僕はもっと高く売れるはずだッ!!
あれから一年。
僕は11歳になった。
そんな僕は今馬車に揺られている。
ちなみに身内とかでもなく、まったく知らない人だ。用事があるわけでもない。
じゃあなんで乗ってるかって?
縄で縛られている。と、言えば想像がつくだろう。
ティマという少女を檻から誘拐したんだ。僕が誘拐される側になることだってある。
昨日の修行終わりに帰って寝ていたら、急に窓が割られてそのまま連行。
なんで僕がとも思ったが、まぁ貴族の子だ。売れば相当な値段になるだろう。
この世界はそういうものなのだ。
兄や姉を狙えば良いだろうに。僕なんかより2人の容姿は完璧。姉は性格に難ありだけど、女だし美人だし値ははるだろ。
「まぁ無理か」
2人とも剣と魔術の才があるから、誘拐なんて相当な実力者じゃないと不可能だ。
ただそれで僕が誘拐させるのは違うだろ。
まぁいいや。
そしてご紹介しよう。
まず僕の目の前に座って、未だにグースカと寝息を立てている男の子。この子は僕より後に誘拐されて、馬車に入れられた後輩君だ。
ちなみに覚えなくて良いぞ!
そして続きては、僕の横で泣きじゃくっているいたって普通の男の子。この子はこう見えて僕より先に居た先輩だ。
この子も覚えなくて良いぞ!
そして最後。誘拐するのがたったの4人だけで良いのか?とか思ったけど最後だ。
隅で小さくなって震えている銀髪ミディアムの女の子。ちなみにこの子も先輩だ。
なんて紹介して暇を潰しているが、もう昼だ。扉の鉄格子の窓からはうっすらと青い空が見える。
もう少し覗いてみると杉の木みたいな細長い木々が立派に立っている森が見えた。
それ以外は特にだ。
そんな馬車に揺られて、もう昼になったって言うのに何も起こらない。
この馬車の中はずっと重たい雰囲気でそろそろつまらなくなってきた。
最初はなんだ?!イベントか?!と楽しかったけど流石に長い。
待ちが長すぎてもダメと言うことをよく理解していないみたいだな。
今頃、屋敷ではどうしてるだろ。
◇
「え!?ジンがいなくなったって?!」
て、グリル兄さん。そして走って僕の部屋へ。
「これは……」
「窓から侵入されたのね。大丈夫かしら……ジン。お姉ちゃんが必ず助けてあげるからねッ」
「マリカ……。そうだね。私もお兄ちゃんとしてなんとかしなければッ」
「現場から見て誘拐と考えるのが妥当か」
父が言って母が言う。
「何言ってるのよ。そんなこともう皆んなわかってるのよ。今はジンが……あの子はまだ11歳なのよ。きっと不安で震えて泣いているの」
「どうにかしてやりたいのだが、まだ証拠もない上、犯人の足取りが掴めないとなると……」
「無理っていうの?!」
「いや無理ってわけでは」
「もうッ!」
母から膨大な魔力が込み上げ、大気を震わせる。
姉さんも凄く魔力バカだったが、その魔力バカは母譲りなのだ。
「お母さん!」
「今はやめッ」
部屋に少しのヒビが入った――。
◇
「ハックシュッ!」
こりゃやっぱり家族達はワイワイやってるだろうな。
すると泣きじゃくっていた男の子が僕を見た。
「あ、失礼」
なんだこいつみたいな顔で見てくるからびっくりだ。ただのくしゃみだぞ。
と、そんな事は気にしないのさ。
それにティマも心配してるだろうな。昼ご飯今日は持って行けてないし、ごめんだティマよ。なんで考えても着かないよな。
暇だ。とにかく暇。
ただその瞬間。
車体が揺れる。
そして止まった。
どうやら着いたみたいだ。
馬車を運転していた誘拐犯が降りたのか車体が少し揺れ、土を踏む足音が近づく。そして誘拐犯の男は鍵を開けた。
木の扉を開ける鈍い音が光に照らされる馬車に響く。
「眩しい」
馬車の中は暗かった為か、目に入ってきた光はとても強く感じられた。
「降りろ」
誘拐犯が一言。
僕達はその言葉に従い、静かに馬車を降りた。
降りると、馬車にはシートが被される。
「タラタラしてねぇで、早く来い!」
「は、はい!」
あの獣人の少女が怒鳴られる。
そこはアジトの様なものだろう。
木と石で作られた建築で部屋は、ほとんどが地下にあるようだった。
列になって階段を降りていく。
後輩君はやっと起きたのか手を震わせて今にも漏らしそうな表情をしている。
泣き虫先輩も、同じく漏らしそうな表情。
そして降りた先には広い空間が広がっていた。
「連れて来たか」
「今回は4人、しかも貴族だ」
「でかしたな」
その空間には誘拐犯の男以外に3人居た。
1人は濃い赤の、ボロボロフカフカな高級感あるソファに座り、足を組んで酒を飲んでいる。
その横に2人。筋肉質な盗賊って感じ。
僕達はそのまま廊下を歩かされ、牢獄に入れられる。
「いてッ」
そして、先輩と後輩君は別の牢屋。
僕の牢屋には獣人の子が。
「大人しくしてろよ」
そう言い残してさっきの部屋へ戻っていった。
「でかしたな。前回は無かったことにしてやる」
「それは嬉しいですね。しかも今回は銀髪の結構顔がいい娘もいるんですよ」
その横の盗賊みたいな人が言った。
「まじかよ」
「4,500ユールは行く可能性はあるな」
リーダーが真剣な顔に少しの笑みを浮かべて言う。
「よくやった」
そして誘拐犯の男が言った。
「さらに伯爵の息子も連れて来れました」
リーダーが誘拐犯の男の顔を見つめる。
「伯爵だと?」
横の盗賊みたいな人も言った。
「ああ?それは嘘だろ」
「だとしたら9,000ユール、いや10,000ユールもあり得るぞ」
男達は驚いた顔をしていた。
いや10,000ユール?日本円で100万くらいだぞ。ちょっと安すぎやしないか?
うん。やっぱり安い。もっと高くても良いはずだ。
僕は牢屋の中で聞こえてくる男達の会話に耳を傾けていた。僕の耳はいいから全力を出せば、数キロ先まで聞こえるのだ。
「なるほど、これならあの方も喜ぶだろう」
そのリーダーの言葉に僕は引っかかった。
あの方とは一体。ボスなのだろうか。会いたい。
「これで俺たちは」
「ああ。自由になれる」
男達は楽しそうに笑っていた。
聞き耳立てていると、泣き声が小さく聞こえてくる。
獣人の子だ。
どう言った行動を取るべきか、悩むがとりあえずやってみるしかない。
「大丈夫?」
少女は顔を上げて僕をみた。
少女は宝石のように美しい水色の瞳をしている。
僕の問いかけに答えれないみたいだ。体が強張り声も上手く出せないのだろう。
「ゆっくり深呼吸しようか」
その言葉が届いたのか、その子は呼吸をゆっくりと落ち着かせた。
早かった心拍も落ち着いていき乱れていた呼吸も安定する。
「……あ、ありがとうございます」
「いいよ。誘拐されたよしみだ」
「ありがとうございます」
声を震わせながらも少女は言った。人見知りだろうな。
「君名前は?」
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