。

 エトリが使っていた視覚機のようなものを付属することは可能だが、遠隔視認を行うことで逆に発見されるリスクを引き上げてしまう事になる。

 必要最低限にまで機能を削ぐことも隠密性に関わる。その為、今回は外見を確認するのではなく、識別パーソナルを入手することを優先としたのだ。そして直接的に視ずとも、アウラの地図と〈螺旋蝙蝠〉から送られてくる反応をリンクさせることにより、その欠点はカバーできる。


「キュリン?」


「見つけました。〈螺旋蝙蝠〉からの情報と合致。圏内に人型ターゲットを発見」


「このまま対象はAに集中。――ブライカ」


「おっけー。いくよ……!」


 〈人形〉を表すマーカーが二つに分裂した。ここまでキュリンの〈人形〉によって背負って運ばれていたブライカの〈人形〉が分離し、人型に変形したのだ。


「――ちょっと待った。訂正。二体目、対象Bを発見した」


 リンゼからの進展報告が入った。新たな対象が地図上に示される。座標はAからは遠くの位置にあった。


「ん、あれ、ああ、大丈夫……いやだめか」


 光点Bは明滅を繰り返し、やがて光が消えた。


「おかしい。なかなか捕捉が確定できない。ちょっと待って」


 再度光が灯るが、やはり捕捉情報が安定することはなかった。


「まあ、いいわ。おそらく何らかの対抗手段を持っている可能性が高いってことよ」


「これで反応は二つか。けど、これ多分そのまま二人ってことだよね」


「ウチらみたいにおんぶしてるとかは?」


「それはない。魔力の波長は一人分」


「やっぱり顔が見えないのがなー」


「ここまでは、まずまず予想通り。変に散らばっているよりかはだいぶ楽。現在の距離間隔を百で再設定。今後はこれを維持」


 手を叩いたエトリの指示に、アウラが補助ゲージをマップに追加した。

 単純な印だけで表されていた標的の駒が、いつの間にか案山子とモグラになっていることに気付いたエトリは表情を緩めていた。


「対象はAを――〈カカシ〉を採用。魔力粒子、放出開始」


 マップに風の流れを可視化したように、色彩が放たれていく。

 流れは外は濃く、内へ段階的に淡くなり丁度中心となる点は無色となっている。

 魔力反応の採取にはいくつか方法はあるが、今回行うのは二極観測といわれるものだ。

 まずは〝界〟の設定と封鎖を行う。その中に調整した魔力を散布し界の内側へと干渉、そこからの均衡の変化をもう一体の〈人形〉が取り込むことで、反応値を測定する。

 調査範囲は〈螺旋蝙蝠〉の飛行軌道を基準にする。そしてブライカの〈人形〉に込められた魔力を粒子として散布し、対象の〈套紋コート〉に触れることによって条件は成立する。

