多様性だよね
少女は少し顔を俯かせて言った。
「私の名前は……」
言いたくないのかな。まぁ初対面だしね。
この世界では名前は大事なもので、そう易々と言うもんじゃない。名前が奪われるくらいの世界なんだしね。
「言いたくないならいいよ」
「……122です」
名前が数字のタイプの獣人か。珍しいな。
名付け親はスパイか何かか?どちらにせよすごい名前だ。
まぁ多様性だよね。うんうん。
「僕の名前はジン」
「ジンさんですね」
少女は優しく微笑んでくれる。
そして時は経ち、夜。
「今宵は僕の世界……」
僕の望むシチュエーション。
こんな夜もいだろう。月も笑ってる。
と、そんな時。男達の1人が夜ご飯を持って来てくれた。
「ほらよ」
そう言って投げるように置かれたご飯はお粥みたいな本当に最低限な物。
お皿から飛び散ってほぼゲロだけど。
「いっただっきまーす!」
そんなことは気にせず犬のようにモグモグと顔を突っ込む。
こう言うのは思い切りが大事だ。
そして味という味は、ただ食感があるだけで、味がないわけではないけど味がほぼない感じ。
だから見た目と食感を除けば全然食べられるレベルだ。
少女は少し驚いた顔をして、すぐに可哀想と言わんばかりの顔をした。
今見下したよな。まぁいいけど。
「あんなにも必死に……」
少女は思った。どれほどの過酷な過去を生きて来たのだろう。
こんな状況で平気なフリまでして私を安心させようとしてくれているのだとしたら彼はなんて優しいの。
それに今やっと気づいて、今までで気づいてあげられなかった私はなんて酷い。あの子は私の為に声を掛けてくれたと言うのに。私は泣くばかり。
「ごちそうさまでした!」
その言葉の意味は私にはわからなかった。
「君も食べる?不味くはないから食べれると思うよ」
「た、食べます」
そう言って少女は吐きそうになりながらも完食した。
「ごちそうさまでした」
少女は僕の真似をして言った。
「無理に食べなくていいのに」
「いえ、生き残るためには必要だと思うので」
「そう」
夜ご飯も食べ終わり寝転がって妄想を膨らませて時間を潰す。
少女がたまに僕をチラチラと見てくるが、気にすることでもない。
気にするなんてエネルギーと時間の無駄なのだ。そう僕は効率を求め、時に回り道をするタイプ。
「君は何処から来たの?」
暇だったので質問してみた。
突然だったからか少女はビクッと体を動かした。
驚いた事が恥ずかしかったのか顔が赤くなっている。
「え、えっと。前まではある男の人と暮らしてました」
「へぇ。お父さん?」
「いえ、血は繋がってません。でも私にとってはお父さんでした」
複雑なご家庭なようだ。
「本当の両親はどうしたの?」
「本当の両親は知りません。あの日私は両親に捨てられたので」
捨てられたのか。子供を捨てるとか、両親は何で子供を作ったんだ。捨てる快楽に目覚めたのかな。
「それは災難だね」
「捨てられてから気がつくと私は小さい檻の中に入れられていました。周りには沢山の同じように檻に入れられている子や動物がいて、そこで初めて奴隷にされた事に気づいたのです」
奴隷……。122ってそういう事か。両親には捨てられ、しかも奴隷に。生まれるところが少し悪かったな。でも自分で選んで生まれてくるとも言うし誰が悪いとかではない。スパイではなかったから残念だけど。
「奴隷か」
「はい。ただそんな時。私に光がさしたのです。それがわたしの育てのお父さんです」
そう言うことか。幸せを見つけたんだな。よかったよかった。
「お父さんと暮らす日々は楽しくて、眩しくて、嬉しくて、とにかく幸せいっぱいで。こんな私で良いのかなと当時は思ってました。すごく良くしてくれて、いつも私を笑顔にしてくれました。けど当然そんな平穏は続くわけがなかった。ある日突然としてその平穏は崩れてしまった』
少女は目に泪を浮かべている。うーん。話題ミスった。
「奴隷を買ったことがバレて生きたまま火に燃やされました――」
わー酷い。捨てられ助かったと思ったらまた落とされる。子供が経験するには少し負荷が大きすぎる、かも?多分ね。僕にはわからないからな。
「そうか。辛かっただろう。だが僕は慰めることはできない。それは君を傷つけることになるからだ」
少女はその言葉を聞いて、何故か安心した。
「ただ言えることは、楽しめ。それだけだ」
僕が言えるのはこのくらいだ。何事も楽しめ。それが未来を今を掴むだろう。
「楽しむ……」
少女は笑みを浮かべた。
と、そんな感度的雰囲気だった時に音がした。
それは人の叫び声だった。
「何ッ?」
「始まったようだな」
「どう言うこと?」
「直ぐにわかる」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
月明かりに照らされる薄暗い森。その中にひっそりと佇むアジトの前に1人の少女が立っていた。
「貴様!何者だ!」
アジトの前で護衛をしていた部下が剣をプルプルと震わせながら言った。
部下の男の目の前には、仲間の生首。これもあの少女にやられたものだ。
「我々はノワールよ。私の名はティマと言うの」
薄暗い森に不気味にその凛とした声が響いた。
「ノワール?聞かないな」
当然だった。結成からまだ一年。悪党のアジトなどを潰してはいたが、所詮小さいアジトな上、目撃者もほとんどいない。
「あなた達は罪を犯した。そしてこの世を乱す悪党。よって我々ノワールが罰を下そう」
ティマはシンプルな装飾がされたスタイリッシュな剣を握る。
「馬鹿げた事を言うな。お前らがどんなに大きい組織だろうが、罪を下すなどと不可能なのさ」
「それはあなたの勝手な思い込みね。誰もそれを成してない、だから不可能とでも言うの?」
「ああ。その通りだ。悪いか?」
「いいえ。ただ哀れよ。成していないからこそそこには可能性があるの」
「見栄を張っているのか?所詮少女。その力は不意打ちだったがある程度は認める。だが、甘く見ると後悔するぞ」
「大丈夫よ。私は常にあらゆる可能性を考えて動く。私の大切にしていること」
「良い心がけだな」
「そう」
「余裕ぶっているのか?」
「あなたもでしょう?」
「ハッ。少女のくせに言うな」
「お喋りはここまで」
「そうだな」
少女の小さい体が動き出す。
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