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鍵は必要ない

 ティマが踏み出すと同時に、男は剣を構える。


 簡単に骨が折れそうなほど、か弱く見みえるその体はしなやかに舞った。ティマは子供の動きを遥かに上回るスピードで近づく。


 そのスピードには男も動揺し剣の軌道が歪んだ。


「やるな」


 そのままティマは研ぎ澄まされた剣技で男に攻撃を続ける。


 その一撃一撃が美しかった。


「一体どこの流派だ」


 その剣筋、足の運び方、独特でしかし洗練された剣技。


「知る必要はないわね」


 その美しい剣技も所詮は少女の成す技。大人である男に敵うわけないと男は思っていた。


「そうか。だが不意打ちじゃないと勝てないわけではなさそうだな」


 剣と剣がぶつかり合い、金属が擦れる音が聞こえる。


 男と少女が対等にぶつかり合うこの異例の状況に男は恐怖すら抱いていた。


「続ける気はない。もうお別れよ」


「それどう言う――」


 ティマの目が男を見据えた。


 その瞬間、男の本能が危険と知らせる。


「まてッ」


 ティマが一歩踏み出す。


 足に圧縮された魔力の反発を利用して、今までのスピードを遥かに超えた速度を出した。


 風が切れるように一閃。


 気がつくと男の視界は夜空を捉えていた。


『は?』


 ティマの赤い瞳孔が男を見下していた。


 跳ねられた生首からは血が流れ出ている。


「安らかに眠りなさい。世界が平和を取り戻す糧として――」


 ティマは剣に着いた血を振り払い歩き出した。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうしました?」


 僕は立ち上がり檻を握っていた。


「少しここを出る」


「でも鍵がないです」


 それなら安心して欲しい。


「大丈夫だ。鍵は必要ない」


「それじゃあどうやって……」


 この檻は金属で作られている。子供が逃げるなど不可能なのだ。


 だが僕にそんな不可能は困難ですらない。


 鍵のかかった檻から出る方法は一つ。


 檻を壊せばいい。


「それじゃあ」


 僕は魔力を手に収縮し強化する。


 そして、フン!ってして、檻を曲げた。


 以前も檻を曲げたことはあったしね。普通の方法さ。


「え?」


 少女は目を見開いて驚いた。


 当然ただの男の子にそれだけの力があるとは思えない。


 大人でもそうできる者は多くない。


 あの子は一体何者なの?


 そんな疑問は意味をなさない。少女はそれを理解していた。


 この世にはわからない事は星の数以上にある。


 そのうちの身近なものだけを手繰り寄せて暮らしていく。それが普通であり当たり前なのだ。


 だからただあの子を信じることしかできない。それが少女にできる精一杯の努力だった。


「さて、行くか!」

 

 石で作られた部屋。

 

「おい。外がうるさいぞ。何かあったのか」


 リーダーが言った。


「確認してきます」


 横に座る盗賊のような人が言った。リーダーはその男を力強い目で見つめる。


 その圧に押しつぶされそうになるが男は立ち上がり、歩き出す。


「何が起きているのやら……。何としても今日の品は守らなければ」


 リーダーが呟いた。


 これさえ成功させれば、自由だ。この呪縛からも逃れられる。


 かつては狂乱の剣鬼、とも呼ばれた俺は、剣の腕には自信がある。


 魔術が主流のこの世界で、剣を握った俺は人々から蔑まれた。


 それでも諦めずに剣を振った。ただ振う。その繰り返し。


 手を血に染めて行く何とも言えない恐怖。


 それに慣れた頃、一人の少年と出会った。その男はかつてないほどの強敵だった。


 そいつには極めた俺の剣技すら意味をなさない。


 まさに狂気。あの少年は異質。


 あの時、逃げていなければ命はなかっただろう。腕一本を犠牲にして得たこの命。


 あのクソッたれな教団達に奪われてたまるか。


 その瞬間。何かが倒れ落ちる音がした。


「何だ?」

 

 リーダーが先を見ると地面に血が垂れ流れてきている。


「ッまさか!」


 階段を降りる足音が響く。


「侵入者か。それもかなりの手練れ」


 あの男は決して弱くはない。かつては冒険者として名を馳せたほどだ。


「一体何者だ」


 姿を現したのは一人の少女だった。


「少女だと?」


 男を倒したのが少女だと言うのか。


「初めまして。あなたがここのボスね」


「ああそうだ。貴様は何者だ」


「ノワール」


「ノワール?あのアジトを潰している小規模集団か」


「ただ平和を願っているだけよ」


「アジトを潰すのが平和だと?ふざけるなよ」


 平和とはそんな物ではない。


「ええ、平和の為。平和を実現させるには一度戻さなければならない」


「何を言っている。そんなことができるわけ」


「あなたもそんなことを言うのね」


「どう言った事だ」


「いえ何でもない」


 その瞬間、その少女がその場から消える。


 剣がぶつかり合い鈍い音がした。


 ギリギリでリーダーも剣を抜き、少女の剣を防いだ。


「やるわね」


「これでも俺は剣を子供の頃から握っててなぁあ!」


 リーダーが少女を押し返す。


 少女が踏み込もうとしたその時、リーダーが背後から剣を下ろした。


「ッ!」


 紙一重で少女はその剣を避ける。が、黒いコートが切れた。


 直ぐに体勢を立て直し、剣を構える。


 ただ目の前から剣が降りそそぐ。少女の力では押し返せないほどの重さだ。


「その歳でここまでやるとは、認めてやろう」


 少女が一歩後退する。


「あなたも外にいた男達とは違うようね」


「外にいるのは所詮その程度の者たち」


「そうねッ」


 踏み込み、そしてリーダーの目の前で横にずれる。


 舞うように体を動かし、リーダーの隙を狙う。


 死角からの攻撃も、リーダーは直ぐに対応し、剣を向ける。


 止められた少女の剣はいくら押そうともリーダーはびくともしない。


 ならばと少女は剣を捨てて、顔めがけて膝を撃ち込んだ。


 リーダーは避けようとするが頬に少女の膝が当たり、口から血が出る。


「ゲハッ」


 リーダーが少しよろめくが、それでも剣を大きく振った。


 少女は捨てた剣を掴み、咄嗟に防御する。


 ただそれでも一瞬にして壁まで飛ばされ、体がボキボキと鳴った。


 骨が数本逝っただろうか。


 地面に少女は崩れ落ちた。


 茫然とし血を吐きながら下を向いている。


 これほどの痛みを少女は久しぶりに味わった。


 日月との修行で少しは強くなれたと思っていた。だがただ自惚れているだけであった。


 彼なら、こんな失態は起こさないだろう。


 彼なら、こんな負傷もおわないだろう。


 私は弱い。


「……ッなぜ。なぜ貴様はそんな顔をッ」


 少女には笑みが浮かべられていた。


 リーダーは確かに大きな怪我を合わせた感覚があった。


 普通なら痛み苦しむはずだ。


 それが少女なら尚更。


 だが、それなのに少女は笑っている。


 一体どう言う事だ。何故。


「もうあなたは終わりよ」


 少女は言った。


「どう言う意味だ」


 そして少女は顔を上げた。


「何故なら彼が――」



 第9話の最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。もしよろしければ、作品の応援をお願いします!


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 第10話もよろしくお願いします。


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