 ブライカの〈人形〉をキュリンが背負っていたのは、少しでも魔力消費を抑えるためと不自然な魔力物質の移動という目立つ足跡を隠す為だった。

 この方法の一番の利点は有効範囲と隠密性である。調査範囲にいたとしても違和感を感じることはできないはずだ。

 欠点としては、採取能力として低質であり精度は簡易的レベル。そして何より、遅い。

 故に、今はただ動きを待たなければならない。



「同士討ち?」


 判明した状態に対し推測するならば、その仮定が紡がれることとなる。


「どういうこと?」


 ブライカの疑問にエトリは明確な言葉を返すことが出来なかった。


「さあて、ね」


 〈カカシ〉は動きを見せていなかった。

 ほぼ停止しているようだが、これは地図の縮尺と描画の追随頻度からそう見えるだけだろう。それを裏付けるように魔力値は大きく鼓動を打っていた。

 波形は平常時を超えていた。即ち戦闘用魔術に等しい力が行使されていることになる。

 地図の基本色彩が通常グリーンから危険区域レッドへと切り替わっていく。

 そして濃度が増す渦の中には、対象B(モグラ)が存在している。やはり時折反応が怪しくなるが、付近にいることは疑いようがない。


「またエトリの視覚機を壊してるんじゃあないの」


「いや、この付近にはない」


 この座標には視覚機を置いてはいない空白地帯。それ故のことなのか、偶々なのか。おそらく、前者だ。


「リンゼ、あたりに何か見える?」


「ノーよ。〈カカシ〉の方は間違いなくこの場所にいるんだけど、何をやってるのかは不明。〈モグラ〉は出たり、消えたり」


「〈人形〉に何か異常は?」


「いえ特にありません。残存魔力もまだ充分に」


「他に何か変わったことは?」


 エトリの問いにやはりブライカたちは首を振った。

 〈人形〉が気付かれたという訳ではないようだ。つまり〈カカシ〉の意識は〈モグラ〉に向けられている。つまり戦闘状態である可能性が高い、ということになる――のだが。

 〈モグラ〉側の反応が見えなかった。魔力ゲージは動いているが、その波形は一人分だった。

 異なる魔力がぶつかるのであれば二つの形状が波打っていなければおかしいのだ。


「どうする? 網を広げる?」


「いや、このまま。〈カカシ〉に絞り収集を続行」


 今だ地図の中では滲んだ赤い染みが大きく広がり、この場所が危険地帯であることを告げていた。

 得られる情報が稚拙な観測方法のみ、というのがもどかしいかった。

 直接現場に向かい確認をとりたかったが、今回はそれはなしだ。


「そもそもこの二人は仲間だったの」


「こうなるとその前提が間違っていたということになるか。だから本当はただ偶然その場に居合わせた二人ってところね。交戦が始まるまで時間があったから、ある程度は面識があったってことなのかしら」


 理由を解明することはこの場所からでは不可能だ。だが状況は好機とみるべきか。エトリは彼女たちに指示を送る。


「よし、少し近付こう。距離一〇〇から九十五へ」


 現在の距離では魔力の分散状態を鑑みて収集にあまり効率がよくない。

 エトリが前進の指示を出した。マップに狭まった円を示す線が新たに引かれた。

 戦地中心へ向かい僅かに前進。

 例えこちらを向いていなくとも、キュリンは慎重に距離を詰めていた。

 彼女は魔術戦の経験がないと言っていた。だが表情は冷静なまま、操縦に乱れはないようだ。

 その場所でも未だ最前線より、はるか彼方なのだ。


「あれっ……?」


 キュリンが驚きと困惑を口にした。彼女を包んでいた魔術の発動を示すサークルの光が消えた。


「え……?」


「魔術消却。こっちからパスを渡すから再起動、急げ」


 遠隔操作型の使い魔は制御が難しく、失敗すればその場で霧散する。そして焦りや疲労などの精神的な負荷でも遠隔地にある魔術には大きく影響が出るのだ。

 操縦型の使い魔にはあまり慣れていないと、事前にキュリンは言っていた。

 ブライカは、キュリンが魔術制御を失敗したのだと判断した。


「うん、ゴメンなさい」


 ブライカの魔法陣より伸ばされた光のパスがキュリンへと向かい、魔術の再起動を助ける。

 そしてキュリンの操る〈人形〉が再び地図に表れた。座標はブライカの近く。この為に事前に〈人形〉にも高速復元用のパスを組み込んである。


「……待った。フォーメーション変更。キュリンはそのまま。ブライカは距離を詰めて九十五」


「了解」


 返事と共に、一歩目で今度はブライカの魔法陣が消えた。


「なっ……!?」


「――やっぱり。キュリン。一度離れて。一〇〇から一二〇。そこでブライカ再起動。アウラ、キュリンの〈人形〉が消える一分前までの魔術痕跡の解析。リンゼ、ザザピィ、〈螺旋蝙蝠〉から〈カカシ〉と〈モグラ〉の位置を再走査」


「離れました。パスをブライカに接続。再起動中です」


「〈カカシ〉の位置変更なし。〈モグラ〉以前未確定。精度四分の一」


「……あーりゃー、こりゃまた」


 異常を認めたのはアウラだった。


「キュリンの〈人形〉は撃破されていた模様。極めて強力な魔力弾の到達を確認」


「狙撃……? あんな所から……〈人形〉へ向けて正確に?」


「やっぱり……」


「発動マイナス値は超強力な割に、痕跡グラデーションは拾えなかった。収束が短すぎる。……馬鹿な」


 距離の設定はエトリが見立てたものだった。この位置ならば、どんな探索系の魔術でも見つけることはできないはずだった。

 そう思っていたのだが。


「……」


「一旦後退します」


 さすがに想定外か。

 一瞬考えこんだエトリを見て、キュリンがそう進言した。


「いえ、逆よ。キュリン、ブライカを投影シールドにして迂回しながら接近。パスは常に繋げたまま、切らないで」


 エトリには焦りはない。ただ冷静だった。

 彼女の描く盤面はまだ崩れてはいない。


「え、はい。了解です」


「ブライカ、制限なしで全力稼働して。九十を切れたらボーナスだすわ」


「おっけー、いいね。そうこなきゃ」


 緊張を浮かべるキュリンに対して、ブライカはどこか楽しそうだった。


「八十五を切れたらランダムに大きな回避運動を一度。操作を中断。自動処理で待機」


「わ、わかった。やってみる」


 強張った声で応えるキュリンに向かい、エトリは柔らかく微笑んだ。


「落ち着いて。もうちょっとだから」

2019/03/16【投稿】もう三月の半ば……だ、と……!? Σ(・□・;)

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