ただの少年
少女の言葉の意味をリーダーは理解できなかった。
もう終わりとはどう言う意味か。
そして彼とは一体何者か。
少女ほどの実力者が言う存在。強者な事は間違いないだろう。
だがそれは――。
リーダーがその言葉を必死に頭を回して理解しようとしていた、その時。
気配、空気の動き、圧、何かはわからない。
が、何かを感じた。
その感じた事を脳が理解する間もなく、リーダーめがけて、足が降りかかった。
当然リーダーは防げるわけもなく、飛ばされる。
何とか姿勢を立て直し、剣を構えた。
「お前はッ――」
リーダーの前には、シンプルなデザインだが質の良い服を着た男の子が立っていた。
「まさか誘拐した。いや、何故ここにいる。あの檻は簡単には抜け出せないはずだ!」
それもそのはず。あの檻は特注の魔金属を使った物だ。魔力を込めたとしてもびくともしない。
単純な筋肉ではもちろん不可能と言って良いほどだ。
だがそれは考えられない。
大人でも無理と言うのに、ましてやこの少年がとなると不可能だ。
だとしたら考えられるのは一つ。
「鍵を開けたか」
それ以外考えられない。誰かに協力してもらったか、鍵穴をいじったのか、そこはわからないがほぼ確定だ。
「どんな方法を使ったのかは知らないが、無事で済むと思うなよ」
少年は笑っていた。
「貴様も笑うのか」
「君いいね」
リーダーはその言葉が何を指すのかわからなかった。少女少年と言うものは理解できないものなのだと、リーダーは理解した。
「何を言っている」
「君名前は?」
「……ラウハートだ」
「ラウハート君か」
少年はやけに余裕だった。
不意打ちで蹴りを入れた事で勝てると確信したのだろう。
甘いな。
これだから少年は。
「馬鹿にするなよ少年」
「馬鹿になどしていないさ。むしろ尊敬すらしている」
「なに?どう言う事だ」
「言葉の通りさ」
「まぁいい」
「なら来い!」
少年が笑みを浮かべて言った。
その言葉を合図にラウハートは踏み込む。
踏み込みによって地面が割れた。
瞬きをするその瞬間に、数メールの距離を一気に縮める。
普通なら流石と言うべき踏み込みだろう。
だが少し物足りない。完璧とは言えないのだ。
「甘いな」
少年が口にしたのはその一言。
ラウハートの剣は確かに少年を捉えていた。そして確実に斬れる。そう確信があった。
だがラウハートの剣は少年の手で止まる。
少年がラウハートの剣を掴んでいたのだ。
「何をッ」
自信のある剣が止められた。それはラウハートにとって屈辱であった。
力も魔力も技も存分に発揮出来ていた。まさに完璧だったはずだ。
なのに止められた。しかも少年に。
そこでラウハートの頭に昔の記憶が少し過った。
ラウハートは頭を叩き、昔の記憶から意識を背ける。
「貴様、ただの少年ではないな。何者だ?」
「僕は……ただの少年。それ以下でも以上でもない。今はね」
「今は?」
ただ少年はその間には答えないが言った。
「来ないのか?」
「……そうだな」
そして剣を振るう。
素早くそして重く半円を綺麗に描くように振られたその剣は確かな歴があった。
ただ、その剣を少年は最小限の動きでかわす。
奇跡的と言うような避け。でもそれを全ての攻撃で体現する。
偶然でも何でもない、この少年の実力だった。
リーダーは自身の実力と少年の実力と比べていた。ただわかったことは差があることだけ。
この少年に、これほどまでの差を感じるなど、あの忌まわしき夜にしか……。
まさか……。いやそれはない。そうであったなら俺は命をかけてでも。
とにかく今はこの少年に集中しなければならない。
ラウハートとは剣を大きく振りかざす。
その瞬間、ラウハートは剣を捨てた。
先ほどの少女を見て学んだ。
即座に取り入れ成長しなければこの世では生きてはいけない。
長年握ってきた剣を捨てるのはプライドが許さないが、それでも勝つためにはそうするしかなかった。
「面白い」
ラウハートは指を折りたたみ、拳に魔力を込める。
剣の癖は抜けないが、それでも拳を構えた。
一発。
ただ当然の如く、止められた。
少年の小さな手の平で、ラウハートの拳は止められたのだ。
が、ラウハートも馬鹿ではない。
それを予測して、直ぐに足を踏み出し、流れるように横に移動した。
殴り、蹴り、回避を繰り返す。
だがそれでも少年に軽く受け流されてしまう。
何故だ。
何故止められる。
出来る精一杯を出していると言うのに。
それでも届かない。
「やはり世は理不尽だ」
「ああ。そうだな」
「貴様に何がわかる」
「君の感じるものは僕にはわからない。けれど僕も思う事はある」
「逃げか」
「逃げね。そう思ってもらって構わない。理解してもらおうとも思わない。そんな事はとっくの昔に辞めた」
少年の目はどこか遠くを見つめるような目だった。それは諦めを感じさせる。
リーダーは思った。
そうだな。この少年も壮絶な過去があるのだろう。
世界に刃向かうものには理不尽が降りかかる。
この少年も例外ではない。
だからこそ、俺はやらなければならない。
ここで勝たなければ、何も掴めないまま終わってしまう。
あの過去の痛みを無駄にしてしまう。
ラウハートは再び剣を握る。
「これで決めよう」
間が空くこともなくラウハートは動いた。
同時に少年も動く。
122と言う名の少女はその光景を隅から眺めていた。
あの子が心配で見にきたのは良いものの、あれは一体。
目にしたのは屈強な男とあの子が戦っている光景だった。
ただおかしい。
あの子はまだ私と同じくらいの年齢に見える。あの剣を握る男はすごく怖い顔をしていて、片腕がない。
子供が大人と対峙して勝てるわけがない。
私はそう思っていた。
でも違った。
負けると思っていたあの子が、屈強な男を押している。
何より、私はあの子の身のこなしが綺麗と思った。美しく、無駄がない。
まさに至高の技。
どれだけの過去を乗り越えてきたのだろう。
あの子は、彼は一体どれほどの孤独を抱えているのだろう。
浅く脆い気持ちを抱いていたことが恥だ。彼はそんな小さいな存在ではない。
ただ彼は美しい。
目を離さずにはいられなかった。
◇
ラウハートは恐怖と一緒に楽しさすら抱いていた。
この少年は同じだと。
持たざる者と。
お互いがそう理解している。
だが、実力の差は歴然であった。
少年は合わせている。
ラウハートもそれをわかっていた。だからこそ悔しくそして醜さを感じるのだ。
それでもだ。諦めるわけにはいかない。
ラウハートのその一撃は少年の胸を斬った。
やっと届いた一撃。
少年の胸からは血が飛び出している。
「これで貴様は終わりだ」
確信した。
あの傷を負ってまともに戦うのは不可能だ。
いずれ少年は死ぬ。ラウハートはそう思った。
だがその瞬間、少年は笑った。
「残念――」
「何がッ」
第10話の最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。もしよろしければ、作品の応援をお願いします!
画面下部にある 【ブックマーク追加】【★★★★★】を押していただくと執筆の励みになります。なので出来るのならどうかよろしくお願いします。
第11話もよろしくお願いします。




