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The/O  作者: 数美
1.魔術師エトリ
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戦技の授業(4)

 眼前に突き付けた剣を納め、エトリが陣地の仕切りへと向かう。

 その空いた空間に。ぼてり、と木人(デク・アーマー)が倒れてきた。

 木人。その名の通りの木偶(でく)という意味ではなく、反撃をせず防御のみをこなすやられ役のことである。全身に動きを阻害するような厚い柔装甲(フルクッション)をまとっていることからそう呼ばれていた。

 倒れこんだ木人はそのまま器用に起き上がるが、そこへ走ってきた対戦相手による追撃を加えられていた。

「と、や、やあ――!」

 こちらは女生徒であろうか。軽装甲とまではいかないが、怪我をしないように各部に防具(プロテクター)を付けている。その手にあるのも、そのものを模した重さのある練習剣である。

 問題は彼女たちが別の陣地に渡っていることに気付いていない、ということである。エトリたちはすでに気付いているので動きを止めているが、熱中しすぎて周りが見えていないのか女生徒の方はお構いなしに剣を振り続けていた。

 打たれ、投げられ、殴られ、足をかけられ、木人はコテンパンになっていた。遂にはサイズが合っていなかったのか整備不良か、木人の頭部(ヘッドマスク)が吹き飛んだ。

「危ない!」

 ブライカは思わず叫んでいた。柔装甲(フルクッション)をつけているということは〈套紋〉の安定に問題があるのだろう。そのむき出しの頭部に鈍器のようなものを叩き付けてしまえば――

 だが、その大きく振りかぶった一撃は横から差し出された剣にあっさりと止められた。そこからねじるようにして払い廻され、その手から得物をはじき落とされていた。

 剣がすっぽ抜けたことに気付いた女生徒はようやく落ち着いたのか、自分の手と倒れている木人を見て、さらに横から剣を出したエトリに気付くと、何度も頭を下げ謝っていた。頭を下げるそのたびに、ひっつめた髪がぺんぺんぴこぴこと振り回されていた。

「あれ……?」

 頭を下げまくる女生徒と、涼しい顔で払い落とした剣を相手に返すエトリ。そしてまーまー大丈夫だから、とでも言っているのか女生徒をなだめるのは――見ない顔だ。

 見たところ普通のヒト種族。年齢が高いか、エトリたちよりやや年上のはず。では教師か。

「中身は教師だったんだ……ん」

 この授業の担当教師ではない。本来の教師はもし歴戦の(つわもの)が退役後に体育教師になったら、といような頑強なご老体である。彼は別の場所で生徒たちを見ていた。

 つまり外部からの補助要員。ということは。ブライカは思い出す。

 そういえば事務員の言葉におかしなところがあった。

 連れていかれた、と言った。つまり呼び出したのではなく、その場所にいる予定があり、それを承知して訪ねていたのだ。そもそも教師や広報関係などの学内活動に対しては、学園側の秘匿守護の重要度は大したものではない。

 つまり――

「まさか……あれ?」

 予備の防具を付け直し、陣地を戻し授業は再開されていた。


「んー」

 そもそも先程の女生徒。名前は知らないが、落ち着いて戦えば決して悪くはない腕をしていた。一連の動作は技として、形が根付いた連続行動には無駄なく淀みがない。文字通り努力という反復で型を繰り返して体に覚え込ませたのだろう。規律を重んじる軍人向きだ。

 それに対して、彼だ。

 元々はこの授業の担当教師ではない所を差し引いても。おそらく授業で行う組手の相手が足りないとかで、木人(デク)役として手伝っているだけなのだろうが、丸々とした柔装甲(フルクッション)では外見的には精悍さの欠片も感じられず、さらにそれがドタバタやられているのを見ると、そういうものだと分かっていても、カッコよくは見えない。

「うーん」

 ブライカは唸るが手を抜いているようにも見えない。というかこれで本当に手を抜いているとしたら、ある意味その演技力こそが彼の技能かと思うほどに。

 ここまで考えてブライカは彼に対して、無意識に評価が辛くなっていることを自覚した。見比べた先の離れた陣地では、エトリが対戦相手を苦も無くあしらっていた。

「これでいいのかなー」

 女生徒の右からの打ち下しが決まりのけぞる。ここはチャンスだ。そのまま剣を返し、斬りかかる。何とかよけるが片足が浮いてしまった。すかさずの盾打ち(シールドバッシュ)でさらに体勢を崩すことに成功、からのそのまま体当たりの二段追撃。普段は盾を使う戦い方なのだろう。いい肘の入れ方だった。後ろへたたらを踏んだところに、眼前を遮る防御の手で死角を作り、そこから放たれた一撃は木人の胴をとらえ――

「あーあ」

 あえなくノックダウン。吹き飛んだ最強(エトリ)の恋人を見て、ブライカはため息をついた。

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