放課後(闇)(1)
【10】
承前。
望まぬ奇跡が起こした災害が過ぎた後。
事件の惨状を物語るかのように、周囲は散々たる有様だった。
崩れ落ちた校舎の外壁。いくつもの落ちた鋼材が何かを弔うように、地面に突き立てられていた。
それらを含めて、すでに全てを覆う夜の帳が、例外なく世界を黒で塗りつぶしていた。
本格的な撤去と修復作業は明日陽が昇ってから始められることになっていた。それまでのひと時の間、この夥しい残骸は〈幻魔生物〉の墓として残されることになる。
その一角に黒いすすのようなものが溜まっていた。
ただの瓦礫やごみの集合体と呼ぶには不自然なほどに、光をも飲み込むような深い漆黒。普遍的な人工物ではない。だが自然を由来とするものでもない。
特殊な機材や実験物。その可能性は確かにある。かつてここにあった施設はそういう場でもあったのだから。
奇跡という聖邪の定めのない事象の落とし子としては、相応しいともいえる未知の物体。
大きさは、丸まった人を中に詰めるぐらいはできるだろうか。
仮に人を成長した状態で生み出す卵が存在するのならば、この位になるのかもしれない。
不意に黒い塊が震えた。
風に揺さぶられたのではない。揺れるというよりも、その中に込められた何かが――殻を破る雛のように、あらんかぎりの力を打ち付けているようにも見えた。
その表面に波紋が生まれた。何かが水中をもがくかのように突き伸ばされ、そして再び沈む。
撒き散らし、掻き乱すかのように内から何かを突き立てるが、それもやがて治まり元の境界となる楕円に形成された。
空気の壁。空間の壁。いかような力の働きがその境界を定めているのか。だがどうやらこの塊には卵のような内と外という厳密な壁は存在しないようだ。
この異物は固体ではない。
徐々にその外殻然とした表面の密度は薄くなっていた。
黒い繭。月光を返す磨き上げた黒曜のような質感から、色をぼやけさせ黒い蟠りのような物へと変質する。幻煙を解くように、その質量が変化したのだった。
音もなく。再び何かが伸ばされた。
その先端は指であり、それは人のような手だ。
どす黒い塊から生まれたにしては白く細いその腕は、すでに意思を持っているかのように周囲を探るように這わせると、やがて地面を見つけそれに指をかけた。
渾身の力で這うように、女の裸身が出てきた。
光を放つかのような繊細な白い肌。
ばらまかれて整いのない長い髪は緩やかに裸身にまとわり、その表情を隠していた。
「あ――は――はは――ふ」
生後間もない獣のような震える足で立ち上がる。
「あ――」
骨を突き破るかのように背中に生えた禍々しい黒い翼を大きく広げた。
黒い艶。女が収まっていた黒い繭を受け継いだかのように、羽の一枚一枚が全て刃のように研ぎ澄まされた鈍色。それは鳥や獣ではなく、人の創る美しさだ。
すでに太陽は没した空。誰も知ることのない生誕。
宵闇では届かぬほどの深い黒の翼が、遠くの光の元へ。
誘蛾灯に魅せられたかのように虚ろに飛び立った。




